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勇者の弟子  作者: ヤス
天上の梯子

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25/99

25話、天上の梯子5

濃い霧の中、まっすぐと森の中に進む5人。先頭に立つスレイが一歩踏み込んだ瞬間――濃い霧は一瞬にして霧散し、5人の前にそびえ立つ巨大な塔が姿を現した。


視界が開けたことで、周辺に監視の教徒と雇われた盗賊団が徘徊しているのがはっきりと見えた。監視に気づかれないように、エドラは息を呑むような声で零す。

「この濃い霧は、魔法による偽装工作だったのか……」


スレイは低い声で答える。

「この魔法は偽装工作でもあり、一つの結界でもある。町の住人を逃がさないためのな。いいか、作戦通り俺とアリアは別行動で『天上の梯子』破壊工作、お前たちは陽動と町の住人の救助を頼む」


エドラ、サリー、スノウは、その言葉に小さく頷く。

「サリー、スノウ。俺が前線に出て敵の注意を引く。その間に塔の中に行って救助を……」


サリーとスノウは無言で頷き、エドラは身をかがめながら茂みから飛び出し、監視の注意を引いた。


「なんだ、貴様は⁉」

見張り兵が驚愕の声を上げた。

「俺か。俺はエドラ。勇者になる男だ!」


エドラはその言葉を叩きつけるように、一瞬で見張り兵の懐まで踏み込み、鋭い斬撃を加えた。

「侵入者だ!応援を呼べ!」

最初の見張りの声に、盗賊団たちは一斉に応援を呼びつける。四方から十数名もの盗賊団が駆けつけ、エドラを完全に囲い込んだ。


「10……いや、20人近くか」

予想通りの数に、エドラは挑戦的な笑みを零した。同時に、剣に鮮やかな青い水を纏わせた。


エドラは地を這うように身を低くし一回転すると同時に、剣に纏わりついた青い水が、唸りを上げる激しい水流となって斬撃と共にほとばしった。


――その頃。


出入口付近がエドラの陽動で騒ぎ出し、監視が手薄になったのを見計らい、スレイたちは行動を開始する。4人は塔の影に沿って進み、木の蔓が密生して塞いでいる、隠された隙間を発見した。それこそが彼らの目指す抜け道であり、4人はそこから塔の内部へと侵入した。


4人が木の蔓で塞がれた隙間を通り抜けると、そこは光と影が交錯する、巨大で異様な空間だった。


塔の内部は巨大な円形広間になっており、遥か見上げる天井まで吹き抜けになっている。螺旋状の階段がその空間を縫うように上階へと伸びていた。

広間の床一面には、血液のような色をした巨大な魔法陣が描かれ、中心に据えられた祭壇のような台座から、黒く澱んだ魔力が脈動していた。

部屋を包むのは、異様な静寂ではなく、低く唸るような機械の駆動音。そして、遠くからかすかに響く、誰かの苦悶のうめき声と、甲高い鞭の音。

鼻腔を刺すのは、汗と石灰が混じったような乾いた臭いだ。


「これが……ヴェルゼビュートの儀式場と、強制労働の現場か」

スレイは警戒を強め、声を潜めた。


「ねえ、アレ」

サリーが指さした。広間の片隅、薄暗い影の中、鎖につながれ、重い資材を運ばされている親子の姿があった。

スノウは奥歯を噛みしめ、静かにスレイに視線を送る。彼らの目には、怒りと焦燥が浮かんでいた。


スレイは一瞬、彼らの姿から目を離さず、しかしすぐに冷静な顔に戻った。

「作戦通りだ」


アリアは小さく頷くと、すぐさまスレイを促した。

「スレイ、行くぞ。『天上の梯子』の破壊工作は一刻を争う。螺旋階段を使い、最上階を目指す」

「ああ、行こう」スレイは短く応え、すでに斧を握りしめていた。


アリアは改めてサリーとスノウに向き直り、強い意志を込めて言った。

「サリー、スノウ。エドラの陽動が続いている間に、救助を開始しろ。しばらく私はスレイと共に破壊工作でここを離れる。あとを頼んだぞ」

「はい!」サリーとスノウは迷いなく頷いた。


アリアはそれを見届けると、すぐにスレイと共に音を立てないよう、螺旋階段へと続く影の中へと姿を消した。


「行こう、サリー」

スノウは呼吸を整え、救助対象の親子がいる暗がりへと静かに身を潜めながら進み始めた。


重い資材にバランスを崩し、子供がよろめき転倒した。

それを見た見張りの教徒は、容赦なく棍棒で殴りかかろうと襲い掛かる。母が我が子を庇おうと身を投げ出したその瞬間――鋭い氷矢が背後から飛来し、教徒の背中に深々と直撃した。


命中と同時に教徒は全身を瞬間凍結され、体勢を崩すことなく、まるで氷像のように動きが止まる。

その凍り付いた教徒の背後には、短弓を静かに下ろすスノウが立っていた。


「今だ! 逃げろ!」

スノウは強くまっすぐな瞳で母子に逃走を促す。


異変に気付いた他の盗賊団や教徒たちが、一斉にスノウに襲い掛かってきた。

スノウは構えるように左足の踵を下げると同時、地面に魔力を叩きつける。

冷気を伴い、大地を突き破るようにして巨大な霜柱が隆起し、襲い来る彼らを次々と氷塊へと変えていった。


「し、侵入しゃ……」

盗賊団の一人が増援を呼ぶべく声を上げようとした刹那、スノウの放った氷矢がその口を塞ぐかのように顔面を貫き、男を瞬時に氷塊に変えた。

エドラが門前で注意を引きつけてくれたおかげで、この広間に残る監視の数は圧倒的に手薄だった。

スノウは残る敵の増援を警戒しつつ広間を制圧。


――その頃。


サリーは、広間の隅にある簡素な警備室から、町人たちを繋ぐ全ての錠を外すための鍵束を持ち出す。

彼女はすぐに労働者たちのもとへ駆け寄り、鎖に繋がれた住人たちの手足の錠を素早く正確に開錠していった。


「ああ、ありがとうございます! こんな地獄から助けてくれるなんて!」

「なんて感謝したらいいのか……! もう終わりだと思っていました」

「まさかギルドの者が来てくれるとは、なんと心強いことか」

子供を庇い、危機を免れた母親は、涙で顔を濡らしながら、スノウに向かって深く頭を下げた。

「おねえちゃん、ありがとう!」

突如として地獄のような状況が終わったことに、町の住人たちは歓喜の声を上げ、安堵に包まれた。


スノウは彼らに目配せしつつ、サリーに声をかける。

「サリー、これからどうする?このまま正面から出すのは危険すぎる」

「ええ。エドラは時間稼いでくれているけど、どこか監視の目を避けられる別の道を探さないとね」


サリーとスノウが焦りの色を滲ませながら避難経路を話し合っていると、一人の住人がそっと二人の会話に割って入った。

「地下なんてどうでしょう? この塔には建設時に使われた地下水路が通っていて、そこへ全員行けば、外へ逃げ出せるはずです!私は道を知っています!」


「「それだ!」」

住人の一人からの思わぬアイディアに、スノウとサリーは顔を見合わせ、同時に指を差した。

「素晴らしい!ありがとうございます!」サリーが素早く礼を言う。


スノウは住民たちを安心させるように、力強く告げた。

「よし、皆さん。あの地下水路でここを脱出します。道案内をお願いします!」


その頃、エドラは最後の盗賊を、水流を纏った剣の斬撃で床に叩き伏せていた。

「ふう、これで終わりか。さすがにこの数は手こずったぜ……だが、レベルが17に上がったから、良しとしよう」


エドラは額から流れる汗を拭きとり、塔の正面入り口へと向かった。周囲には人の気配がなく、彼の陽動が完璧に成功したことを示している。

彼は迷いなく、塔の巨大な鉄扉を剣で一気に切り飛ばす。

外の喧騒が嘘のように、内部は静かで重苦しい空気に満ちていた。


エドラが足を踏み入れたのは、広間へと続く幅の広い石造りの廊下だった。その壁面には、邪悪な神を称えるようなおぞましいレリーフが等間隔で並んでいる。廊下の奥からは、微かに人々の声や機械音が響いているが、この手前は誰もいない。


――いや、一人だけいた。


廊下のちょうど中間地点。円形広間へと出る扉の手前で、一人の男が腕組みをして、壁にもたれかかっていた。

「フム、騒ぎの主はお前か。随分と派手にやってくれたものだな」

男はソロモン教団の高位の制服を身につけており、その目には冷たい嘲笑が浮かんでいる。

「陽動に乗じて、脱走者と侵入者がここを抜ける。そう予測していたが、まさか騒ぎを起こしたお前自身がここに来るとはな」


幹部の名はガレス。エドラは剣を構え直す。

「お前がここを仕切る幹部か」

「騎士団に続いて貴様らギルドに、われらの神聖な信仰を穢した罪は重い」


ガレスは片手に持っていた古びた魔導書を、静かに開いた。

「吹き荒れよ、ルフ!」


ガレスの周囲で突如、凄まじい暴風が巻き起こると共に、魔導書から巨大な猛禽の影が姿を現した。

エドラは多人数との戦いでレベルが15から17に上がったことによる自信と高揚感で興奮していた。

「ハハッ、お前の部下たちと遊んで今最高に気分が良いんだ!鳥でもお前でもいい、とっととかかって来いよ!」

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