23話、天上の梯子3
前話がダークで陰鬱な作風だったので少しだけ作風を明るめにしてます。
ダークな前話からの明るめは温度感激しく感じると思いますが汗
騎士団の介入によって「ソロモン教団」は壊滅した。私たちは、あの地獄から解放されたのだ。
保護された私やスレイを含めた子供たちは、騎士団の庇護のもと、すぐに病院へと運ばれ治療を受けた。早期に回復した子もいた。だが、ソロモン教団の卑劣な手で家族を失い、帰る場所を無くした身寄りのない子は、教会や孤児院へ。中には特例として、騎士団の従者として身を寄せた者もいる。
スレイは孤児院へ行った。だが、私は、救ってくれたナタリア監督官への恩返し、そしてフリードを救うため、従者として騎士団に身を置くことを選んだ。
私は監督官の傍を離れなかった。ナタリア監督官も、採掘場で負った私の心の傷を深く理解しており、公私ともに優しく接してくれた。
「え、槍術ですか......」
「そうだ。従者といえど騎士団に身を置く以上、それなりの戦闘技能は付けておく必要がある。もちろん、あの惨劇によるトラウマでうまく戦えないならそれでいい。自分の身をしっかり守れる護身術くらいなら、私はいつでも教えられる」
ナタリア監督官(当時)の気遣いと、戦闘指南の言葉が、何より嬉しかった。
「ナタリア監督官、私、強くなりたい!」
「まだ仕事中だ。私語を慎みなさい」
それから五年、フリードを救うため、私は勉学と戦闘技術を徹底的に磨き上げた。
十五歳になった、そんなある日。いつも通り仕事をこなし、ナタリア監督官に書類を届けようと廊下を歩いていた、その時だった。
廊下の曲がり角で、アーサー団長と偶然再会した。
「お、あの時の嬢ちゃんか」
「あなたは......あの時の、採掘場にいらした」
私たちは他愛もない会話を交わしながら、並んで廊下を進んだ。
「ハハハ、まさかあの後騎士団に入るなんてな」
「はい。ナタリア監督官に恩返ししたくて。アーサー団長は、何用でこちらへ?」
「ああ、丁度いい。ナタリアの部屋はどこか分かるか?ちょっと迷ってしまってな」
道に迷っていた団長は、苦笑いしながら私にそう頼み込んだ。
ナタリア監督官の執務室へ、私はアーサー団長を案内した。
「まさか、お前の方からギルド設立を申し出るとはな。隕石でも落ちる前触れか?」
「生憎、元勇者がこの世にいる限り、そんな簡単に隕石なんか降ってこねえよ」
さすが魔王を倒した仲だ。二人のやり取りは、まるで旧友のようだった。ナタリア監督官が冗談を言うのを、私は初めて見た。
「アーサー、結論から言おう。許可はできない」
「ハァ!なんで!」
「なんでだと? ギルドの最低規定人数に達していないからだ! 規定は最低三人。それをお前は、受付嬢と二人だけで立ち上げようとしている!」
「いいだろう! 受付嬢一人立たせりゃ、あとは俺が対応する。何ら問題にならん!」
「問題あり過ぎる! こんなの許可できるか! せめて副団長を見つけてから出直してこい!」
「だったらもう面倒だ。ナタリア、お前が副団長になれ! はい、決定!」
「馬鹿たれ! 私が騎士団とギルドの管理でどれほど忙しいか、そんな簡単に引き受けられるわけがないだろう!」
「頭でっかちのお前なら、騎士団もギルド管理も副団長も、なんら問題なくこなせる。大丈夫だろ!」
「貴様は! いつになったらそのいい加減な性格を治すんだ!」
いがみ合う二人を見て、このままでは埒が明かないと判断した。私は、一気に会話を割って入った。
「あ、あの! 私が、副団長ではだめでしょうか......!」
さっきまで白熱していた空気は、氷点下まで一気に下がり、執務室はしばしの沈黙に包まれた。
「アリア!待て!早まるんじゃない!こんな、いい加減で下賤な男のギルドに、率先して行く必要はないんだぞ!」
すぐに冷静になったナタリア監督官は沈黙を破り、生贄に選ばれた生娘を引き留める母親のように、真剣な眼差しで私を見据え、両肩を強く掴んだ。
「ナタリア監督官......痛いです......」
「テメェ、元勇者をオークかゴブリンみたいに扱いやがって」
「ああ、貴様なんか、勇者のガワを被ったただのゴブリンかオークだからな!」
「なんでいっちょ前に母親面してんだよ、バツイチ監督官」
「アリア、お前が私の代わりになって犠牲になる必要はない。私は大丈夫だ。お前が、あの男によって穢されるのは私には耐えられない!」
「それ、オークに襲われた時に吐くセリフだ!」
アーサー団長のツッコミを他所に、私は肩を掴むナタリア監督官の腕を優しく払った。
「ナタリア監督官、私は大丈夫です。私を救ってくれたナタリアさんやアーサーさんには、心から感謝しています。ナタリアさんと同じくらい、アーサーさんにも恩返しをしたい。だから、私が、副団長になります!」
曇りのない純粋な瞳に、ナタリア監督官は観念したかのように手を放した。
「仕方がない......お前がそこまで言うのなら。......アーサーのギルドの許可を認めよう」
「マジか!」
「ただし、ギルドは管理する私の監視下に置かれる。勝手な真似はするな。あとアリア。書類の名目上は副団長だが、資格はまだだ。早急に取得するように」
「ありがとうございます、ナタリアさん!」
喜び勇んで少女が退出したのを見計らい、ナタリア監督官はアーサーの胸ぐらを掴み、容赦なく机に引き寄せた。
「アーサー。分かっていると思うが、ウチのアリアを泣かせたらどうなるか、分かっているな?」
「母親かよ!オメーは!」
そして私はアーサー団長に恩返しするためにギルドスカイホークに入った。
現在
「お前が幸せそうで、本当に安心したよ」
腕を組み、アリアの回想に聞き入っていたスレイは、彼女が今、幸せに暮らしていることに安堵の笑みを零した。
「まさかアリアさんが、ギルド設立当初からずっといらしたなんて」
ギルド設立の歴史の意外な一面に、サリーは素直に驚きを示す。
「ナタリア監督官の元でお世話になっていたなら、その実力の高さは納得ですね」
アリアの強さの秘訣を知り、スノウは冷静に頷いた。
「ここまで聞かせてもらったら尚更だ! アリアさんやスレイが慕っていたフリードを、絶対に救い出さないといけないな!」
エドラは決意を新たに拳を握り、瞳を輝かせた。
「フリードだけじゃない。あの時の俺たちと同じく、ソロモン教団に捕らわれた町の人々を救い出さなきゃならない」
スレイは力強く頷き、エドラの肩を軽く叩いた。
「俺たちだけで、ソロモン教団――いや、『ヴェルゼビュート』を倒し、フリードと町の人々を救い出すぞ!」
「「「「おう!」」」」




