38話、賢人たちの逆襲4
尋問していた『黒い炎』の末端構成員を容赦なく殺した幹部リーラは、無感動な瞳で二人を見下ろしながら問う。
「ねえ・・・・・その人から、何か聞いた?」
「いや、何も、全然だけど」
アーサーは肩をすくめ。ふてぶてしく答える。
「そう」
それだけ答えたリーラは、宙に第三、第四の光の槍を静かに生成し始めた。
「あの人たちと少しでも関わった以上、君たちにはここで消えてもらう」
「おい!アンタ、仲間なんだろ?なんで簡単に仲間を殺すんだよ!」
エドラは怒りに顔を紅潮させて前に踏み込み、末端とはいえ容赦なく殺すリーラに対して声を荒げた。
「知ってる?」
リーラは淡々と答える。
「仲間ってのは、口を割らない、秘密を売らない、仲間を売らないこと言うの、少しでも喋った時点で組織にとっては彼らは既に仲間じゃないってこと」
「ふざけるな!」
エドラが感情のままに前に出ようとした瞬間―――
アーサーが素早くエドラの襟を掴み、路地の壁を蹴り上げて一気に跳躍する。
直後、彼らが立っていた路地裏は凄まじい轟音と共に閃光に包まれた。
エドラを掴んだまま、アーサーは向かいの屋根に着地する。
「お前らは、マーリンの命よりも盗まれた『魔石』のほうが気になっているという訳か。あいつの命は、この次か三の次ってことか・・・・」
「君たち人間が、そこまで気にする必要はないと思う」
リーラは一点の曇りもない冷たい瞳で、真っ直ぐ二人を見据えた。
「だって、もうすぐ死んでしまうから。要らないでしょ?」
リーラは淡々と、まるでゴミを扱うかのように語る。
「俺はお前らの求める魔石には興味はない。俺が守るのはマーリンとイスカだけだ。価値のないゴミを使った遊びは、どっか他所でやんな」
アーサーは冷静沈着に、リーラの言葉を図太く一蹴する。
「.......本当に君たち人間は身勝手だ。........身勝手だからこそあたしたちの故郷を踏み荒らすんだよ。害獣ども」
リーラの無機質な仮面に、初めて微かな亀裂が入った。
その瞳の奥には、どす黒い憎悪と紅蓮に燃える怒りが覗いていた。
「………エドラ、聞け。お前の剣による魔法で、アイツの視界を封じられるか?」
アーサーは、リーラの感情の揺れを見逃さず、即座にエドラに指示を出す。
「とりあえず、水属性で視界を一時的に遮ることは!」
「よし、いいか。俺が合図するから、奴の視界を封じて隙を作り、サリーとイス力を回収していったん下がる。 こんな街中でやりあうのと、依頼人であるイスカを巻き込んだ状態での戦闘は危険すぎる」
「了解!」
アーサーは屋根の瓦を一枚引っ張り、リーラに目掛けて強く投擲する。
リーラは一瞬で光の槍を瞬時に生成して弾き防いだ直後――
「これでも食らえ!」
剣に水を纏わせたエドラが、轟音と共に波のように大量の水を放った。
作戦通り、リーラはエドラの放った大量の水で一瞬目が眩み、目の前の二匹の獲物を逃した。
アーサーは瞬時にエドラを抱え、屋根から数メートルの高さから躊躇なく落下。
すぐにサリーたちが待つ店の中に入る。
「団長、どうしましたか?あの音は・・・・・・・」
「問題発生だ。聞いている暇はない。いったん退くぞ」
アーサーは二人の有無を言わせず、サリーとイスカを抱えて店の裏口から一目散に街の奥へと逃亡する。
リーラの視界が晴れるころには、路地裏にはアーサーとエドラの姿はどこにもなかった。
リーラは先ほど見せた憎悪と怒りを滲ませて追跡しようとした、その瞬間―――
彼女のポケットに入っていた通信魔道具から、甲高い通信音が入る。
リーラは不機嫌さを隠さず通信に出た。
「.......なに?」
【リーラ大変だ!アジトに騎士団とギルドが攻め込んできた!今すぐ戻ってきてくれ!】
「…………悪いけど、あたし今日は見張り当番じゃないからパス。盗まれた魔石回収で今は手が離せない」
【ふざけ――】
リーラは通話相手の抗議を遮るように、問答無用で通信を切った。
リーラは瞼を閉じて己の中の渦巻く憎悪と怒りを鎮めた。
深く息を吐き、再びあの無機質な仮面を顔に貼り付ける。
「アーサー・・・・・・・あの男の....」
リーラは感情のない声でぼそりと呟き、アーサーが逃げた先へと静かに歩き出した。
同時刻―――
深い森の奥、「黒い炎」アジト。
騎士団監督官ナタリア率いる精鋭選抜二部隊が、ついに突入を開始していた。
作戦通り陽動役を担うガラハッドチームが、広場で激しく暴れまわる。
硬度の高いメリケンサックを振るいながら前線を突っ切るりノブレイカー団長ガラハッド。
長い黒髪を扉かせながら、風と共に鋭い刀で一閃するジェシカ。
後方では、お互い弓を構えて相手を次々と凍結させて無力化するスノウ、そしてニクスの氷結兄弟。
お互いの長所を活かし、完璧な連携でバランスよく立ち回るこのチームは、まさしく鉄壁を誇っていた。
そのころ。『黒い炎』 アジト最深部。
広大なアジトの外での慌ただしい戦闘音とは対照的に最奥の手術室では、アランたち『黒い炎』幹部と、ソロモン教団残党が静かに取引を交わしていた。
お互いにとって、相手組織は所詮ただの利用道具という認識でありただの取引現場であるにもかかわらず、その場の空気は凍り付くようにギスギスしていた。
手術台で横たわっている男――フリードの左目に埋め込まれた魔王の左目が、ソロモン教団が求めていたものだった。
そして、ソロモン教団教徒の懐から出された古めかしい魔導書は、『黒い炎』が求めていたものだ。
「では、この『魔王の左目』を頂こう」
教徒は何の躊躇もなくフリードへと手を伸ばして彼の意思に関係なく痛々しいうめき声と共に、その眼球をえぐり取り摘出する。
「これで取引は滞りなく成立だな」
フリードの左目をえぐり取ったソロモン教団教祖ジェイコブは、滴る血に濡れた手をタオルでふき取り、禍々しく黄金に輝く「魔王の左目」を恍惚とした表情で眺めていた。
「ああ、素晴らしい!そして、なんと美しい!」
歪に光るその異形の眼球に心奪われたジェイコブは、躊躇することなくそれをそのまま喉へ押し込み、ゴクリと飲み込む。
自身の体内に、禍々しい魔力が滝のように流れ込んでくるのを肌で感じたジェイコブは、至福の表情を浮かべ、その甘美な力に酔いしれた。
「なぜ飲み込む?」
理解できないもの、あるいは忌まわしい化け物でも見るかのようにアランはジェイコブに尋ねた。
「フフ………。『魔王の残骸』をご存知ですか?」
ジェイコブは魔力を吸収した陶酔のまま、アランを見返す。
「かつて勇者アーサーによって倒された魔王ルシファーは、死の瞬間に自らにある呪いを掛け、最終的にマナとなって世界中に分難した。その結果、マナとなって分散された魔王の残滓が長い時間をかけて凝縮し、肉片が生まれる。それが我らが崇める『魔王の残骸』だ。『魔王の残骸』は微かな意思を持ち、ほかの『魔王の残骸』である肉片を集めて成長していく。そして、最初に『魔王の残骸』を体内に取り込んだ者こそが、最終的に次の魔王へと生まれ変わるのです」
アランに代わりその傍で話を聞いていたジェラルドが一歩後ろに下がりなから、引き気味に尋ねた。
「あんた、そんな危険すぎるもん飲み込んで、本当に大丈夫なのかよ!」
ジェイコブは、その問いに答える代わりに、喉元を押さえて高笑いした。
「ご安心を・・・・・・・俺は生まれつき精神力が高い方で今でもこうして正気は保ててるので」
ジェイコブは喉元の血を拭いもせず、ズボンの裾をまくり上げた。
その右足には、既に別の『魔王の残骸』である『魔王の右足』が、皮膚と融合するように移植済みだった。
「俺は魔王ルシファーのためなら、この与えられた身のすべてを捧げる覚悟があるゆえ」
「はは・・・・・・・僕たち以上の化け物が、目の前にいるね、ジェラルド」
アランは冷ややかな笑みを浮かべた。
「逆に、こいつらを下手に敵に回さなくて良かったって思ってる自分がいるよ」
ジェラルドは引きつった表情で同意する。
ジェイコブの狂信的なまでの盲信に二人のエルフは戦慄し、絶句した。
「では、用済みのこの男を僕たちのほうで処理をしようか」
アランはフリードへ手を伸ばそうとするが、ジェイコブにピタリと制止される。
「それは不要だ。『魔王の残骸』はもうこちらの所有物だから、我々ソロモン教団で処理をする。オイ」
ジェイコブの有無を言わせぬ声にこたえるかのように、ジェイコブの後ろでフードを被っていた男――ヴィドクが前に出る。
「一室お借りしますね!こいつを奥の別室に連れていって始末しろ」
「御意」
ヴィドクはジェイコブの命令に従い、意識のないふりをしているフリードを抱えて部屋を出る。
そして、薄暗いアジトの一室に連れていかれたフリードは、ヴィドクの背後で静かに立ち上がった。
「お前らを.....ここで止める」
次回はフリードとアリアの一つの救済を書きますので乞うご期待を




