43話、賢人たちの逆襲9
デビルメイクライのバージルのスタイリッシュな居合とジョジョの奇妙な冒険のディオが使う「ザ・ワールド」を組み合わせたら結構カッコいいだろうなって思って書いて後々見返してみたら、想像以上に凶悪な能力に出来上がったのでマクシルには申し訳ないがそれなりに制限付けたという裏話。
時を遡ること、アーサー一行が『黒い炎』構成員と交戦していた一方。
空間魔法によって転移した『黒い炎』の面々は、静かで壮厳な王都の大聖堂に足を踏み入れた。
重厚な扉の向こう身廊に続く空間には、一般人も司祭も神父も誰一人としていなかった。不気味なほどの静寂と空虚さだけが満ちている。
ただ、一人を除いて―――
「やあ、初めましてというべきかな?」
身廊の中央、祭壇を前にして、マクシル長官がただ一人、静かに堂々と佇んでいた。
騎士団最高責任者による待ち伏せ。
その事実に『黒い炎』の面々は即座に身構え、臨戦態勢へと移行する。
「なぜ、貴様がここにいる!」
ジェラルドは怒声を上げ、マクシル長官を射竦めた。
「君たちの行動を予測して先に回っただけだよ。大丈夫だよ。ここは既に避難させているし、教会を中心に騎士団が完全に包囲している」
「想像以上に頭がキレるね。長官」
激昂するジェラルドを軽く手で制し、アランが一歩前へ出る。
「褒められるほどでもないよ。えっと、君がエルフで『黒い炎』の首領……アランだよね」
情報がすべて騎士団に筒抜けであることに、アランは不快感を滲ませて眉をひそめた。
「無理を承知の上で最終通告するが、全員おとなしく武装解除して投降してくれないか?」
「断る。アンタの事だから僕たちエルフの動機も知ってんだろ?」
「……..やはり『滅国の日』が大きく関わっているんだね?」
滅国の日――― それは約7年前、北西に位置した建国間もない軍事小国家「アレス」が、たった一日で滅亡した悲劇である。
領地拡大を進めるアレス軍は、近隣の『エルフの里』に目をつけた。彼らは高い魔力を持つエルフを軍事兵器あるいは新たなエネルギー資源と見なし、里への侵略行為を開始。
善良なエルフ達を無差別に虐殺し、彼らを収容施設に監禁・実験道具とする非人道的な暴虐を尽くした。
これに激しく怒ったエルフ達が報復に転じた。
その結果『アレス』という国は建物だけを完璧に残したまま、国民全員がたった一日で消滅するという凄惨な結末を迎える。
血の跡も崩壊も一切ない、あまりにもきれいな消滅劇。この事件には多くの謎が残されており、今では一部で都市伝説のように語り継がれている。
「あの事件は世界的に見ても圧倒的にアレスに非があるし、私としても同情するよ。だが、その復讐心に飲まれてしまっては、死んでいった家族や友人たちは浮かばれない」
「何から何まで知ったかぶった事を言うんじゃない!アンタに僕たちの苦しみも、怒りも分かってたまるか!」
アランは、自らの最大のトラウマである『滅国の日』にマクシルが触れたことで、激情に駆られる。
マクシルは、これがアランにとって最大の地雷だと承知の上で、重い口を開いた。
「アラン、君はアレイスターの事を知っているんだね……」
口元を軋らせたアランは、周囲の仲間たちを見渡して一度目を閉じ、込み上げる激情を抑える。
「みんな、悪いが先に行っててくれ……。僕がこいつを止めるから、先を急いでくれ……」
片手を仲間たちに向けて差し出し、指先で空を撫でる。
その軌跡に従って、仲間たちの足元に濃い闇と、星屑のような光が瞬く異質な次元の裂け目が開いた。
「アラン、必ず来いよ……」
ジェラルドはそっと拳を突き出す。アランもそれに応じ、ジェラルドの拳に自身の拳を軽く打ちつけた。
しかしマクシルは『黒い炎』の移動を許さず攻撃しようと動いた瞬間――
腰につけていたホルスターから、アランがクイックドローで銃を引き抜き、鉛の弾を放った。弾丸がマクシルの間合いに入った瞬間、キィンという謎の金属音と共に弾丸は真っ二つに弾き割かれた。
アランの咄嗟の銃撃で足を止めるマクシル。
マクシルの妨害を阻止したアランは、羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。
「あんたは踏んではならない領域に踏み込んだ。命を持って贖え!」
仲間たちに見せていた穏やかな顔が消えて、一人の復讐者としての顔をマクシルに見せる。
「たとえそれが修羅の道であっても貫き続けるんだね…..」
アランの復讐であろうがその揺るぎない信念を認めたマクシルは、懐から刀を取り出して着ていた制服の上着を脱ぎ捨てる。
「殺しはしない。だが拘束してアレイスターの事を聞かせて欲しい」
「アンタが死んだら教えてやるよ!」
アランは問答無用で再びクイックドローで銃を引き抜き、鉛の弾をマクシルの頭に目掛けて放った。
だが、眼前にて再び甲高い金属音と共に銃弾は真っ二つに弾き割られる。
マクシルが持っていた刀は既に鞘から抜かれていた。
(やはり居合切りで弾を斬ったのか…..)
「正面がダメなら!」
アランは引き金を引いて2発の弾を飛ばす。マクシルが再び居合の構えに入った刹那、2発の弾は次元の狭間でマクシルの背後へワープさせた。
(貰った!)
しかし、その慢心が一瞬の隙を生んだ。アランが瞬きを終え、瞼を開けた次の瞬間、マクシルは既に横へ回避をしていた。
「クソ――なんだこの早さは」
アランはすぐさま銃を構えて乱射する。放たれた銃弾全ては次元の狭間へマクシルの死角へワープさせる。
アランは瞬き一つせず、その弾幕の最中マクシルの次の行動と仕留めるための一瞬の隙を凝視する。
ワープして飛び交う銃弾の雨の中から、マクシルは一瞬でアランの眼前へと肉薄する。
「無駄だよ」
「――ッ!?」
アランは命の危険を感じとった本能が恐怖して後ろへ踵を蹴り、同時に次元を通して遥か後方の長席へ回避する。
「僕と同じ空間魔法か?」
マクシルは静かに刀を鞘に収めながら、静かに言葉を返す。
「いいや、違うよ。『時間』を止めて君に近づいただけさ」
「時間停止だと!?」
マクシルの能力は、文字通り『時間の流れをゼロにする』。それは世界の理に反する力であるがゆえに、厳しい制限が課せられていた。
アランからの銃弾を回避し、一瞬で距離を詰めることができたのは、この時間停止能力があればこそだった。
発動条件は、愛刀を鞘から抜くこと。発動後は5秒間、自分以外の全ての時間が停止する。
5秒を過ぎれば魔法は強制的に解除される。再発動には必ず居合の構えをしなければならない。
「時を止める僕と次元を行き来するアランどちらか上か勝負するかい?」
「戯言を!」
アランは次元を生成して次元の中からライフルを取り出す。
「これはあの憎きアレスが作った兵器の一つだ」
「アレスに滅ぼされたエルフがライフルを使うとは悲しい皮肉だ…」
アランはライフルを構え、マクシルに目掛けて初弾を放つ。次の瞬間、世界は静止した。マクシルは時間停止で銃弾を回避するが、その直後、回避先に向けて別次元から銃弾が湧き出るように飛来した。
時間停止によって回避した直後のマクシルへ、アランは空間魔法で一気に距離を詰めた。銃を捨てたアランの指が、刀を鞘ごと押さえつける。
「時間停止を連続使用する際、必ず刀を納刀してから抜刀までの僅かなタイムラグが生まれる。回避した後に抜かないようにすればいいだけだ!」
「なに!?」
マクシルの驚愕をよそに、アランは空いた片方の腕でマクシルの顔面へ渾身の拳を叩き込む。マクシルもまた、素早く腕を上げて応戦し、互いの肉体が激しく衝突した。
刀を封じられたマクシルは咄嗟にその鞘ごと刀身をアランの側頭部へ叩きつけた。
重量感のある鈍い衝突音と共に、アランの意識は激しく揺さぶられる。
意識を揺さぶられたアランは、咄嗟にマクシルの鞘を押さえていた手を離してしまう。
その一瞬の解放を逃さず、マクシルは踵を蹴って間合いを広げた。彼は即座に居合の構えに入り直す。アランは阻止しようと、揺れる意識の中で渾身の力で疾走した。
「させるかぁ!」
しかしあと一歩の所でマクシルが抜刀したことで世界の時間が止まる。
一秒――マクシルはアランの懐に入り込む。
二秒――抜刀した刀でアランの全身に無数の斬撃を浴びせる。
三秒――マクシルは静かにアランを通り過ぎる。その刃に一滴の血もついていない。
四秒――鞘を水平に寝かせたまま、静かに刀を鞘へ納め始める。
五秒――カチリ、と鍔と鞘が静かに噛み合う金属音を発すると共に、止まっていた世界は動き出す。
「――――すまないが、刹那の中で眠ってくれ」
マクシルの言葉と共に無数の斬撃で血しぶきが飛び散りアランは膝をつく。




