60話、賢人たちの逆襲23
(三分……………,三分で、どいつもこいつも皆殺しにしてやる)
ベルフェゴルは短く、深く一呼吸し、標的をエドラへと定めた。
瞬間——世界から音が消えた。
「な……?」
エドラが異変を察知した時には、すでに手遅れだった。
視界からベルフェゴルの姿が消失し、背後から凍り付くような殺気と巨大な影が覆いかぶさる。
漆黒の両手剣が空気を断ち切る鋭い音を立てて振り下ろされた。
背後に回られたエドラは、反射的に前転して間合いを外そうとした。
だが、その決断はコンマ数秒だけ遅かった。
「――か、はっ・・・・・・!」
漆黒の両手剣がエドラの背を深々と引き裂く.。
斬撃の衝撃と、剣から放たれた凄まじい風圧に身を焼かれてエドラの身体は木の葉のように宙へと弾き飛ばされた。
「ふっ......は …」
地面を何度も激しく転がり、ようやく止まる。
肺から空気が強制的に押し出されて彼は意識を繋ぎ止めることさえ困難なほどの激痛に身を震わせた。
「これで4人目ぇ!!」
無防備なエドラヘベルフェゴルが無慈悲な一撃を叩き込もうとする。
だがエドラの姿がフリードの放ったセプタグラムと入れ替わった。
「何っ……!?」
ベルフェゴルが虚を突かれた刹那、アランの空間魔法が発動する。
死角へと転移したエイワス翁とアリアが、武器を構え肉薄した。
「「うおおおおお!」」
二人の渾身の強襲。
さらに、彼らを援護すべくフリードのセプタグラムが激しく明滅し、
無数の光線を掃射する。
「させるかぁッ!」
ベルフェゴルは驚異的な反応速度で剣を振るい、左右からの猛攻と光線の雨を強引に弾き飛ばした。
だが、その防御はあくまで「水平方向」へのもの。
「頭がガラ空きだよ!」
アランの空間魔法は、すでに次の一手を打っていた。
ベルフェゴルの直上に出現したリーラが魔力の奔流を束ねた光槍を無防備な脳頂へと真っ逆さまに投影する。
「くたばれ!クソ悪魔ああああああ!」
ベルフェゴルは光槍をギリギリですも光槍の余波が肉体に当たり呻き声を上げる。
「うああああああああ!このクソンアマがああああああ!」
「きゃあああああ」
漆黒の斬撃がリーラのリングに直撃する。
「チク・・・・・・ショッ!」
「リーラ!!」
ベルフェゴルの反撃がリーラのリングを粉砕した。
光の粒子となって現世へ強制送還されていく彼女の姿に、アランの顔が戦慄に歪む。
有効打を失った事実に一瞬の動揺が走るがアランは歯を食いしばり、すぐに意識を戦場へ引き戻した。
間髪入れず空間魔法を展開してアリアたちの追撃を支援する。
「その空間魔法、鬱陶しいんだよおお!クソガキがあああ!」
苛立ちを爆発させたベルフェゴルが標的をアランに絞り、地を穿つような速さで突撃する。
(ダメだ・・・・・・・・連すぎる、間に合わない・・・・・・・!)
死の予感がアランの背筋を凍らせる。
だが、衝突の直前――。
アランの体が、ふわりと浮遊していたセブタグラムと入れ替わった。
ベルフェゴルの剣は、空しく虚空を裂く。
「残念だったな。俺の左目にある『星の目』.......これは対象と『星』を強制的に入れ替える魔法だ」
「お前もお前で、目障りなんだよ…………………!」
冷徹に能力を告げるフリードに、ベルフェゴルは憎悪に満ちた声を絞り出した。
「アラン、人間とエルフ の魔法で仲間を援護しながら、ベルフェゴルを翻弄するぞ!」
「任せろ!」
アランの力強い返唱とともに、二人の魔法が戦場を支配した。
フリードが放った無数のセブタグラムが、雨あられと光線を浴びせてベルフェゴルの足を止める。
それと同時に、フリードは『星の目』を酷使しながらも前線のアリアとエイワスをセプタグラムと入れ替え、変幻自在な位置取りで翻弄した。
「右か、いや左かっ・・・・・・・・!?」
ベルフェゴルがそのスピードに惑わされた瞬間、アランが動く。
「今だ、エドラ!」
アランの空間魔法が最短距離で「道」を繋ぐ。
その出口から飛び出したエドラが、ベルフェゴルの完全な背後を捉えた。
「死ねえええ!」
「お前の剣など、今の俺に効くものか・・・・・・!」
背後を取られてなお、ベルフェゴルは慢心とともに振り返る。
だが、そこで彼が目にしたのは、いつもの水を纏った剣ではなかった。
エドラの右腕は、溢れんばかりの光を凝縮させた「光の銃剣」と化し、激しく脈動していたのだ。
(しまっ・・・・・・!?)
ベルフェゴルがその「属性の変化」に気づいたときには、すでに勝機は決していた。
「.......確かお前、光が弱点だったよなぁ!」
エドラは獲物を追い詰めた猛獣のようにニヤリと口角を上げる。
逃げ場のないゼロ距離。
光銃剣の銃口がベルフェゴルの肉体に深々と押し当てられた次の瞬間、爆発的な光弾がその身を至近距離から穿った。
「ぐああああああ」
光弾の威力に絶叫するベルフェゴル。
「やったか・・・・・・!?」
確かな手応えにエドラは光銃剣を構えたまま、光の中に消えゆくベルフェゴルの影を見つめた。
勝利を確信した空気が一瞬流れる。
しかし一一。
「・・・・・・お前ら雑魚共の光魔法で、そう簡単に死んでたまるか」
立ち込める煙を割り、怨嗟の声が響いた。
そこには、半身を焼かれながらも不気味に再生を始めるベルフェゴルの姿があった。
「俺の心臓を潰さぬ限り、俺は何度でも、黄泉の淵から這い上がってやる!」
その宣言とともに放たれたのは、先ほどまでとは比較にならない濃密な殺意だ。
全員の背筋に冷たい戦慄が走り、思わず表情を強張らせる、
「黙って逃げればよいものを、わざわざ首を突っ込んでくるとはな・・・・・・! 一人残らず、塵も残さず殺し尽くしてやるっ!」
ベルフェゴルの魔力が膨れ上がり、周囲の空気が重く、どろりと変質していった。
「だったら、お前が死ぬまで何度でも光をぶつけてやるよ!」
エドラは叫び、激しく脈動する光銃剣の切っ先を突きつけた。
溢れ出す光の粒子が周囲を白く染めるが、対峙するベルフェゴルは避ける素振りすら見せず、ただ不敵に口角を吊り上げている。
(・・・・・・ちょうど三分か)
周囲の喧騒が、ベルフェゴルの意識の中で遠のいていく。
(ようやく整った、言霊の再詠唱が可能になるまでの、退屈な三分間がな――)
彼がその冷徹な瞳を細めた瞬間、戦場の空気が凍りついた。
「遊びは終わりだ、ゴミとも」
ベルフェゴルが再び言霊魔法使えるようになるタイミングを見計らって、エイワス翁はエドラたち面々にかつて対処した攻略を伝える。
「皆、聞くのじゃ、ベルフェゴルの言霊は非常に強力だ。奴の言葉を少しでも許せば一気に全滅してしまう。だから奴の喉元を声帯ごと裂いてエドラの光魔法で奴の心臓に打ち込むのじゃ」




