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勇者の弟子  作者: ヤス
天上の梯子
22/96

22話、天上の梯子2

※このエピソードは少し過激なグロ表現あるので閲覧注意。

あと、悪魔とエドラたちの因縁を書く都合上すこしダークで陰鬱な作風なってしまいますので暗い展開が苦手な方注意かもしれません。

アリアは、静かに、しかし強い意志を込めて口を開いた。


回想


私がまだ10歳だった頃、家族や友人に囲まれ、平和に暮らしていた。


そんなある日、突如として盗賊団が村を襲撃した。大人たちは容赦なく殺され、村はたちまち黒煙と炎に包まれた。そして、私を含めた子どもたちは、次々と馬車に乗せられていった。


盗賊団は、私たち子どもを、多額の報酬と引き換えにソロモン教団へ引き渡した。


後に判明したことだが、ソロモン教団は魔王ルシファー復活の手段として、敢えてレベルが未発達な子どもたちを攫っていた。魔王の器の候補となる存在を作り出すため、教団は裏で盗賊団を雇い、私たちを誘拐させていたのだ。


しかし、「魔王の器の候補」とは名ばかりで、私たちに優遇されることなど一切なかった。


魔王の強大な魔力に耐えうる肉体を作るため、教団は私たちをマナ濃度が異常に高い採掘場に監禁した。そこで過酷な採掘労働を強いながら、濃すぎるマナの環境下で強引にレベルを上げさせようとしていたのだ。


高濃度のマナが常に充満した環境は、熟練の冒険者ですら長居すれば体を崩す過酷な場所だった。当然、レベルが未発達な子どもたちにかかる肉体的・精神的な負担は計り知れない。


「もういやだ……。おうちに、かえりたいよ……」


当時の私は、誰よりも気弱で泣き虫だった。この地獄のような日々を、吐き気と頭痛に耐えながら毎日怯えて泣き明かしていた。


だが、この鉛色の地獄の底にも、一筋の希望の光は存在していた。


「みんな、顔を上げろ!大丈夫だ!今日を乗り越えれば、必ず生きて帰れる!」


そう声を枯らし、高らかに、私のような打ちひしがれた子どもたちを鼓舞し、励ましてくれた少年――フリードが、そこにいた。


フリードの存在こそが、私たちをこの地獄で踏みとどまらせた、唯一の理由だった。


私やスレイ、他の多くの子どもたちにとって、彼は単なる仲間ではなく、心の灯火(ともしび)そのものだった。


フリードの強靭な意志に感化された私やスレイは、彼の隣に立ち上がることを決めた。私たちもまた、他の子どもたちを必死に鼓舞し、支え合った。そして私は、その小さな背中を支えるように、フリード自身も励まし続けた。


そうして、私とフリードの距離は自然と縮まっていった。


「フリードは本当に強い。私は怖くて泣いてばかりで、ただあなたの真似しかできない」


「そんなことはないさ。俺も正直、本当は怖いんだ。でも、俺がこの中で一番の年長だから、先頭に立ってみんなの希望そのものにならなきゃいけない。希望は絶対にあるって、俺が信じ続けなきゃならない」


「私も……!私も、フリードの隣に立って、みんなを応援する!そしてフリードと一緒に、みんなを支えたい!」


「アリア……ありがとう」


二人で支え合い、教団からの理不尽な労働や、時折発生する野生モンスターの襲撃にも耐え続けた。そうした日常の中、ある日、珍しく教団の幹部連中が採掘場にやってきた。


幹部たちは子どもたちを一箇所に集め、まるで品定めをするかのようにじっくりと観察した。そして、彼らの視線がスレイでぴたりと止まった。


「この子なら、あるいは耐えられる……」


「うむ、その可能性は高い」


奴らは、恐らくスレイを魔王の器にしようと決めていたのだろう。


一人がスレイを指差し、勝ち誇ったように宣言した。


「喜べ。貴様はルシファー様の器に選ばれたのだ」


その教徒がスレイの細い手首を掴もうとした、その刹那――


「待て!年齢的にもレベル的にも俺が一番上だ!選ぶなら、スレイではなく俺を選べ!」


「貴様、何をする!」


教徒の一人が声を荒げたが、幹部はそれを一言で制止した。


「静かに」


「ふむ、小僧。貴様のその度胸、気に入ったぞ」


フリードは額に一筋の冷や汗を流しながら、交渉を持ちかけた。


「俺と取引をしろ!俺が魔王の器になってやる!その代わり、器でもなんでもない俺以外の全ての子供たちを、今すぐ解放しろ!」


「……いいだろう」


「フリード!それじゃあ、あなたが……!」


私は思わず叫んだが、「アリア!」と、フリードの荒げた、厳しい声に遮られた。


スレイも私も、唯一の希望であったフリードを失う底知れぬ恐怖に体が縫い付けられたように固まってしまった。


選ばれた恐怖で立ち尽くすことしかできなかったスレイは、震える声でフリードに謝罪を繰り返した。


「フリード……ごめん、俺……」


その間にもフリードは、私たちに優しく、力強く微笑みかけた。


「アリア、スレイ。俺は大丈夫だ。みんなを頼む」


やがて、教団幹部たちはフリードを連れ、採掘場の奥にある祭壇へと向かった。しかし、


「………さてと」


幹部が立ち去った直後、残された教徒たちが嘲笑を浮かべながら、無力な私たちを前に武器を構え始めた。


「おい!話が違うじゃないか!」


突如放たれる殺気に戸惑うスレイ。


「私たちを生きて解放させるんじゃなかったの!?」


私は必死に訴えた。しかし、


教徒の一人が、血も涙もない目で答えた。


「あいつは『解放しろ』とは言ったが、『生きて解放しろ』とは言っていない」


「つまり、お前たちを殺して『解放』させる、ということだ」


「そんなの理不尽だ!」


その時だ。鉛のように重い空気を切り裂き、採掘場の外から雷鳴にも似た衝撃音が轟音と共に響き渡った。


「な、なんだ!?」


外で見張っていた教徒の一人が、血相を変えて駆け出した。


「た、大変だ!やられたぞ!騎士団が攻め込んできた!」


採掘場全体になだれ込んできたのは、ナタリア率いる騎士団、ランスロット、ガラハッド、という名だたる強者たちの中にアーサー団長がそこにいた。


「被害者を見つけ次第、早急に救助せよ。教徒は生死問わず、一人残らず拘束だ!」


ナタリアは怒号のような指示を騎士団員に送り、迫りくる教徒を冷徹に棍棒で打ち据え、次々と捕縛していった。


現場が混乱する中、駆けつけた騎士団員とアーサー団長が私たちを見つけ、保護してくれた。


「辛かっただろう。よく頑張った」


駆け寄った騎士団員が、動けない少女の頭を撫で、優しく言葉を掛ける。


「被害者はこれで全員か?」


アーサー団長からの確認に、私はすぐに首を振った。


「いいえ、まだ一人残っているの!」


「どこだ?」


「あっちよ!」


私は、フリードが連れて行かれた方向へアーサー団長を誘導した。


その時、複数の野生モンスターが私たちに向かってきたが、アーサー団長が即座にその動きを止めた。


「俺はここで足止めする。早く友達の元へ行け!」


アーサー団長の迅速な判断に、私は頷き、指示通りに先へ進んだ。


奥に辿り着いた場所は、祭壇だった。分厚く堅牢な石造りの扉は閉ざされていたが、幸いなことに、子どもである私でもすり抜けられる幅が残されていた。


私は小さな体を地面に這いつくばらせ、その狭い隙間にねじ込み、内部へ侵入した。


内部は冷たく、底の知れない不気味な空間だった。恐怖で泣きそうになる自分を叱咤し、フリードの顔を必死に思い浮かべて、私は前に進んだ。


前に進むたびに、体に圧し掛かるように空気が重くなる。その重圧の中、ほんの少し灯る明かりを目印に、私はさらに奥へと進んだ。


灯りの奥に、じっと動かない人影が佇んでいた。


「……フリード、そこにいるの?」


そこに佇んでいたのは、全身が血塗れになったフリードだった。左目からは涙のように生々しい血が、絶え間なく滴り落ちている。


その悍ましい光景に、私は一瞬で言葉を失った。声を上げることすらできなかった。


「貴様は……誰だ……」


その声は、見た目はフリードであるにもかかわらず、冷たく、感情のない、別人の声だった。優しかった面影はなく、冷徹な瞳が私を睨みつけている。


あれは、私の知るフリードではない。フリードの姿を借りた「ナニか」だ。私は、その存在から発せられる底知れない不気味な邪気を感じ取り、反射的に後ずさりした。


フリードの姿を模した「ナニか」は、ゆっくりと片手を額に当てた。


「……そうか。この(わっぱ)の記憶を読み取った。貴様は、この(わっぱ)の知り合いであるか」


「あなた、誰なの?フリードはどこ?」


危険だと理解しながらも、私は思わずその「ナニか」に問いかけた。


「我が名は『ヴェルゼビュート』。”魔王の残骸”(レギス・レリック)の一人である**」


その言葉と同時に、フリードの左目が禍々しく、病的な黄色に光を放った。


私は更に一歩、後退しようとした。だが、足元に冷たく濡れた感触を覚え、思わず見下ろす。そこには、フリードを連れ去った教団幹部たちの死体が、血溜まりの中に転がっていた。


私は、叫び出したい衝動を必死に押さえつける。ここで声を出せば、ヴェルゼビュートは迷うことなく、私の命を刈り取るだろう。


「……ああ。軽く運動がてらに動いたら、脆くも死んでしまったな。まあ、そこの小娘で、もう少し運動の続きをするか」


ヴェルゼビュートが冷たい笑みを浮かべ、私に飛び掛かろうとした、その直前――


「………この気配。忌々しいあの聖剣の気配が近くにあるのか……聖剣が近くにいる以上、長居は無用だ。小娘、貴様は運がいい」


「待ってよ!フリードを返して!」


私は叫んだ。だが、ヴェルゼビュートは祭壇の濃い闇の中へと一歩踏み込むと、瞬く間にその姿を消した。


今思えば、ヴェルゼビュートは聖剣を携えたアーサー団長の強大な存在を察知し、逃亡したのだろう。それが事実だ。


だが、その時の私に残ったのは、恐怖に足がすくみ、大切な人を救えなかったという、拭い難い後悔と、激しい慟哭だけだった。

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