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勇者の弟子  作者: ヤス
賢人たちの逆襲
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42話、賢人たちの逆襲8

リーラ視点でのエルフの里を悲劇を描きましたがあくまでもリーラ視点なので人の視点によって真実は少し異なる場合があります。

エルフの里の悲劇に隠されたもう一つの真実は近い内に別のエルフの回想で明かされます。そしてさらに隠された真実はこの章では明かさず別の章で明かそうと思います。

―――暖かく、遠く、もう決して戻れない懐かしい陽だまりの記憶。それは、あたしの全てだった。


野に光が満ちる朝、そこはいつもの変わらない日常だった。

おとうさん、おかあさんと笑い声を交わしながら朝食を済ませて、柔らかな風が吹き抜ける野原へ向かう。

親友のセシルとたわいもないお話しをしながら山菜を採る。

少し気弱なセシルの弟アランが顔を覗かせれば、二人で優しくからかって、可愛がってやる。


こんな何気ない毎日が、どれほどかけがえのない幸せだっただろう。


しかし、光は唐突に翳る。


ある日、セシルが彼女の従兄と奥深い森へ薬草を取りに行った。

セシル達が森から帰る頃には予期せぬことに彼女たちは一人の旅人を伴い、この静謐なエルフの里へと足を踏み入れたのだった。


あたしたちエルフの歴史において人間が神聖な結界を破りここに迷い込むのはほとんどあり得ないことだった。

彼の名はアレイスター。

噂に聞く、かつて世界を混沌に陥れた魔王ルシファーを倒した英雄の一人だという。


魔法研究の旅の最中、森に迷い込み、偶然にも里の結界を潜り抜けてしまったのだという。

そして、魔物に襲われていたセシルを救ったという経緯で、その感謝としてこの地に足を踏み入れた。


彼はあたしたちエルフに敬意を払い、すぐに里を旅立とうとした。


「俺みたいな部外者が、このような神聖な場所に長居するのは憚られます」


彼は深々と頭を下げて立ち去ろうとしたが、それを止めたのはセシルだった。


「そんなこと言わないで!助けてくれたお礼だけでもさせて欲しいの!」


セシルの従兄クロウリーも頷く。


「俺からも心からお礼を言いたい。どうか数日でも、ここに留まってくれ、英雄殿!」


「しかし…」


困惑するアレイスターに、長であるエイワス翁が重々しい声で語りかけた。


「旅人よ…。遠慮するでない。我が同胞を救ってくれた以上、早々に立ち去るのは無作法というものだぞ…」


彼の言葉に、アレイスターは観念したように息を吐いた。


「……エルフの長がそこまで仰るのなら、お言葉に甘えさせていただきます」


だが、セシルは熱心に、彼女の従兄クロウリー、そして長であるエイワス翁もまた、命の恩人への感謝としてここに踏みとどまるよう進言した。


そして、その旅人は、あたしたちの里に留まることになった。

あたしも友人を助けてくれたアレイスターのことは信頼していた。


アレイスターは里から少し離れた森の奥に小さな家を作り、そこで魔法の研究を続けた。

それは、里の者に迷惑をかけたくないという、彼なりの敬意の表れだった。


「アレイスター!採れたての果物と、獲れたての魚だよ!」


「ありがとう。セシル、リーラ。そこの作業机に置いておいてくれ」


あたしもセシルも、彼の家によく遊びに行ったものだ。

彼の家は、様々な古書や実験途中の魔道具で溢れていた。


「ねぇ、本当にこんな森の奥で、たった一人で暮らすことないのに。里はもう、あなたを警戒していないわ」


「君たちへの敬意だ。それに、ここは誰も傷つけることなく、俺が最も熱中できる研究を続けるのに理想的な場所なんだ」


取り分けアレイスターと仲が一番良かったのは、聡明なクロウリーと、好奇心旺盛なセシルだった。


三人は里の奥深くで、夜な夜な未来を語り合った。


「俺は、魔法に秘められた無限の可能性を信じている」


アレイスターは情熱的に語った。


「今の時代、魔力が高すぎるだけで周囲から畏怖され、迫害される。そんな極端に偏った社会を変えたいんだ」


セシルがキラキラした瞳で口を開く。


「魔法が、誰もが安心して使える、当たり前の道具になる世界!素敵ね!」


クロウリーは静かに微笑んだ。


「青臭くて、デカい夢だけどな。俺は全力で応援するよ、アレイスター」


「ありがとうクロウリー、セシル」


アレイスターの夢は、世界が平和的に魔法を活用できる道を模索すること。

その理想にクロウリーとセシルは深く共感し、研究にのめり込んでいった。


最初は三人だけの秘密のようなものだったが、徐々にエルフ全体がアレイスターの魔法研究に協力してくれるようになり、この世界の魔法技術は生活必需品レベルまで飛躍的に向上した。

里全体が希望に満ちていた、幸福な時期だ。


そんな中で、アレイスターとセシルは、誰の目から見ても特別な関係になっていった。


アランはその変化を幼いながらに敏感に感じ取っていた。


「お姉ちゃんばかりアレイスターに構っててズルい……」


アランは拗ねたように唇を尖らせた。


「ごめんな、アラン。セシルは決して、お前の事を嫌いになったりしない」


アレイスターはそう言ってアランを優しく抱き寄せた。


「こら、アラン!アレイスターを困らせないの!」


セシルは顔を赤くして、アランの腕を引く。


「いいんだセシル。アランの気持ちも理解できるよ。だから俺たち3人で一緒に暮らそう。そしたら、寂しくないだろ、な?」


アレイスターのその言葉はアランとセシル、そして彼自身の三人を新しい家族のように結びつけようとしていた。


あたしは、ただその光景を遠くから見ているだけだった。


そして、アレイスターとセシルの中に、一つの新しい生命が宿った。


人間とエルフという異なる種族による(つがい)から生まれる命は里の長い歴史においても初めての神秘であり、この上なく魅力的だった。


あたしだけでなくエルフ全体がこの奇跡を祝福し、喜びを分かち合った。


「人間とエルフが心から寄り添い合えるなら、ホントにアレイスターの夢が叶うかもしれない」――― あたしはそう、世界が変わるような大きな希望に満ちていた。


あの夜までは―――


大勢の人間たちが神聖な里を踏み荒らした。

悲鳴と血の匂い、そして魔法の閃光が平和なエルフの日常を一瞬で打ち砕いた。


奴らは容赦なく抵抗する者も無抵抗の者も関係なく殺していった。

魔力が優れないエルフや幼い子供、女、老人を殺戮し、より魔力が優れた者だけを選り分けて檻に入れ、連行していった。


里はあっという間に赤く燃え上がり、神聖な場所から一転して、そこは悪夢のような地獄に変わっていったのだ。


あたしはジェラルド、そしてアランと共に、檻に入れられて人間どもの収容施設に監禁された。


―――あたしは、あの男に騙されていたのだ。


収容施設に入れられたあたしたちは、実験動物として扱われ、いずれ死ぬだろうと覚悟した。

絶望の中で希望は潰える。


しかし、運命はまだあたしを見捨てていなかった。

数日後、遠くの部屋から激しい戦闘の音が響き、やがて騒ぎはこちらに波及した。


別の部屋に監禁されていたエルフ達が反逆を起こして脱走してきたのだ。

彼らはそのまま、あたしたちの檻を壊して解放してくれた。


床には研究員の死体が横たわっていた。

恐らく、あたしたちを解放してくれた同胞たちの仕業だろう。


あたしは混乱する頭で考える余裕もなく、ただひたすら脱走したエルフ達と共に外を目指して駆け出した。


ただ―――廊下の奥深くに男が佇んでいた。

顔は暗くてよく見なかったがどこか悲しげな顔をしていた。


外の森で脱走したエルフ達と別れたあたし、ジェラルド、アラン他数名は故郷を壊した人間たちに復讐するために結託して『黒い炎』を立ち上げた。


あの男だけでなく人間全員を皆殺しにするために―――


―――全ては、あの日失った、あたしの陽だまりを取り戻すために。


そう意気込んでいたのに。

瞼を開けると、あたしは人間二人――それも、レベルの低いガキどもに、完膚なきまでに敗北していた。


「なぜ、あたしを殺さない?」


リーラは喉の奥から絞り出した。

目の前にいる人間――サリーが、青い瞳でまっすぐにこちらを見つめている。


「生きて、きちんと裁きを受けて欲しい。それだけじゃない。私たちは復讐以外の道を一緒に探したい。復讐なんて、悲しみを増やすだけで空しいよ」


リーラは鼻で笑った。


「悲しい?この地獄を生み出した側が何を言うのか。」


その時、エドラが前に進み出た。


「俺は、アンタたちを責めることは出来ない。俺たちがアンタたちに謝るのは、おこがましいかもしれないが...」


エドラはそこで一度、強く息を飲んだ。


「それでも、人間を代表して――すまない!」


彼は深く頭を下げた。


「簡単に許してくれとは言わない。ただ、俺たちは逃げない」


「君たちが謝罪したとしても、あたしたちから見たらただの自己満足と偽善じゃない。それにあたしたちはもう止まれないのよ」


リーラはそう吐き捨てると急速に建物の屋上へ跳び上がり、静かに背を向けた。


今のリーラにとってエドラとサリーの顔をまっすぐに見ることは、もはや許されない行為だった。

彼らの純粋な眼差しが、あの男(アレイスター)への憎悪という、唯一の生きる灯火を弱くすることを、心底恐れていたのだ。

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