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勇者の弟子  作者: ヤス
天上の梯子

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26話、天上の梯子6

エドラとガレスの肉弾戦は龍が如くをイメージして書きました(笑)


「やれ、ルフ!」


ガレスの号令が廊下に響くや否や、巨大な猛禽ルフが翼を打ちつけ、強烈な暴風をエドラめがけて撃ち出した。


――来る!


エドラは風を避けるため、機敏に近くの石柱の陰へと飛び込み、柱を盾にするようにしてガレスの側へと素早く回り込んだ。


そのまま石柱の壁面を蹴り上げ、空中へ跳躍する。狙うは、暴風を放ち体勢を崩したルフの巨大な背中だ。剣を深々とルフの背に突き立てると、エドラは乾いた高笑いを上げた。


「ハハハハハ!」


剣の柄を握りしめ、揺れる獣の上で体勢を維持しながら、エドラは乾いた高笑いを上げた。死と隣り合わせのこの状況こそが、ランナーズハイで沸騰した彼の興奮をさらに加速させていた。


――その瞬間、ルフは空中で急旋回し、エドラを乗せた背中を廊下の天井の岩盤に激しく叩きつけた。


ドッッッ!!


爆発的な衝撃が全身を貫き、エドラの肺から一瞬、すべての空気が押し出された。剣の柄を握る両手に痺れが走り、視界の端に鋭い火花が散る。


(ゴホッ……!やべ、体が動かない……!)


麻痺していたはずの激しい衝撃が、興奮で凝り固まっていたエドラの思考を一瞬で解き放った。熱狂が、一瞬にして冷めた。


爆発的な衝撃で体が痺れる中、エドラはすぐさまルフの背から跳躍し、廊下の石造りの床に着地する。


彼は痛む胸を押さえながら、目の前のガレスを見据え、息切れ混じりに口を開いた。


「悪い、ちょっと戦い過ぎてテンションがおかしくなってたわ」


――冷静さを取り戻したエドラの目に、再び冷徹な戦意が宿る。


ルフは、巨大な猛禽の鋭い眼差しでエドラを静かに見据える。


「坊主、今の攻撃は悪くはなかったぞ」


突如として響いた、深く低い声。エドラは目を丸くした。


「え、この鳥喋れんの?」


自分の問いに答えるように、ルフは(くちばし)をわずかに開く。


「ふ、術者(ガレス)のレベルの高さに応じて、ワシらの意志がお前のような者に聞こえるようになる」


(……っていうか、サリーのサラマンダーとかウンディーネも、レベル上がったらあんな『深く低い声』で喋りだすのかよ……)


炎のトカゲや水の精霊が、ルフと同じ重々しい口調で語りかけてくる情景を想像し、エドラは思わず顔を伏せた。肩を震わせ、必死に笑いを堪える。


ルフは、そんなエドラの可笑しさを隠しきれていない表情を察し、呆れたように嘴を開いた。


「召喚獣全員が、ワシのようなそんな声をするわけでは断じてないぞ」


エドラは慌てて顔を上げ、誤魔化すように剣を構え直した。


「まあ、十人十色だよな!」


「ルフ、問題はないか」


ガレスが魔導書を静かに構え直し、冷徹な声で問う。


ルフは巨大な翼を広げながら答えた。


「無論だ、術者よ。あやつの小賢しい不意打ちは、もう二度と通じぬ」


その言葉とともに、猛禽は獲物の命を刈り取るかのような鋭い眼光でエドラを睨みつける。


「坊主、ワシを超えることは出来ぬぞ」


「上等だ!」


エドラは地を蹴って、再び怪鳥ルフへと真っ直ぐに走り出した。


だが、ルフはそれを許さない。猛禽は廊下の天井近くを悠然と舞い、その巨大な翼を強く振るう。


ヒュンッ!


翼の動きに合わせて、鋭く尖った羽が弾丸のように射出され、エドラめがけて雨霰(あめあられ)と降り注ぐ。


エドラは、その弾幕の中を紙一重で縫うように左右に走り回り、回避に専念した。


(あの暴風が魔法由来のものならば、俺の能力で吸い取り、剣に纏わせられるはず……!)


エドラは、ルフの羽の弾幕を掻い潜りながら、一縷の可能性に賭けた。彼が狙うは、ルフが最初に放った、あの強烈な単発の暴風だ。


エドラは立ち止まると、両腕を広げて挑発した。


「オイ、デカ鳥!チマチマと羽を跳ね飛ばすより、最初に飛ばして来たような強烈な風をぶつけて来いよ!」


だが、冷静沈着なルフは、その意図を正確に読み取っていた。猛禽は、エドラの浅はかな挑発に乗ることなく、淡々と羽の弾幕を継続するのみだった。


「坊主、ワシは簡単に挑発に乗るほど甘くはないぞ!」


「ああ、そうですか!」


エドラは挑発に乗らないルフに苛立ちを滲ませながらも、即座にプランBを実行した。


彼は体内に残留させていたヴァイルの血の魔法を剣に集中させる。すると、剣はたちまち禍々しい赤黒い輝きを放ちながら、巨大な網状へと形状を変化させ、飛翔中のルフを絡め取った。


「なぬ⁉」


絡みついた網に動きを封じられ、ルフは二度目の不意打ちに驚愕の声を上げる。


「お前が動かなければこっちのもんだ!」


エドラは動けなくなった巨大な鳥を置き去りにして、一気に術者ガレスへと肉薄する。


――だが、ガレスは既に読んでいた。


エドラが攻撃範囲に入る一秒前、ガレスは構えていた魔導書を脇に挟むと、冷徹な表情のまま、逆の拳を一閃させた。エドラの動きの先を読み切った、完璧なカウンターだった。


「バカめ。お前が搦め手の後、術者である私に直行することは想定の内だ。召喚魔法使いは打たれ弱いと思っているだろうが、実際はこの巧みな連携で強いのだ」


ガレスの強烈なカウンターを顎に食らいながらも、エドラは粘り強くその場に踏みとどまった。


「……ウチの召喚魔法使いに、伝えてあげたいアドバイスをどうも」


痛みを堪え、息を整える間もなく、エドラの頭は高速で回転する。


(今、剣を回収に戻れば、網の隙を突いたあのデカ鳥が再び襲い掛かる。ならば――)


エドラは拳を握り、眼前のガレスに改めて戦闘態勢を取った。


「なら、(こっち)で行こうぜ、オッサン!」


それを聞いたガレスは、一瞬も目を離さずルフに指示を出す。


「ルフ、私が対応する。魔力を休めておけ」


「御意」


主従というよりも、長年の戦場を共にしたビジネスパートナーのような、無言の信頼が二人(一人と一羽)の間には流れていた。


ガレスは羽織っていた高位の制服を、躊躇なく脱ぎ捨てた。


拳を握りしめた薄着の下から露わになったのは、修道士らしからぬ、均整が取れた逞しい筋肉美。


「……教徒って、もっと貧相な奴らのイメージだったんだがな」


「……ただの、浅はかな偏見だ」


ガレスに合わせるように、エドラも纏わりついていた上着を払い落とす。


二人は向かい合い、互いに一歩も動かず間合いを測った。先に踏み込めば勝利の可能性があるが、同時に致命的な反撃を受けるリスクもある。広間は、羽の弾幕と咆哮の熱が嘘のように絶対的な静寂に包まれた。


刹那――


二人は同時に間合いを詰め、互いの顔面めがけて逆の拳を叩き込んだ。


二撃、三撃と、二人は血を吐くような打撃を互いの体に叩き込み合った。


ガレスは、エドラの隙を突いてその頭部を掴むと、容赦なく背後の石柱へ激しく叩きつけた。


ゴンッ!


鈍い衝突音と共に、エドラの額から鮮血が噴き出す。しかし、彼はその痛みにひるまず、獣のような執念でガレスの首を掴み返した。


エドラは渾身の力を込め、ガレスの背中を廊下の大理石の壁へと強く、めり込むように叩きつけた。


エドラは激しい打撃の反動でふらつきながらも、かろうじてガレスから間合いを取った。


廊下に舞い上がる粉塵の埃の中から、ガレスが何事もなかったかのように、ゆっくりとエドラへ向かってくる。その額からは血が線となって流れ落ちていたが、表情は変わらない。


エドラは口の中に溜まった血を荒々しく吐き捨てると、まるでルフのような猛禽の眼光をガレスに向けて飛ばした。


――拳では届かない。


互いに一瞬早く、射程の長い脚を閃かせた。


ドスッ、ドスッ。


同時に放たれた両者の蹴りが、互いの顔面を鋭く捉えた。


――その瞬間、顔面に走る激痛を無視し、エドラは奥歯を噛み砕くような凄まじい怒声を上げた。


「うおおおおおおお!」


彼の脚に、闘争心から沸き立つ力が瞬間的に集中する。


その一撃は、ガレスの身体を、蹴り合いの勢いを全て無視して捉えた。


ドォン!


ガレスは防ぐ間もなく、その圧倒的な運動エネルギーの塊と共に円形広間の奥へと、文字通り吹き飛ばされた。


エドラは激しい息遣いのまま、地面に落ちていた上着を回収し、ルフを絡め取っていた網状の剣の魔法を解いた。


自由になったルフは、再び巨大な姿でエドラの前に舞い降りる。その鋭い眼差しは、先ほどまでの敵意とは異なっていた。


「ほう、坊主。なかなかやりおる。我が術者を打ち倒した、その力は見事だ」


「アンタがそのつもりなら……そのまま、相手してやるぜ?」エドラは警戒を解かずに言った。


「いや、我が主を倒したという事実。敗北を潔く認めよう」


「アンタ、なかなか話が通じるんだな」


「主を倒したというなら、その現実を甘んじて受け入れるまでだ」


ルフの言葉には、ただの召喚獣とは思えないほどの高潔な魂が宿っていた。


エドラはその潔さに敬意を表し、深く頷く。そして、ルフもまた、己の主を凌駕したエドラの力を静かに称えた。

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