37話、賢人たちの逆襲3
騎士団本部集会場——————————
そこへ招集されたのは、極秘の『黒い炎』強襲作戦に選抜された少数精鋭の面々だった。
『ホワイトヘア』からはニクスとゾイン、『リノブレイカー』からは団長のガラハッドとエヴァ。
そして「スカイホーク」からは副団長のアリアとスノウ、各ギルドからそれー、二名ずつが選出されていた。
さらに騎士団からは、監督官のナタリアとジェシカも集められている。
壇上には、騎士団最高責任者であるマクシル長官が厳格な表情で立っていた。
「皆、いまこの場に集まってもらったのは他でもない。先日報告した通り、壊滅したソロモン教団残党が水面下で暗躍している。そして最近過激になってきたテロ組織『黒い炎』壊滅させるためだ」
マクシルは場内を見渡し、重々しく続ける。
「我々が大規模に動けは、ソロモン教団は再び闇に紛れ込む恐れがある。ゆえに今回は、各ギルドから特に能力の高い二名を招集し、ガラハッド、ナタリアを主軸とした少数精鋭チームを二組組んでもらう」
招集された全員が息を飲み、マタシル長官に視線を集中させる。
「今我々が掴んでいる情報は、「黒い炎』の拠点の奥でひそかにソロモン教団残党と取引が行われるという確度の高いリークだ」
マクシル長官は鋭い目つきで告げる。
「君たちにはその取引現場に向かい、奴らを一網打尽にしてもらう。作戦は二手に分ける」
マクシルはガラハッドを静かに見据える。
「まず、奴らの注意を引きつけ、内部を攪乱する『陽動チーム』、メンバーはリノブレイカー団長のガラハッド、騎士団のジェシカ、スカイホークのスノウ、そしてホワイトベアのニクス。以上だ」
マクシルはガラハッドから静かに視線を動かしナタリアへ映す。
「次に陽動に乗じて取引現場を抑え、一気に制圧する『急襲チーム』、メンバーは、監督官のナタリア、ホワイトベアのゾイン、スカイホークの副団長アリア、リノブレイカーのエヴァ、以上で分かれて行う」
「はっ!」
場面は打って変わって、活気に満ちた王都の街中—————————
自分の中で既に振られて終わっていたとしても、それでもかつての特別な人に惹かれてその娘イスカの依頼を引き受けたアーサーはエドラとサリーを連れて、情報収集に当たっていた。
黒い炎強襲作戦の選抜メンバーから外されて、ただの人探しの依頼に連れてこられたエドラは不満で口を尖らせていた。
「団長、スノウの奴なんかよりも、俺のほうが絶対強襲作戦、上手くやれますって!どうして俺が人探しなんか・・・・・・!」
エドラは足取り重く抗議する。
「うるせぇ!お前みたいな新人にはまだ早いし、長官直々の指名なんだからしょうがないだろ!」
アーサーは呆れたように一蹴する。
「第一、お前を一人にさせるとまた何しでかすか分からんからな。俺の目が届く範囲にこうして傍に置いといたほうが俺やアリアとし
て安全なんだ」
「合同クエストに無断で参加したこと、まだ警戒してるんですか?」
「.....当り前でしょ」
サリーは横で肩をすくめた。
「その、アーサーさん、大事な仕事があるのに私のお母さんを助けることを選んでくれてありがとうございます」
イスカはもじもじと緊張しながら、アーサーに深く感謝した。
「お前の母ちゃんとは、一時とはいえ持ちつ持たれつの関係で旅をした仲だからな。それに、子供一人に危険な思いはさせられない」
アーサーがイスカにそう返した直後―――
背後から漂う極めて微かな視線と不自然な気配を察知したアーサーは顔を動かさず、そのまま平然を装って歩き続けた。
敵に気づかれないよう、サリーとエドラにほとんど息のような掠れた小声で伝える。
「エドラ、サリー。このまま黙って前に進んだまま聞け。誰か俺たちを後ろから尾行けている奴がいる」
「「―――!?」」
サリーとエドラは一瞬目を見開くが、すぐに表情を引き締めた。
「いいか。このまま奴らを引き付けろ。俺は路地裏から回り込んで取り押さえるから、イスカを頼む」
団長の緊急の指示に、サリーとエドラは視線だけで小さく頷いた。
「イスカ、すまないが、ちょっと俺、トイレ行ってくるから、エドラとサリーと一緒にあの角の先で先に行っといてくれ」
「はい」
何も知らない少女をエドラとサリーに託し、アーサーは人目を避けるように近くの店の中へと入っていった。
アーサーの指示通り、エドラとサリー、そしてイスカがゆっくりと角の先て曲がった。
背後から尾行していた二人の男は、ターゲットを見失うまいと角の先まで少し急ぎ足で歩こうとした瞬間――
「こんにちは!」
挨拶とは裏腹に、男たちの背後から綱のように太い腕が回り込まれ、そのまま手で口を塞がれた。
尾行していた男たちは抵抗する間もなく、アーサーに瞬時に制圧された。
「う…」
「ここは……」
男たちが意識を取り戻すと、そこは人気のない薄暗い街の路地裏だった。
「おはよう....」
目の前には、凄みのある表情を浮かべたアーサーとエドラが立っていた。
「イスカちゃん、ちょっとあそこのお店で少し休憩しようか!お姉さんがイスカちゃんの好きなの買ってあげる」
「本当ですか?」
「うん」
イスカにとって刺激が強すぎる光景であるのを察したサリーは、優しく声をかけてイスカを連れ、慌てず人通りのある店の中へと退避させた。
「答えろ!お前たちはいったい何なんだ!」
エドラは感気を込めて男の襟を乱暴に掴みかかる。
「誰が答えるかよ」
掴まれた男は口の端を吊り上げ、嘲るかのように不敵に笑い、返答を拒否する。
「待て、エドラ・・・・・・。お前はサリーと一緒にイスカを見ていろ」
「尋問くらい俺でも十分に行けますよ!」
自信満々に答えるエドラに、アーサーは苛立ちを隠さず頭を掻きながら、軽くため息を零した。
「ガキのお前にはまだこういうのは早い」
「またそうやって新人扱いかよ!」
「そうじゃない」
アーサーはエドラの瞳を逸らさずに真っ直ぐ見据えて、静かに口を開いた。
「今からやるのは、大人の…………いや、魔王を倒した勇者の拭いきれない闇の部分だ。お前の理想を見続けたいなら、サリーの所へ戻れ」
アーサーの瞳は、いつものいい加減で気だるい眼差してはなく、一切の感情を排した一人の冷徹な大人のものだった。
エドラはゴクリと唾をのむ。
「俺は・・・・・・あんたを見て勇者を目指すと決めた、その勇者の光と闇、全てを受け止める覚悟はできている。俺は決して、勇者としてのあんたに失望しない」
エドラの揺るぎない覚悟の灯った瞳を見たアーサーは、観念したかのようにため息をついた。
「正直、こういう面倒なこともあるから弟子取りたくないんだよな」
「何を今さら」
フッと笑みを零すエドラに、アーサーは視線を戻すことなく男のほうへ振り替える。
「…………………何を見ても、絶対に後悔すんなよ」
アーサーはエドラに冷たい最後の忠告をしてから、男に一歩近づいた。
次の瞬間、アーサーは手早くタオルを丸めて、男の口元に深く突っ込み、抵抗の声を封じる。
そして、男の左手の指の一本を選び、強く握り締めた。
ゴッッ、という鈍い衝撃と共に、ミシミシと骨が粉砕する嫌な音が路地裏に響き渡る。
男の目が見開き、口からくぐもった、獣のような呻き声が濡れた。
「さて、これ以上純粋無垢な青少年の前で無駄に嫌なとこ見せたくないから、さっさと手短に答えろ」
アーサーは、男の口に入っていたタオルを一旦外し、一切の感情を排した冷徹な表情で再度男を尋問する。
「なぜ俺たちを尾行する?そして何が目的だ?」
「くっ、お俺たちは『黒い炎』で、お前らが連れているあのクソガキを攫えって上からの命令なんだ!」
さっきまでエドラたちを嘲り挑発していた男の余裕は完全に消え失せ、恐怖と激痛で涙を流していた。
「その母親はどこだ?答えろ」
「その女の行方なんか。本当に知らない!」
アーサーはさらに冷徹な目で男を睨みつけ、折れていない隣の指を狙って握る準備をする。
「ホ、ホントに知らないんだ!だから、あのガキを捕まえて女をここにおびき寄せようとしたんだ!」
「なぜ彼女を狙う?」
「あの女は俺たちの計画に必要な『魔石』を盗んだんだ!それで追っている!」
「計画?それはいったいなんだ?」
「そ、それは……………」
男が日を開こうとした直後―
ヒュンという音と共に、二本の鋭い光の槍が天上の闇から降り注いだ。
光の槍は、路地裏に横たわる『黒い炎』の末端構成員二人の頭を正確に突き刺し、即座に刺殺する。
予想外の口封じに、アーサーとエドラは反射的に上を見上げた。
視線の先にいたのは、細身の女性だった。
彼女――『思い炎』幹部のリーラは、感情の読めない機械人形のような無機質な表情で、二人を冷たく見下ろしていた。




