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勇者の弟子  作者: ヤス
賢人たちの逆襲

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35/99

35話、賢人たちの逆襲1

今回から新章『賢人たちの逆襲』通称エルフ編に突入します。この章の特徴としてスカイホークの主要メンバーが全員集合する章であるのと、元勇者一行の1人であるアレイスターについての人物像が触れられる、前章『天上の梯子』で傷を負ったアリアが報われる、『遠き日の回顧夢』で経験したアーサーの挫折からの一つの成長、エドラの新たな謎といろいろ書こうと思うのでそれなりに話が長くなりそうな予感がします(笑)

また予め先に注意書きもしとくと”魔王の残骸”絡みのエピソードは基本陰鬱でエグイ描写やグロイ描写があったりするのでそういう耐性が弱い方は閲覧注意です。

眩しい光が差し込んでいた。


ここは……暖かく、静かなマナが満ちる庭。


「……レイ……ス──!」


優しい、響き渡る声が聞こえた。

だが、その声にはノイズが走り、肝心の名前はかき消されてしまう。


その直後、ふと自分の声がしたことに気づく。

「こんなに柔らかな声を出せていたのか」と、どこか他人事のように思う。


視線の先に、二人の男女がこちらへ微笑んでいた。


女性は長い耳を持ち、巫女のように神秘的な雰囲気を纏うエルフ。


男は人間だが、こちらもノイズが走り、その顔貌をはっきりと捉えることができない。


「ダメじゃない……ここに来ちゃ」


「まあまあ、セシル、そう言うなよ。やっぱり俺みたいなのがここにいるべきじゃないってのは、わかってるけどさ」


男がどこか得意げに笑う。女のエルフ──セシルの微笑みだけは、ずっと続いてほしかった。


「……レイ……ス──! そんなこと、ないわ。たとえ人間でも、あなたは私たちエルフにとって“家族”なんだから」


「ありがとう、セシル」


二人は互いに微笑み合い、穏やかな空気が満ちていく。

その光景が好きだった。

ずっと……この二人のそばにいたい。

あたたかい。

こんな日々が、ずっと続くと思っていた。


そのすべてが、ひび割れるような音とともに突然ノイズへと変わった。

耳の奥で、砂を噛むような不快な音が鳴り響く。

気づけば、足元が赤い。

風の匂いが違う。――いや、これは風ではない。焦げた匂いだ。

そして……血の匂い。

視界が戻った瞬間、目の前に広がったのは火の海だった。


エルフの里。


ついさっきまで笑い声が響いていた、あの穏やかな庭のあった場所が……燃えている。


木々は黒く焼け落ち、光の精霊を祀った祠は崩れ、赤と黒の炎が、夜のように暗くなった空へ逆巻いていた。


叫び声、泣き声、助けを求める声。


その全部が、ノイズの向こうに押し流されていく。


呼んだはずの名前も、ひずんだ音に溶けて消えた。

あたたかかった“記憶”が、ゆっくりと血の色に上書きされていく。


――――大勢の人間が、エルフたちを殺していく。


害獣を狩るように、笑いながら。

昆虫採集でもするように、楽しげにエルフたちを捕らえていく。


どこからか飛んできた一発の鉛弾が、ぼくの左足を容赦なく貫いた。

その衝撃に、ぼくは生まれ落ちたばかりの小鹿のように、ただ地面に崩れ落ちる。

―――やめろ・・・・・・頼むから、もうやめてくれ。

ぼくは掠れた声で訴える。

しかし、狩りの興奮に浸った悪しき人間たちの耳には、ぼくの悲鳴は娯楽のBGMのようにしか届かない。


いくら叫んでも、血に飢えた虐殺を続ける人間(あいつら)には、何も届かない。

憎悪を込めて、ぼくはあの男の名前を叫ぼうとした。


「……レイ……ス──!」


だが、発せられた途端、その響きには砂嵐のようなノイズが掛かり、音として成立しない。

名前と共に脳裏に浮かぶはずの「男の顔」もまた、激しい光と色の乱れによって、歪に掻き消されていた。


悪夢(きおく)が終わり、重く閉ざされていた瞼を静かに開ける。


現実へ帰ってきたぼくの瞳は、過去の涙で湿っていた。


「おはよう、アラン――。また、あのトラウマを見たのか」


ぼくが横たわる湿気を含んだ廃屋のベッドサイドで、同志であり同じエルフのジェラルドが心配そうに見守っている。


「おはよう、ジェラルド・・・・・・。また、いつもの悪夢(ゆめ)さ」


ジェラルドは短い金色の髪を掻き上げ、小さなため息をついた。


「取引相手のソロモン教団の奴らがちょうど来ているが、その状態で大丈夫なのか?」


「問題ない。相手が人間でも、こちらの目的のために利用するだけだ」


ぼくたち「黒い炎」のメンバーは、人間どもに復讐を果たすためなら、いかなる手段も選ばない。たとえ、今共闘を持ちかけている人間相手であっても、最終的には利用し尽くすだけだ。


場所は変わって、騎士団本部長官執務室。


広々とした執務室には、魔王ルシファーを討伐した四人の英雄――アーサー、ランスロット、ガラハッド、ナタリアがそれぞれ重厚な椅子に座っていた。

中央の重厚な机の奥には、騎士団最高責任者マクシル長官が、物々しい表情で座している。


「以前、君たちだけに頼んだ『ソロモン教団残党』の動向調査の報告を見させてもらった。どうやら、彼らは我々の想像以上に本気みたいだね」


アーサーたち「スカイホーク」が携わった「天上の梯子」事件以外に、ランスロット、ガラハッド、ナタリアそれぞれが各地で調査した報告書には、ただの噂と囁かれていた魔王復活を目論むソロモン教団残党の暗躍が、現実味を帯びていた。


不確定だった「魔王復活」という最悪の可能性が、確定へと変わりつつある。


マクシル長官は報告書を閉じ、静かに宣言する。


「全騎士団、そして全ギルドには、教団残党の暗躍についての情報を共有する。しかし、『魔王復活』の線は、社会的混乱を考慮して一旦伏せておく」


マクシル長官は険しい顔のまま、机に置かれた別の一枚の報告書を手に取った。


それは、ソロモン教団残党と関りを持とうとしているテロ組織「黒い炎」についての調査報告書だった。


「黒い炎」――現在巷で話題になりつつある過激なテロ組織。目的は社会への不満を訴えて活動しており、構成員は主に社会から迫害された者で構成されている。

そして中には、神聖なるはずのエルフが構成員幹部として潜んでいるという不穏な噂がある。非常に危険な組織だった。


「ランスロットが調べてくれたこの『黒い炎』は、報告書にある通り、ソロモン教団と絡んでから活動がさらに活発になっているらしい。まずはこの『黒い炎』の拠点を叩き、その裏で暗躍するソロモン教団を引きずり出したい」


「自分が指揮して、『ホワイトベア』全体で捜査しましょうか?」


ランスロットが静かにマクシル長官に進言する。


「いや、教団残党の存在を考慮すると、ギルド単体では危険すぎる。我々騎士団と、君たち三人が管理する『リノブレイカー』『スカイホーク』『ホワイトベア』合同でやろう」


マクシルは、四人の英雄が管理する騎士団、ギルドによる合同クエストを厳かに発令する。


「ただし、あまりに大規模だと教団残党に感づかれ、逃げられる危険性がある。ゆえに、各ギルドで少数精鋭のチームを結成して行うことにする」


「ハッ!」

4人はマクシルに合わせて敬礼する。


「ナタリア、いや……ナタリア監督官。これは俺の半信半疑もあって、あえて報告書には記載しませんでした。ここにいる皆さんに共有させてください」


『ホワイトベア』団長ランスロットは改まった様子で口を開いた。


「どうしたんだ?改まって……」


「報告書に書かれている『黒い炎』の構成員幹部にエルフがいる。だが、そのエルフを詳しく調べたところ、我々の仲間、アレイスターと過去に交流していた記録が出てきたんだ」


「!?」


かつて共に魔王討伐を果たした仲間の名が、反社会的な組織の影と結びついた事実に、一同は言葉を失った。


「嘘だろ……」


「アレイスターが……そんな」


ガラハッドとナタリアは動揺を隠せない。


「だが、あいつが『黒い炎』に所属している証拠もないし、過去に交流『していた』というだけだ。あくまでも可能性の一つに過ぎないんだろ? ランスロット」


アーサーは冷静さを保ち、尋ねる。


「ああ、その通りだ。だからこそ、そのエルフを捕らえ、アレイスターについて聞き出す必要がある。あいつの足取りの一つが掴めるなら、やってみる価値はある。長官、よろしいでしょうか!」


アーサーと同じように冷静に先を見据えるランスロット。


「もちろんだ。彼を捕まえるのは最優先事項としよう」


マクシルはランスロットの意図を汲み、承認した。


「確かに憶測だけで判断するのは早計だな、アーサーの言う通りだ」


「このエルフを捕まえて、何としてでも真実を問いたださなければ」


動揺していたガラハッドとナタリアも、マクシルの言葉に冷静さを取り戻していく。


「仮に本当にあのバカが『黒い炎』に関わっていたら、俺たち全員であいつに一発は殴らないと割に合わないな」


アーサーはそう言い放ち、報告書と同封されていた一枚の写真に目を向けた。


それは、『黒い炎』幹部の一人でエルフ「アラン」の写真だった――。

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