表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の弟子  作者: ヤス
賢人たちの逆襲
41/96

41話、賢人たちの逆襲7

リーラが動く。その掌に、無数の粒子が集束する音もなく、瞬時に二本の光の槍が生み出された。一閃、それはエドラとサリーめがけて投擲される。


エドラは腰を低くし、紙一重で横に滑るように回避した。一方、サリーはサラマンダーに騎乗して上空へと急上昇させ、光の軌跡を躱した。


体勢を立て直す間もなく、エドラは手にした剣に周囲の水を纏わせる。水は瞬く間に鋭利な槍の形へと結晶化し、激しい水流の穂先となってリーラ目掛け真空を貫いた。


それに対し、リーラは間髪入れず三本目の光槍を投擲する。光と水、相反する力が空中で激突し、凄まじい閃光と爆音、そして水蒸気の白い膜を残して、互いの攻撃を完璧に相殺した。


だが、間髪入れずに攻撃するのはリーラだけではなかった。


サリーは騎乗したサラマンダーに指示を送り、その口から深紅の炎を、熱風と轟音と共にリーラに浴びせた。


サラマンダーの炎は大気を歪ませながら、リーラの光を打ち破るかのように殺到する。


その豪炎の中、赤く燻る煙を割り、リーラは姿を現した。彼女の衣服は炎でところどころ焦げ、くすぶり燃えていたが、彼女自身は無傷のように見える。その無機質な表情には、わずかな動揺すら浮かんでいない。


サリーの顔からさっと血の気が引いた。


喉が渇き、冷たい汗が背中を伝う。


「特大の火力なのに……まさか、ものともしないなんて….」


サリーは焦燥に駆られ、無意識に言葉を漏らした。


「もう……終わりなの?」


サラマンダーの豪炎に微動だにしないリーラの姿は、あまりにも絶望的だった。


リーラは光槍を生成して再び構えようとした直後―――


エドラは、自らの水剣をサラマンダーの豪炎の奔流に敢えてかざした。瞬時に、炎の魔力が剣の刀身に吸い込まれ、紅蓮のオーラとなって激しく燃え盛る。


「お前はそれしか攻撃ないのかぁぁ!」


一歩踏み込み、エドラはその豪炎を纏わせた剣で、全てを断ち切るように薙ぎ払った。熱された大気が唸りを上げ、炎の斬撃がリーラめがけて襲いかかる。


リーラは即座に光槍を生成し、その輝きで炎の斬撃を受け流すように弾いた。凄まじい熱量と衝撃が周囲に広がり、地面を深く抉った。


「それ以外の攻撃受けたいなら受けさせてあげる….」


リーラはそう言って数歩後退して魔法陣を展開する。


すると彼女の周囲を囲う光柱が出現する。光柱はリーラを中心に衛星の様に回り続け、強固な防御壁として機能する。同時に、これは彼女が意のままに動かせる近接武器としての光槍でもあった。


―――光柱(あいつ)に突っ込むのは不味い。


そう直感したエドラは、紅蓮の剣を低く構えたまま、一太刀、二太刀、三太刀と連続で鋭い炎の斬撃を放った。斬撃はリーラに届く前に、回転する光柱に触れるや否や、いとも簡単に弾かれ、霧散していく。


エドラが最後の一太刀を放ち、その斬撃が霧散した一瞬の隙。リーラはそれを見逃さず、回転する光柱の一本を掴むと、文字通り光速でエドラの懐へ踏み込んだ。


リーチの長い光槍に対し、エドラは辛うじて剣を前に出そうとするが、間に合わない。光槍の穂先が腹部に閃光のような速さで直撃し、激痛と衝撃波が内側から弾ける。エドラは店の壁を突き破り、轟音と共に奥の棚を巻き込んで吹き飛んだ。


「エドラ‼」


「遅い」


リーラが冷ややかにそう告げた時には、既に投擲されていた光槍の穂先が、上空のサリーの肩部に無慈悲に突き刺さる。その凄まじい衝撃で、サリーは魔導書を掴む手を離し、バランスを崩してサラマンダーから落下した。


(これがレベル50の壁―――ダンジョンの男とは大違いの実力の差だ。それでも、諦めるわけにはいかない!)


サリーは宙から地面に叩きつけられた衝撃に呻きながら、全身の痺れに耐える。彼女の目の前にあるのは、落下した魔導書。光槍による衝撃で麻痺したような体が動かない中、五歩先に転がったその書物目掛けて、彼女は歯を食いしばり、必死に這いずった。


あと一歩、指先が魔導書の端に触れる―――その瞬間。


魔導書は、無慈悲な一足の重みによって、ぺしゃりと踏みつけられた。


サリーは、顔を上げて見上げる。そこには、一切の感情を宿さない瞳で、冷徹に自分を見下ろすリーラの姿があった。


「悪いけど、君とエルフである格上のあたしとじゃ格が違うの……だから…..さようなら….」


リーラは冷たく言い放ち、トドメのために足元の魔導書を踏みしめながら、光槍を振り上げた。そのとき、サリーは渾身の力を振り絞って叫んだ。


「教えてよ……なぜ、あなたがそこまでして私たち人間を強く憎むの?あなた達エルフに一体何があったって言うの?」


リーラの無機質な瞳に、一瞬だけ、激しい憎悪の炎が宿った。


「君たち人間がそれを知る必要なんかない….知る資格もない。あの時のあたしたちみたいに何も知らずにただ命を奪っていくのよ」


「なぜあなた達が手を汚してまで人間を憎むのか私は知りたい」


リーラの冷酷な言葉を聞きながら、サリーの心は純粋な想いで満たされていった。


(この人たちは、ただ怒っているだけだ。理由を教えてくれないのは、私たちに拒絶された過去があるからかもしれない。全部でなくてもいい、少しでもいいから、彼女たちの痛みを受け止め、寄り添って話したい)


憎しみという黒い感情に囚われたエルフ達を、心から救いたい。その純粋で強烈な想いが、肉体の限界を超えてサリーの精神を突き動かす。


その時、サリーの魂が、純粋な想いをエネルギーとして強烈に刺激された。


レベルが上昇する。


サリーの全身を柔らかな光が包みこまれて、レベルは15から16へと上昇した。


「レベルが少し上がっただけで……エルフである格上のあたしに敵う訳がない!」


リーラは高を括り、光槍を生成して、その穂先をサリーの頭上に突き落とそうと振り下ろした。


しかし、光槍の先端が、突如として炸裂した光の衝撃と衝突し、甲高い金属音と共に弾かれた。


「何...!?」


リーラは即座に弾かれた先へ目を向ける。そこには、先ほど店の奥へ吹き飛ばしたはずのエドラが、息を乱すことなく、鋭い眼光で彼女を見据えて立っていた。


「お前の魔法....貰ったぞ」


エドラが握っていた剣は、既に元の形を留めていなかった。彼の右腕全体を、リーラが放った光の魔力が逆流するように包み込み、剣と腕が一体化している。それは拳から肘まで伸びる、銀光を放つ神々しい銃剣のような形状をしていた。


(あり得ない。ただの人間が、どうやって私の魔力を奪い、それを武装に変えた? この状況下で!)


リーラの無機質な表情の奥で、苛立ちとわずかな動揺が渦巻く。彼女はようやくエドラの能力を理解したが、同時にサリーの成長という想定外の事態に動揺していた。


リーラがエドラに意識を集中している極めて短い隙。サリーは、震える手を伸ばして足元の魔導書を掴み取り、その表紙を勢いよく開いた。


「ウンディーネ、お願い!」


いつものように召喚の輝きが満ちる。そこに現れたのは、あどけない少女の姿ではなく、10代ほどの少女へと成長した。彼女の透き通るような青い瞳には、以前にはなかった明確な意志が宿っているように感じられた。ウンディーネの纏う水の魔力は、以前より遥かに強く、清らかな力を放っていた。


「まったく、人使いの荒い主だこと……」


(う、ウンディーネが喋った)


初めて召喚獣の意志が聞こえたことにサリーは一瞬目を丸くし、言葉を失う。


しかし、主の反応を他所に、ウンディーネはリーラの光柱の防御網を打ち破るかのように、周囲に高圧の水流を噴き出す。


エドラはウンディーネに合わせるように光銃剣から強大な光弾を放つ。光弾がリーラの間合いに入ったタイミングを見計らって噴き出した水流は、空中で瞬時に巨大な水のドーム状へと変化する。


光の性質上、水がレンズのように作用し、ドーム内部で幾度も光弾の軌跡を反射と屈折で歪ませ、リーラを翻弄した。


「ああ、もう鬱陶しい….!」


光弾の不規則な動きと、光の分散によって魔法の生成が阻害される状況に、リーラは表情こそ変えなかったが、内面で激しい苛立ちを募らせていた。


(くそっ、水のドームが光を乱している。このままでは光魔法生成が安定しない。光を使うあたしにとって、この「水の世界」は致命的だ!)


彼女は咄嗟に防御のために光柱を展開しようとするが、水滴一つ一つがプリズムのように作用し、魔力の集束を妨げ、光の粒子が周囲に無駄に拡散していく。


瞬間―――


水の反射で強大な光弾がリーラの背後を捉え、骨まで響くような激しい衝撃と共にリーラは地面に伏す。


「グ―――ア!」 


(まさか、こんな...格下の人間に...あたしが…..)


憎しみに満ちた独白と共に、リーラは意識を失う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ