45話、賢人たちの逆襲11
激しい激闘を終えて辛うじて勝ち逃げしたアランは、よろめきながら教会地下の祭壇に移動させた仲間たちと合流する。
「「「アラン!」」」
全身に深い傷を負い、ボロボロで満身創痍のアランをジェラルドを筆頭に『黒い炎』の面々が一斉に心配して駆け寄る。
「ハハ、さすが騎士団のトップだけはある。なかなかの強敵だったよ」
アランは乾いた笑いと共に軽口を叩きながら、もはや自力で立っているのも限界とばかりに壁にもたれ掛かり、静かに腰を下ろした。
「さまぁないね・・・アラ坊」
言葉と共に部屋の隅の間の奥からリーラが冷たい笑みを浮かべて顔を覗かせる。
リーラは回収した魔石を手のひらで転がしながら、ぐったりと意識を失ったマーリンの襟を掴んでいた。
「リーラ!魔石回収してくれたんだね!」
魔石を見事に回収してくれたリーラにアランは傷の痛みも忘れ、喜びを見せる。
そんなアランを他所にリーラはどこか不機嫌だった。
「まったく。君があのガキを勝手に連れ出さなければ、こんな面倒なことにならずに簡単に済んだもの」
「悪かったよ、リーラ姐。こっちも余裕がなかったんだ」
「まあ、無事に回収できたんだから結果オーライだ!」
そう言って二人の間に割って入ってきたのはウイリアム、「黒い炎』のメンバーでアラン、ジェラルド、リーラと同じエルった。
彼はその場に漂う重い空気を明るく振舞った。
「ウィル!君は優しすぎだよ!しっかり釘を刺しておかないとアランはいつまでたってもセシル、いや、亡き姉離れができない悪ガキのままよ」
「まあまあリーラ、そう言うなよ」
ウィリアムは、苛立ちを隠さないリーラに宥めるように声をかけた。
「準備は整った。本当にやっていいんだな?」
ジェラルドが傷薬の薬液を飲むアランに強い視線を向けて、念を押すように確認した。
「ジェラルド、僕たちはこの組織を立ち上げた時点でもう後戻りは出来ないんだ。迷いはないやってくれ」
アランの瞳の奥に燃える覚悟の澄んだ強い眼を見たジェラルドは頷き、安心したかのように魔導書を開いて儀式を始めた。
魔法陣の中央に置かれた魔石と戦闘中ひそかにアランが回収したマクシルの生々しい血痕を最後の贄として捧げた。
黒紫の光を激しく放ち、教会、いや、地下の祭壇が轟音と共に激しく揺れる。
地響きは教会から街へと瞬く間に広がっていきやがて国全体まで巻き込み、大きく振動した。
激しい地響きが静まると、アラン達の目の前に黒曜石のような光沢を放つ一つの巨大な扉が出現する。
―――冥府の扉。
その扉の向こうには、死者が住まう世界が広がっている。
アラン達が手に入れたこの魔導書は冥府の扉を開けることで今生きている魂とあの世の魂を強制的に入れ替える『輪廻逆転』の魔術だった。
アラン達の最終目標は人間たちに虐殺されて死んでいったエルフたちの魂、すなわち彼らの前世の魂と今生きている人間たちの現世の魂を入れ替えてこの地に新たなるエルフの里を再興するという途方もない悲願だった。
そして、アラン個人の目的はその扉を開けて亡き姉セシルや、エイワス、クロウリーといった大切な仲間たちを探しだして再会を果たすことにあった。
だが、この大いなる悲願には致命的な欠陥が一つあった。
それは入れ替わる魂はエルフの魂だけでなく前世が人間の魂も無作為に無関係に含まれるということだったのだ。
アラン達は計画の全貌、すなわちこの欠陥の事実を知らない。
ジェイコブを除いては・・・・・・。
アラン達は己の悲願達成を信じて何も知らないまま扉の取っ手を掴み、重く閉ざされた扉を軋む音と共に開いた。
扉が開くと冷たい風と共に大勢の死者の魂が黒い煙のように一気に飛び出していく。
「大丈夫か?みんな!」
アランは魂の奔流を浴びながら仲間たちに呼びかける。
「大丈夫だ」
「なんとか」
仲間たちが無事なことにアランは深く安堵した。
だが、アラン達に一緒についてきた『黒い炎』の数名の人間側メンバーは、すぐに異変を起こす。
彼らの生きた瞳の輝きが消えて一瞬の虚無の後頭上に光沢のリングが出現する。
意識が戻るとそこには彼らではない別の魂が入っていた。
異変を起こした内一人が困惑した表情でアランに話しかける。
「アラン・・・・・・なのか?ここは・・・・・・。俺は一体・・・・・・・エルフのはずなのに、なぜ俺は人間の格好をしているんだ?」
「この魔力・・・・・・・間違いない、リテルさんか?」
彼の名前はリデル。
アラン達と同じエルフの民でかつての仲間である。
「リデル・・・・・・・・・ここはどこなの?」
その時、闇の奥で青白い光沢のリングがひっそりと浮かぶ。
闇の中から出てきたのは意識を失ったマーリンではなくマーリンの姿を被ったエルフ「リア」だった。
「リアさん!」
長年の悲願が叶い、久しぶりの再会に胸を躍らせるアラン達は成功に沸き立った。
憑依したリデルとリアにアラン達はこの儀式の目的とこれまでの事情をすべて話した。
「そうだったのか・・・・・・」
「これからどうするの?」
現状を理解したリデルとリアはアランの今後の方針を尋ねる。
「エルフたち全員で、人気のない場所で新しく里を作り直そう!」
意気込むアランにリアとリデルは心から喜ぶ。
だが、そこにジェイコブが静かに割って入る。
「素晴らしい考えですよ、アラン。ですが、残念ながら飛んで行った魂を見ましたが君が本当に会いたい人はそこにいなかった。恐らくまだ冥府の奥に深く囚われているのでしょう」
「姉さんが!」
アランの声が震える。
「ああ。このまま静かに、目の前にいる仲間たちと新しくエルフの里を作るなら、それはそれで結構。でも、本当に大事な人と永遠に一緒に居たいなら、敢えて冥府に突き進んで探すのも、また一つの愛の形ですよ」
ジェイコブの甘く、毒を含んだ言葉に心を揺さぶられたアランは深く考え込む。
(このまま、この目の前の喜びを受け入れ、みんなと楽しくエルフの里を再興するのも有りだ。しかし、僕は・・・・・・・セシル姉さんを・・・・・・)
「・・・・・・・いいだろう」
アランは唇を噛みしめ考え込んだ後、ジェイコブの悪魔的な誘いに乗る決断をした。
ジェイコブは勝利を確信したかのような笑みを必死に堪えてアラン達に本心を探られないよう隠した。
アランは仲間たちのほうへ顔を向けて申し訳なさそうに告げる。
「ごめん、皆。僕、姉さんにやっぱり会いたいよ」
「何を今さら、エルフ全員の願いだ」
「一緒に行ってやるよ」
「ええ、もちろん」
「お前の我儘にもう少しだけ付き合ってやる」
ジェラルドやリデル、リア、ウィリアムは迷うことなくアランの我儘に快く引き受ける。
「あーもう!この筋金入りのシスコンは!仕方ない、いいよ、付き合ってあげる」
外から見ていたリーラは苛立ちを露わにしながらもアランの我儘に承諾した。
そんな中リアが顔色を変えて割って入る。
「待って。上に誰か強大な気配を感じるわ」
「騎士団連中か?」
リアの鋭い魔力感知に、ジェラルドが即座に身構える。
「いや、違うわ。子供と大人の二人組ね」
「これ以上ここを邪魔されると厄介だから・・・・・・・」
その頃、教会の異変に気づいたアーサーとイスカは微かに残る母マーリンの魔力を感じ取ったイスカに誘導されるように静まり返った教会を探索していた。
「母ちゃんから魔法教わったのか?」
「はい。でも、お母さんみたいに自在には上手くなくて…………………」
「使えるだけなら十分心強いさ」
警戒を緩めず軽く話をして二人は教会の奥へと進む。
イスカは一歩進むたびに母の魔力が明らかに急速に強くなっていることに気づいた。
「アーサーさん、すぐそこです」
2人は意を決して更に進んだ。
そしてその場所で立ち止まった瞬間、足元の地響きと共に強大な黒紫の魔光弾が地面から炸裂するように飛んでくる。
アーサーは反射的にイスカを抱えて後ろへ後退する。
「大人しく家に帰れば命だけは見逃してあげる」
耳慣れた。
だがどこか冷たい聞き覚えのある声。
紛れもなく見覚えのある姿――そこにいたのは、マーリンだった。 母からの突如の攻撃にイスカは驚愕し、アーサーは声も出なかった。




