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勇者の弟子  作者: ヤス
賢人たちの逆襲

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53話、賢人たちの逆襲19

その頃、エドラは人間への復讐に囚われた悲しきエルフ、アランと激しい攻防を繰り広げていた。


エドラはアランの空間魔法と魔弾の組み合わせに翻弄されながらも光銃剣で拮抗していた。


「なぜ!お前たち人間はいつもいつも僕たちの邪魔をする!」


アランの悲痛な叫びが、異界の空気を震わせる。


ただ愛する姉に会いたい。

尊敬するエルフの長に会いたい。

ただそれだけなのにアランの切実な思いとは裏腹にただの「人間」であるエドラが自分の前に変わらず立ち塞がる。


「ああ邪魔はするさ! お前が破滅の道へこれ以上進まないようにいつでも邪魔してやる!」


エドラは最初からアランと戦うつもりはなく、ただ復讐で自分を見失いかけるアランを必死に止めようとしていた。


エドラの叫びもまたアランの魔弾を押し返すほどに鋭かった。


エドラに、アランを討つ意思はない。


復讐という名の毒に呑まれている自分を見失いかけている「悲しきエルフ」を無理矢理にでも現実に繋ぎ止める――。

その一心だけで、エドラは光銃剣を握り直して、アランに特攻する。


「僕に近寄るなぁぁ!人間!」


アランは声を荒げて銃口をエドラに向けて発砲する。


放たれた銃弾がアランの空間魔法で次元の穴を通して、エドラの足元から牙を剥く。


直撃かと思われたが、エドラはわずかな身のこなしでそれを無力化した。


視線はすでに、弾丸の出口である「穴」に固定されている。


「お返しだ」


閉じる間も与えず、エドラは自身の足をその穴へと蹴り込んだ。


直後、アランの眼前で空間が歪む。自身が生成した次元の穴から飛び出してきたのは、あろうことか敵の重い蹴りだった。


「グ....アアっ!」


重たい蹴りに脳が大きく揺れてアランの意識に数秒の遅延が起きる。

アランは奥歯を噛み締め、ふらつく足を強引に地面へ踏みしだいた。

倒れることだけは拒絶する。


しかし、その必死の抵抗すらエドラにとっては格好の標的でしかなかった。


(倒れるな!倒れるな!)


地面を蹴る音。肉薄する気配。


アランが顔を上げた瞬間、エドラの左拳が視界を埋め尽くした。


「おおおおお!」


剣を捨てたも同然の荒々しくも重い一撃。


それが再び、アランの顔面を捉えた。


二度目の衝撃、ついにアランの足から力が抜けて背中から地面へ崩れ落ちた。


「がはっ……!!」


追撃の手は止まらない。

エドラは倒れたアランに馬乗りになり、容赦なく拳を叩きつける。


「お前はあのジェイコブに利用されているだけだ! 復讐心を焚きつけられて都合のいい道具にされているんだぞ!」


殴打の隙間からエドラが叫ぶ。

だが、アランの瞳に宿る炎は消えていなかった。

アランは強引にエドラの腕を掴み、渾身の力でその体をひっくり返す。


「そんなこと・・・・・・・知ってる! 分かってるんだよ!」


今度はアランが上になり、狂ったように拳を振り下ろした。


「だから僕らもあいつを利用して、最後には切り捨てて殺すんだ! それだけの話だ!」


乱闘の最中、エドラの手がアランの首を捉えた。

指が食い込み、気道が閉ざされる。


「……お前たちがそんなことしてもお前の家族も!友人も!誰も帰ってこない! お前たちの家族は誰一人、復讐(そんなこと)しても誰も喜ばない!全員悲しくなるだけだ!」


肺が焼ける。

空気を求める本能がアランに躊躇を捨てさせた。


その細い指先が、眼前に迫るエドラの両目を鋭く狙う。


「……ッ!」


失明を恐れたエドラが首元を放して横へと転がった。


激しく咳き込みながら、アランは立ち上がる。


その瞳には狂気の色が混じり、歪んだ笑みが唇に浮かんでいた。


「僕の姉さんは悲しまないさ! むしろ褒めてくれる! よくやったって、僕を抱きしめてくれるんだ!」


両腕を広げ、見えない姉を抱擁するように叫ぶ。

それは復讐を正当化するための悲痛な自己暗示だった。


「・・・・・・・いいや、お前の姉ちゃんは褒めやしない。正当化もしない」


エドラは土埃を払い、鋭い眼光でアランを射抜いた。

その声には妄執を切り裂くような冷徹な響きがあった。


「むしろ、さらに悲しむだけだ。復讐は誰一人幸せにならない!」


荒い呼吸だけが響く中、二人の視線が地面に転がった得物へと注がれる。


先に動いたのはアランだった。

泥にまみれた銃を拾い上げて震える銃口をエドラへ向ける。


「・・・・・・頼むから、もう僕たちを放っておいてくれよ。これ以上、僕を否定しないでくれ」


その声は懇願のようでありながら、拒絶の刃を含んでいた。


対するエドラは、迷いのない手つきで剣の柄を握りしめる。


「嫌だね。お前たちが復讐を諦めるまで、俺は何度でもお前たちの前に立って何度でもお前たちの復讐を否定してやる」


剣を引き抜き、正対する。

エドラの拳には先ほどまでの殴打でついた返り血が滲んでいた。


アランは震える指で引き金を絞った。

放たれた一発の銃弾。

だが、エドラはそれを反射的に一閃して火花と共に両断する。


「………!?」


エドラが地を蹴り、一気に距離を詰めてくる。

アランは狂ったように次弾を撃とうとしたが、指先に伝わったのは鈍い手応えだけだった。


泥が銃身に噛み込み、致命的な弾詰まり (ジャム)を引き起こしていた。


(――しまっ、!)


思考が凍りつく。

その目の前で、エドラの剣が猛烈な火炎を噴き上げた。

炎は渦を巻き、巨大な拳へとその姿を変えていく。


「いい加減に目を覚ませ、この大馬鹿野郎――っ!」


灼熱の拳がアランの腹部を捉えた。


爆発的な衝撃―――


アランの体は木の葉のように宙を舞い、そのまま扉を突き破り、別の肩へと吹き飛ぶ。


扉の向こう側へと吹き飛んだアランを追い、エドラもまた境界を跨いだ。

煙を吐く地面を遣いながらアランは執念で顔を上げる。

エドラに反撃すべく無理やり体を起こそうとしたが――

直後、彼は金縛りにあったかのように硬直した。


「あ、あなたは……っ」


掠れた声が漏れる。

視界の先に佇んでいたのはかつてアランが心から尊敬し、エルフの里の精神的支柱であった長――エイワス翁だった。


「エイワス……翁…」


憎悪に染まっていたアランの瞳に、子供のような困惑と動揺が走った。


「その声、その姿・・・・・・・アラン、か」


驚きに目を見開くエイワスへ。

アランは稚り付くような眼差しを向けた。


「なぜ・・・・・、なぜこの世界に来た?」


前の問いに、アランは震える声で答える。


「それは、あなたや姉さんを迎えに・・・・・・・・・・僕らが正しい場所へ連れ戻すために・・・・・・っ」


「何をしとるんだ!お前たちは!」


翁の咆哮がアランの言葉を力尽くで遮った。

翁の老いた、しかし力強い両手がアランの肩を強く掴み、その体を激しく揺さぶる。


「な、なんだ一体」


思わぬ光景と翁の咆哮と迫力に追いかけてきたエドラも硬直する。


「世界の(ことわり)を歪めてまて、こんな場所へ……。馬鹿者共か、何を考えている」


翁は深く、重いため息をつき、震える手で自身の額を覆った。


彼は、すでに運命(さだめ)を受け入れていた。


この冥府の地で生を終えて安らぎを全うしようとしていたエイワス翁にとって、アランたちが犯した禁忌は救いなどではない。

平穏を乱し、(ことわり)を汚す。

受け入れ難い傲慢でしかなかった。


「エルフの里を再興するには、どうしても貴方の知識が必要なんです! エイワス翁、貴方がいなければ!!……っ」


必死に縋り付くアランの声。

だが、翁はそれを烈火のことき一喝で撥ね退けた。


「馬鹿者!いつまで過去の遺物に縋り付いているのだ!里の再興とは、死人を担ぎ出すことではない。今を生きるお前たち若者が、その手で新しく築き上げていくものだろうが!」


翁の声が狭い空間に響き渡る。

アランの方針を、その根底から叩き潰すような峻烈(しゅんれつ)な拒絶だった。


「いやあ、感動の再会だ! じつに素晴らしい!!」


静まり返った空間に、乾いた拍手の音が孤独に響き渡った。

冷笑を張り付かせた声の主はソロモン教団の教祖、ジェイコブだ。


「ジェイコブッ!」


エドラはいち早く反応し、剣先をアランからその怪しげな男へと向け直す。


――場に漂う空気が一変した。


エイワスは静かに、しかし深淵を覗き込むような鋭い眼差しでジェイコブを見据える。


「ほう……なるほどな。この若者たちが、これほどの愚行に走った理由が見えた。・・・・・元凶は、貴様か」


「ジェイコブ....何しに来た!!」


アランも鋭い眼光でジェイコブを睨む。


「いやいや、アランがピンチだから助けに来ただけだよ」


白々しい嘘の言葉を並べるジェイコブ、


「下らん、猿芝居は止せ!どうやら貴様を始末しきれなかったワシと『アレイスター』の不始末でこうなった様じゃな」


(アレイスターだと?)


翁の言葉にアランは反応する


その瞬間、空気そのものが爆ぜた。


エドラたちの動体視力を遥かに凌駕する速度で、紫電の槍が空間を貫く。狙いはジェイコブの喉元。


一撃で魂を焼き切るほどの雷光が、ジェイコブに直撃する。


「やれやれ、ガキどもは誤魔化せても流石にお前のような爺には誤魔化しきれないか.....」


土煙を払い何事もなかったかのように姿を見せたのは顔の半身が黒く禍々しい影に覆われた人とならざるモノの姿をしたジェイコブだった。


「!?」


「なんだこいつは!?」


ジェイコブの異形な姿に驚愕するエドラとアラン。


翁はすべてを見知ったかのようにその存在に語り掛ける。


「いつまで人のフリをし続けるんだ?のぅ、『魔王の残骸(レギス・レリック)』いや『ベルフェゴル』よ」


それはジェイコブではなく人の皮を被った『魔王の残骸(レギス・レリック)』の一人ベルフェゴルだった。




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