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勇者の弟子  作者: ヤス
天上の梯子

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29/99

29話、天上の梯子9~ラス・エドラ~

ヴェルゼビュート後半戦を連携で投稿します。

天界に向かう儀式をアリア、スレイ、エドラに邪魔されながらも、ヴェルゼビュートはなんとかこれを退けたことに安堵し、天界を開く儀式を再開させた。


「ようやく……天界に行ける」


天界へ渡り、そこで同じく「魔王の残骸」を探し出し、それを捕食することでさらなる力を得る。そして最終的に、自身が新たなる魔王として世界に君臨する。それが、ヴェルゼビュートの野望であり、「魔王の残骸」としての本能だった。その目的のため、歪んだ楕円の断層を無理やりこじ開け、天界へと侵入しなければならない。


直後―――


――ソコニ ハ ナイ、アソコニ ”ナカマ”ハ イナイ―――


魔王の残骸としての本能的な意識が、天界へ向かうヴェルゼビュートを強く引き留め、彼に激しい違和感を覚えさせた。


ドクン――ドクン―――


その違和感の正体を、ヴェルゼビュートはすぐに理解する。眼前に、倒れたはずのエドラが、紅蓮の闘気を纏い、立ち塞がっていた。


「フリード…..いつまで眠ってんだ!」


彼の瞳は龍のように鋭く、内に秘めた怒りを光の粒として噴出しているかのようだった。視線が動くたび、紅い魔力の残像が網膜に焼き付いた線となって残り、常人では捉えきれないほどの極限の集中を示していた。

エドラの異様な姿を前に、ヴェルゼビュートの深層にある本能が叫びを上げた。


―――コイツ ヲ クラエ、クイツクセ―――


ヴェルゼビュートの中にある「魔王の残骸」の本能が、支配的に蠢いていく。


(なぜ、これほどまでに本能がざわつく?……警戒しろ!奴を完膚なきまでに殺す!)


その一瞬、本能の警告に思考が支配されたヴェルゼビュートは、わずかに動作が遅れた。


そのコンマ数秒の隙こそが、彼の命取りとなった。

赤い残光を曳きながら、エドラは瞬時にヴェルゼビュートの懐へ侵入し、その頭部を凄まじい握力で掴み上げた。


「が……っ!」


エドラはヴェルゼビュートの頭部を掴んだまま、祭壇の壁に激しく叩きつける。砕けた壁の破片が降り注ぐ中、ヴェルゼビュートは反撃に出ようとヘプタグラムを呼ぶも、直前で放たれたエドラの轟音のような咆哮により、魔力制御が乱され、光線が霧散した。

エドラは掴んだ足首を軸に、ヴェルゼビュートを塔の床に何度も叩きつけながら大きく振り回し始める。


「なんなんだ貴様はぁぁ!」


「お前のような.......クソみたいな悪魔を…..ぶちのめす…..勇者だぁぁぁ!」


ヴェルゼビュートの叫びは、もはや恐怖と焦りが混じった悲鳴だった。

怒りに身を任せたエドラに、彼の問いはもはや意味を持たず、エドラはただ憤怒のままにヴェルゼビュートを振り回し、最後に塔の壁に向けて渾身の力で投げ飛ばした。


ヴェルゼビュートは塔の壁に激突する。


壁に激突したヴェルゼビュートはそのまま絶え間なくエドラの重い拳がヴェルゼビュートの腹部に直撃する。


「いい加減…..起きやがれぇぇ!フリードぉぉぉぉぉぉ!」


その瞬間、悪魔として、そして「魔王の残骸(レギス・レリック)」としての意識、フリードの体を乗っ取った存在としてのすべての思考が、一時的に消失した。それに呼応するかのように、エドラも全身を包んでいた紅蓮の闘気が消え失せ、怒りが鎮まる。


「へへ、ざまあ….みろ….だ」

怒りが鎮まったことで、少年は静かに我に返った。

ケダモノによる容赦ない猛攻に耐えきれなくなり、塔は崩壊を始めていた。

エドラはボロボロの体を引き摺りながらスレイの遺体に近づき、手を合わせて冥福を祈る。

「あんたが落としていった”希望”は、俺が全部拾いあげる……だから……安心してゆっくり眠っていってくれ」


エドラは満身創痍の体で、意識を失ったフリードとアリアを担ぎあげ、塔からの脱出を図る。


エドラは、意識を失ったフリードとアリアを、まだ稼働しているエレベーターに運び入れ、ドアを閉めた。 静かに降下し始めたエレベーター内で、エドラはようやく一息ついた、その直後だった。 塔の崩壊による衝撃が伝播し、エレベーターは激しく大破。エドラはエレベーターの残骸と共に外へ投げ出された。 エドラは咄嗟にエレベーターの残骸にしがみつくが、意識のないアリアの体がツルリとエレベーターから滑り落ちていく。


「…..ッ!!」


エドラは、もう片方の手でなんとか落ちるアリアの襟を掴んだ。


(ダメだ……このままじゃ、全員落ちる!)


満身創痍の体では、意識のないアリアを抱えた自分自身を支える力は残っておらず、エレベーターのドアの残骸を掴んだ指先の力が限界を迎え、徐々に途切れていった。 痛みに耐えるたびに、指が一本、また一本と引きちぎられるように離れていく。 最後の一本にかろうじて残っていた力が消え、エレベーターのドアの残骸を離しかけたその瞬間―――。


何かが、エドラの手首を信じられないほどの力で掴み返した。


エドラが必死に見上げると、そこにいたのは意識のないはずのフリードの姿だった。


「フリード!」


それはまさに、絶望の中で灯った微かな、しかし確かな希望だった。

フリードは力いっぱいエドラとアリアを引き上げてエレベーターの残骸の上に戻した。


「エドラ……だったな。助けてくれて、ありがとう」


フリードは苦しげな声で礼を述べた。その顔には、安堵よりも深い苦悩がにじんでいた。


「ホントにフリードだよな?ヴェルゼビュートじゃない…..よな」


エドラは疑いを拭いきれないまま問う。


「大丈夫だ。ヴェルゼビュートじゃないから安心して欲しい」


フリードの左目に埋め込まれていた魔王の眼は、ヴェルゼビュートの意識の消滅を示すかのように、輝きを失い、黒い光沢を放つ失明状態になっていた。その真っ黒な瞳が希望の光ーーー本物だと確信する。 崩壊が迫る中、フリードは素早く状況を判断し、エドラに指示を出す。


「急げ!このエレベーターはもう持たない。アリアを連れて、向かいの回廊に飛び移るんだ!」


エドラとフリードは、アリアを抱えながら、崩壊する塔の残骸を駆け抜け、回廊に飛び移った。


「ヴェルゼビュートに支配されていた時のことは、はっきり覚えている。お前やアリアにしたこと、そしてスレイをこの手で……すべてだ」


崩壊を続ける塔を背に、フリードの贖罪の言葉が響いた。


「フリード…..」


エドラは立ち止まる。


「アリアにも酷いことした。俺はアリアの隣に立つ資格なんてない」


フリードの罪悪感と苦悩に満ちた言葉に、エドラは足を止め、フリードの胸ぐらを掴んだ。


「罪の意識が少しでもあるなら、贖罪として生きろ!何が『俺はアリアの隣に立つ資格なんてない』だ!お前の罰はアリアさんの隣に立ち続けることだ!だからココから全員生きて出て、俺たちと一緒にスカイホークに来い!」


フリードはエドラの迫力に押し黙り、静かに頷いた。


「エドラ…..」


「アリアさんの意識がなくて良かった。もう二度とあの人の前でそんなこと言うんじゃねぇ!少しでもそれを口にしたらお前をぶん殴ってやる!」


「分かった。約束しよう」


エドラの喝で心の霧が晴れたかのようにフリードの顔は清々しくなった。


だが、時間は待ってくれない。崩壊が激しさを増していた。


ヴェルゼビュートの魔力のほとんどが消え、自分の魔力がまだ十分に残っていることを確信したフリードは、意を決してへプタグラムを展開させる。

へプタグラムの周囲をエドラとアリアを囲い結界を張る。


「なんだ….コレ?」


「この結界はお前たちを守ってくれる。俺自身の魔力はだいぶ残っている。今から残りの星たち(へプタグラム)を使って天上の梯子(ここ)を破壊する」


「何.....言ってんだよ…お前…..!」


「エドラ、お前の言葉けっして無駄にはしない。コレは俺の最初の贖罪だ」


「おい!ふざけるな!今すぐこの中に入ってこい、フリード!」


エドラは拳を赤く染めながらへプタグラムの強固な結界を必死に叩き、フリードに戻るよう強く訴える。


「あんたのダチに俺は誓ったんだぞ!だから戻ってこい!そして俺と一緒にアリアさんがいるスカイホークに来い!」


「エドラ、必ず戻る!だからアリアを頼む!」


フリードが優しく微笑むと同時に静かに手を動かし、エドラとアリアを囲ったへプタグラムの結界は崩落を避けながら吹き抜けの先端まで移動させる。 アリア、エドラの安全を確認したフリードは顔つきを変えて無造作に両の手のひらを合わせた。 へプタグラムが塔全体を囲い星々がお互いを共鳴するかのように輝く。 輝きがやがて塔全体へと広がり、そして目を覆いたくなるほどの閃光を放つーーーー。


「―――――ふざけんなよ……。この…..大馬鹿野郎…..」


狭い結界の中で震えた声でエドラは静かにもたれかかる。


2日後ーーー

重かった瞼を静かに開けて、アリアは体をゆっくりと起こし、周囲を見渡した。そこはスカイホークの自分の部屋だった。腹部の傷には治療の跡があり、深く縫合されていた。


「アリアさん!」


花の差し替えで部屋に来ていたエリーが気づき、歓喜の声を上げる。

アリアの目覚めはすぐさま全員に知れ渡った。


「「副団長!」」

「「アリアさん!」」


エドラたちスカイホークの面々が、安堵と喜びの表情でアリアの部屋に駆け寄る。


「私はーーーーいったい……」


アリアの問いに、エドラ、サリー、スノウの三人が顔を合わせ、これまでのこと、そしてその後のことを静かに報告した。


「騎士団との連携で、ソロモン教団の残党は全員拘束しました。天上の梯子はフリードによって崩壊し、瓦礫の山と化しています」

とサリーが報告する。


「そう……スレイは?」アリアは息を詰めるように尋ねた。


「スレイさんの遺体は、教会の墓地で丁重に埋葬されました。また、強制重労働に駆り出されていた町の住人は全員救出し、今、病院で治療を受けています」とスノウが続けた。


そして、重い沈黙が場を支配する。エドラがその沈黙を破り、フリードの最後について話し始めた。


「フリードは……天上の梯子を破壊するために、自らの魔力すべてを使って、塔と共に……」エドラは言葉に詰まり、唇を噛み締めた。


「すみません、俺がフリードをもっと強く引き止めてれば……!」


エドラは最後の最後までフリードを救出できなかったことを深く謝罪し、悔しさに顔を歪ませた。


アリアは静かに目を閉じ、そっとエドラの方へ向いた。


「エドラ、ありがとう。みんなもありがとう!腹の傷を早く癒すからそろそろ眠りたい。みんな席を外してくれるか」


彼女の言葉に従って全員部屋の外に出た。


部屋の外の気配が完全に消えた事を確信したアリアは、枕を掴むようにして顔に押し付けた。

大粒の涙が枕に染みつき、やがて枕全体を濡らしていった。

誰もいない空間でアリアは副団長の仮面を脱ぎ捨て、泣き虫で弱気な自分を前面に出した。

とりあえずここで天上の梯子のエピソードは終わりです。アリアにとってはビターな結末ではあるが過去から続くソロモン教団との因縁を断ち切ることを中心にしています。アリアに少し救いを与えるため次回はいったん時間軸を現在から過去に戻します。またこの章でエドラが「魔王の残骸」と干渉したことでここから物語は一気に動き始めます。

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