表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の弟子  作者: ヤス
賢人たちの逆襲
49/96

49話、賢人たちの逆襲15

アラン達が『輪廻逆転』を王都教会で発動した後―――王都の街中は異様な空気に包まれていた。

エドラとサリーは、ざわつく群衆をかき分けるように街中を急ぎ駆けていた。


「エドラ、なんか急に空気が重くなってきてない? 息苦しいというか・・・・・・・」


サリーが不安げに尋ねる。


「サリーもか。俺もそう感じていた。まるで、何かに押さえつけられているような、不気味な重さだ」


二人が違和感を感じていたその時―――。


街のあちこちから、まるで堰を切ったように様々な叫び声が沸き上がった。


「やった!本当に復活したぞ!」


「これで、あの世で果たせなかった約束を! 息子に会いに行ける!」


「よし!まずは、殺してくれたあいつに復讐しにいかないと気が済まない!」


頭上に光を放つ光沢のリングを浮かべる死者たる前世の魂たちの剥き出しの歓喜と、その突然の変貌に現世の生者たちはただただ戸惑うばかり。


歓喜の叫びと恐怖の悲鳴が混ざり合う、この歪な光景に王都の群衆は一気に混乱の渦に飲み込まれた。


「なによ……これ」


サリーは思わず息を呑んだ。


「少なくとも悪霊が、街の人たちを乗っ取ったって感じだな」


エドラは瞬時に状況を分析する。


「人間、人間、憎い、憎い、お前たちが憎い!」


異様な怨嗟の声を上げながら、立ち止まる二人の背後から光沢のリングを浮かべた数人の一般人が顔を歪ませて二人に襲い掛かる。


「なんだこいつ!? 動きが尋常じゃないぞ!」


「エドラ、ここに居ても危険よ! この数を相手にするのは無理だわ。すぐ離れないと!」


「だな!」


襲い掛かる一般人を力強く跳ね除けて二人は人混みを抜け、高く聳え(そびえ)立つ教会へと足を運んだ。


教会に辿り着くと、そこにはマクシルとアランの激闘の爪痕だけが不気味な静寂の中に残されていた。


「ここで・・・・・・一体、何が起きたんだ?」

無残に破壊された祭壇や砕け散った石畳を目の当たりにし、エドラは呆然と言葉を零した。


「エドラ・・・・・・か?」


静まり返った礼拝堂の奥から響いた声に、エドラは鋭く目を向けた。

そこにはアリアとそしてフリードが立っていた。


「アリアさん! それに・・・・・・・・・ヴェルゼビュート!?」


フリードの肉体を奪っているヴェルゼビュートの姿を見定めて、サリーは瞬時に魔導書へ手をかけ身構える。

しかし、その瞳の奥に宿る光を見抜いたエドラがすぐさまサリーの前に手を 出して制止する。


「サリー、大丈夫だ。ヴェルゼビュートじゃない、フリードだ」


「え……?」


サリーは信じられないといった様子で、構えを解かぬまま絶句した。


「エドラ、心配をかけたな」


フリードが穏やかな微笑みを向けると同時、エドラはその顔面へ迷わず拳を叩きつけた。


「「エドラ!」」


アリアとサリーが驚愕して声を上げ、止めに入ろうとする。

しかし、フリードはそれを手で制した。

「・・・・・・いきなり約束を破ってんじゃねえよ! アリアさんが、どれだけお前のことを思っていたか・・・・・・・お前は、これっぽっちも分かってねえ!」


拳を握りしめたまま、エドラの声が激しく震える。

再会の喜び、勝手に消えようとした怒り、そして悲しみ――様々な感情が彼の中で渦巻いていた。


「ああ、すまなかった、エドラ。・・・・・・もう二度と、アリアを一人にはさせない。約束する」


フリードは避けることもせずエドラの拳から伝わる重い想いをそのまま真正面から受け止めた。


フリードとアリアは、これまでに起きたことのすべてをエドラとサリーに説明した。


「事態を収束させるには、まず暴走するエルフたちを止めなければならない。そして、その裏で糸を引くソロモン教団の野望を・・・・・・今度こそ完全に打ち砕く必要がある」


フリードはその挙をみしりと強く握りしめた。


「そうなると、現世を侵食している『冥府の扉』を閉じなければなりませんね」


事態の深刻さを把握したサリーが、確認するようにアリアへ問いかける。


「ああ。そして、歪んだ憎しみに囚われた奴らの復讐心も、解放してやらねばなるまいな」


復讐という名の呪縛に呑まれ、街を破壊し続けるエルフたちに思いを馳せ、アリアは悲しみに満ちた憐憫の目を向けた。


「まあ、難しいこと考えず、シンプルにアランをぶん殴る! それで充分だろ!」


複雑な事態を飲み込みきれないエドラだったが、彼なりに導き出した単純明快な答えに全員が顔を上げた。

話がまとまりかけた。


その時―。


地響きのような轟音とともに、暴徒と化した前世の魂たちが教会へ押し寄せてきた。

頭上に光沢のリングを浮かべた死者たちの群れが、獲物を求めて教会の扉へと殺到する。

そして教会の周囲も前世の魂たちが集まっていた。


「・・・・・墓地(マイホーム)の教会にお帰りかよ。だが悪いな、ここはあいにく満席だぜ」


「下らん冗談を言っている場合か! 全員、構えろ!」


アリアの鋭い一喝で、四人は一斉に戦闘態勢を整える。


その瞬間――。


教会の壁を突き破らんばかりの勢いで、四方から轟音が響き渡った。


「遅くなってすまない、これより加勢する!」


押し寄せる死者の群れを正面から蹴散らしたのは、『黒い炎』の拠点制圧から帰還したばかりのガラハッド率いる精鋭部隊、そしてナタリアの別動隊だった。

さらに、上空のステンドグラスを突き抜けて無数の氷矢と不気味な赤黒い矢が雨のように降り注ぐ。


「待たせたな!」


見上げれば、そこにはエリーたちが操る飛空艇と化したスカイホークアジト、そして戦線復帰したスカイホークの全団員が空を埋め尽くさんばかりの威容で駆けつけていた。


「なんか外が騒がしいと思ったら、お前ら来てたのかよ」


廊下の奥から、呆れたような声と共にアーサーが現れた。

その背中には、イスカとマーリンの二人がしっかりと背負われている。


「オイオイ、ナタリア! 見てくれよ、アーサーの奴・・・・・・・この非常時に子連れで参戦か?」


ガラハッドが目を丸くして茶化すと、ナタリアの額に青筋が浮かんだ。


「貴様! こんな馬鹿げたほど忙しい時に、一体何をしているんだ!」


「うるせえお前ら! これも立派な仕事だよ!」


降り注ぐ矢の音と怒号が響く中、アーサーは背中の二人を落とさないよう踏ん張りながら、悪びれる様子もなく怒鳴り返した。


「ランスロットはどうした?」


アーサーの問いに、ナタリアは冷静に応じた。


「奴なら既に必要な指令を下し、一足先に『冥府の扉』へ向かっている」


「相変わらず仕事が早いな」

ナタリアはフッと信頼の混じった笑みを浮かべる。

しかし、その笑みはアーサーの次の一言で凍りつくことになった。


「ナタリア、ガラハッド。・・・・・・悪いニュースがある。マクシルの旦那のことだ」


アーサーの表情から色が消えて声が一段と低くなる。


「旦那はアランと交戦し、俺が駆けつけた時にはもう・・・・・・・非業の戦死を遂げていた」


「「……っ!?」」


ナタリアとガラハッドは息を呑み、言葉を失った。

教会の喧騒が遠のくほどの衝撃がその場を支配した。


「.........長官の死を無駄にさせない! この戦い、何があっても絶対に勝つぞ!」


ナタリアは溢れそうになる感情を強靭な意志で抑え込み、周囲を鼓舞するように叫んだ。


「団長、地下の祭壇へ向かいましょう。『冥府の扉』・・・・・・・いえ、その先へ逃れた『黒い炎』を今すぐ止めなければ!」


アリアがアーサーへ鋭く進言する。


「分かった。エドラ、サリー、アリアは先に行け! ここはガラハッド、ナタリア、俺、そしてギルドメンバー全員で食い止める。ここを片付け次第、すぐに冥府へ追い付く!」


「「「はい!」」」


三人は同時に返事をする。


「アリア、俺も行く」


フリードがその一歩を踏み出した。


「フリード・・・・・・その左目が見えない状態で大丈夫なのか?」


心配そうに問うアリアに対し、フリードは前髪を払い、左目をさらけ出した。そこには鈍い光を放つ欠片が、新たな瞳のように埋め込まれていた。


「左目の代わりに『星』を埋め込んだ。この因縁には、俺自身の手でケリをつけなければならないんだ」


「フリード・・・・・・『俺』じゃなくて『俺たち』だろ!」


アリアの真っ直ぐな言葉に、フリードは一瞬驚いたように目を見開き、やがて優しく微笑んだ。


「よし!待ってろよ!エルフ共!」

エドラ、サリー、フリード、アリアは地下祭壇へ駆け下りる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ