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勇者の弟子  作者: ヤス
アヴァロンの試練

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89/96

89話、アヴァロンの試練17

エドラたちが激闘を繰り広げているその裏側でもうひとつの「均衡」が崩れようとしていた。

陽光すら拒むような鬱蒼とした木々の合間にエドラたちを後方から指揮する拠点がひっそりと佇んでいた。


そのただ中に一人の男が静かに、しかし圧倒的な威圧感を持って立っていた。


イーサン――


その男の眼差しは冷徹な槍のように一行を射抜いていた。


「イスカ、後ろへ下がって…!」


マーリンが鋭い声を上げ、娘のイスカを背後へと促した。

母の言葉に従い、イスカは不安げな表情を浮かべながらも後退する。

それと同時にマーリンが武器を構え、エリーと共にイーサンの前に立ち塞がった。


「・・・・・・女子供を相手にするのは気が引ける」


イーサンは深くため息をつき、落胆の色を隠そうともせずに声を零した。

まるで、自分の時間という貴重な財産を価値のない何かに浪費させられていると言わんばかりの態度だった。


「私たちを襲わない保証はあるの?」


エリーが厳しい口調で尋ねる。


彼女の額には、一筋の汗が流れていた。

イーサンから放たれる、暴力そのものが凝縮されたようなプレッシャー、 それは彼女の呼吸を乱されるほどに鋭いものだった。


「俺は弱い生き物と戦う趣味はない。獲物の価値は、その命を刈り取る時にどれだけ抗えるかで決まる」


イーサンの言葉に、マーリンの瞳が僅かに細められた。

どこか突き放したような、しかし揺るぎない絶対者としての矜持。

母親として背後の娘を感じながらもその闘志は戦士としての鋭さを増していく。


アーサー(アイツ)と似たようなことを言うじゃない、アンタ・・・・・」


強者との殺し合いのみを渇望し、弱者を眼中にすら入れないイーサンの姿。

マーリンはそこにかつて共に旅をしたアーサーの影を重ねていた。


イーサンは僅かに口角を歪めるとゆっくりと腰の得物に手をかけた。

ただそれだけの動作で、周囲の空気が凍りついたかのように重くなる。


「だが、お前たちの中で強い奴がいれば少し話が変わるかな」


その時だった。


(……っ!?)


岩山の方向から溢れ出した強大な魔力がマーリンの肌を刺した。

彼女は弾かれたように視線を向け、顔を強張らせる。


(あそこの岩山から・・・・・・なんて魔力なの、しかも、どんどん島の奥まで浸食している。・・・・・・あそこは不味いわ!)


そこには、以前アーサーが適当に並べていた「憶測」が、最悪の形で現実味を帯びて感じられる恐怖があった。

海賊たちと戦う少し前、アーサーは団員たちを前に欠伸をしながらこの島の「伝承」を語った。


「ここアヴァロンは島全体がダンジョンだが、中でもあそこの岩山……………あの洞窟は別格だ。女神が羽を休めたなんて清廉な言い伝えがあるが、実際はそんな御大層な宝なんてありゃしないだろう。ただ女神が留まったせいで、行き場を失ったマナの残滓が強烈に澱んでいるだけだ。適当な秘宝目当てに海賊どもが騒いでるが濃度の濃いマナがあるだけ」


真面目に語っているのかそれともただの当てずっぽうなのか判然としないアーサーの言葉。

だが、今この肌を刺すプレッシャーはその適当な警告が真実であったことを告げていた。


「エリー、娘を連れて生き残っている団員たち全員に連絡して今すぐ洞窟に行って・・・・・この男は私が食い止める」


「でも、お母さんが・・・・・」


「イスカ!私は大丈夫だからエリーと一緒に行きなさい!」


マーリンが錫杖をイーサンに向ける。

イーサンは両の拳をゆるく握り込み、無造作に構えを取った。

ただそれだけの動作で、周囲の空気が凍りついたかのように重くなる。


「この魔力アンタなら少しは楽しめそうだな」


イーサンの瞳に昏い興奮が宿る。

その拳には、岩山の魔力に呼応するかのように禍々しい輝きを放つ魔力が渦巻き始めていた。

岩山から放たれる未知の魔力と、眼前に立つ最強の刺客。


森を渡る風が止まり、絶体絶命の静寂が一行を飲み込もうとしていた。

エリーはマーリンの厳しい叱咤に弾かれるようにして、イスカの小さな手を強く握った。


背後で爆発するであろう死闘の予感に震える心を抑え込み、岩山の洞窟へ向けて森を駆け抜ける。

疾走する振動の中、エリーは懐から通信魔道具をひったくり島中に散開している団員たちへ向けて叫んだ。


「総員へ緊急連絡! 動ける者は今すぐ岩山の洞窟に集結して! 既に島の最深部まで海賊の魔の手が迫ってる・・・・・・急いで、時間が無いの!」


悲鳴に近いその通信は、静まり返った森の各所でエドラたちの耳に届いた。

感じたこともない不吉な魔力の波動。

エドラたちは顔を見合わせて言葉を交わす暇もなく目的地である岩山へと一斉に走り出した。


イーサンを抑えるため一人拠点に残ったマーリンは手にした錫杖を力強く地面に突き刺した。

「シャン」と遊環が鋭く鳴り響くと同時に、イーサンの足元を中心に巨大な光の幾何学模様がまるで地を這う蛇のように高速で展開し始める。


次の瞬間、展開された光の魔法陣はその輪郭を鋭利な刃へと変え、巨大な丸鋸のごとき唸りを上げて回転を開始した。


「なかなかエグい戦い方だ! だが・・・・・ッ!」


イーサンは地を蹴って後退すると同時に、叫んだ。


彼の足元から、退路を確保するように無数の光の枝が伸び、盾となって重なり合う。

それは自然の木というよりは、鋭い多面体で構成された「幾何学模様の樹木」だった。


「木!? いや、防御魔法ね………………」


マーリンは冷ややかに呟く。


だが、その攻撃の手を緩めることはない。

高速回転する光の円刃は、防壁として生えたばかりの硬質な木々を乾いた紙のように容易く切り裂いた。

火花のような魔力の残光を撒き散らしながらマーリンの魔法は障害物こと獲物を薙ぎ倒さんとその回転速度をさらに上げていく。


破壊の余波、舞い上がる魔力の塵の向こうに標的の影が浮かぶ。


マーリンが空を指さすとそこにはいつの間にか巨大な魔法陣が重層的に展開されていた。

鈍い光を放ちながらゆっくりと回転を始めた大陣が、その中心に天界の熱を凝縮させていく。


「逃がさないよ」


マーリンの呟きと同時に魔法陣から巨大な光芒が垂直に射出された。

まるで天が地を断罪するかのような暴力的なまでの閃光が、逃げ場を失ったイーサンの頭上へと無慈悲に降り注がれた。



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