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勇者の弟子  作者: ヤス
天上の梯子
21/96

21話、天上の梯子1

「また、ダンジョン調査とはな……勘弁してくれ」


石畳の街道を歩きながら、エドラは隠すことなく不満を吐き出した。


「エドラ! 久しぶりの仕事なんだから、文句言わないの!」

そんな彼に、サリーがすぐに注意を促した。彼女は、この任務をきちんとこなしたいという真面目さから、エドラの不満を許せなかった。


「調査程度なら問題ないだろ。どうせお前のようなひ弱な奴には荷が重い仕事は来ない」

横を歩くスノウは、エドラをいつものように冷笑し、淡々と応じる。彼の声には感情が感じられず、まるで遠い出来事を話しているかのようだ。


『副団長研修』という名目で、エドラ、サリー、スノウの三人は、隊列を組んで目的地へと向かう街道を歩いていた。表向きの目的は軽いダンジョン調査だが、彼らが知らされていない裏の真実は**『悪魔の左目を持つ男の拘束』**という、騎士団でも最高機密に属する任務だ。


三人の後ろを、彼らの付き添い役として歩くアリアは、太陽の光が明るく差し込む街道とは裏腹に、内心でこの同行の是非を自問し続けていた。


(団長は『軽く動向を探る程度』と言っていたけれど、相手はソロモン教団の残党……。彼らを危険に晒すことにならないか?)


彼女の頭には、前日、団長室で交わしたアーサー団長との緊迫した会話が、何度もよみがえる。


――回想・団長室にて――


「しかし団長、こんな極秘の裏任務に、エドラたちを同行させる必要性が、本当にあるのでしょうか?」


「まあな。噂程度にしても、遅かれ早かれあいつらは何かしらの形で真実を知ることになる。ならば、早いうちに経験を積ませてやることに越したことはないだろう」

アーサーは、面倒くさがりな様子のまま、どこか寛容な笑みを浮かべた。その表情は、アリアの不安を軽くあしらっているように見える。


「しかし、エドラとサリーはまだ新人ですよ! この任務は、彼らにとってはあまりにも荷が重すぎます!」


「だが、かと言ってあいつらを完全にのけ者にするわけにもいかない。『ホワイトベアの合同クエスト』の時のように、また無断で参加しかねない。それなら、お前が『お目付け役』として最初から同行しといたほうが、まだ無難だろう」


過去の失敗として『ホワイトベアの合同クエスト』での一件を引き合いに出され、アリアは反論の言葉を失い、ぐっと閉口した。アーサーの言葉は正論だった。この件に関しては、彼女に一切の弁解の余地がない。


(まあ、「それなりにキャリアを積んでいる」スノウもいる。彼がいれば、最悪の事態は避けられるはずだ……)

アリアは、そう胸中で自分に言い聞かせ、張り詰めた気持ちを努めて冷静に切り替えた。


北の山間にある目的地への中継地点となる街『ハヴェン』はすぐそこだった。


一行が石畳の道に入った途端、四人全員が同時に動きを止める。街全体が深い静寂に包まれており、昼だというのに人の気配が一切ない。風の音すらも吸い込まれたかのような、異様な静けさだった。


「ねえ、なんか、変だよ……人っ子一人いない」

最初に口を開いたサリーの声が、異様なほど静かな街に響き、すぐにその静寂に飲み込まれる。


「ああ、気のせいじゃないな」

スノウが静かに応じ、警戒心を露わにする。


「これは一体、どうなってる!?」

エドラが驚きの声を上げた。


(街の住人がいない……この街付近で、ソロモン教団残党の目撃情報があったと。間違いない……)


この異常な状況に、アリアは極秘任務の危険性を確信した。ソロモン教団はまだ生きている。


その異様な静けさの中、奥の建物から微かな物音がした。四人は一斉にそちらに視線を向ける。アリアが即座に携えていた槍を構え、鋭く「誰だ!」と声を荒げると、建物の影から一人の男が現れた。


「……騎士団に依頼を託したら、まさかお前自身が来るとはな。久しぶりだな、アリア」

男は静かに、だが確信を持ってアリアの名を呼んだ。


「スレイ!……スレイ、なのか?」

アリアの顔に、驚きと懐かしさ、そして旧友との再会を喜ぶ色が一瞬で広がった。武器を構える手が一瞬緩む。


「アリアさん、この方は一体……?」

スレイを懐かしむアリアに、サリーが困惑した様子で尋ねた。


「紹介する。彼は私の昔馴染みの友人で、スレイだ。スレイ、彼らはエドラ、サリー、スノウ。私の大切な部下だ」

アリアは、すぐに気を持ち直して冷静に紹介した。


「スレイだ。俺がこのクエストを依頼した! よろしく」

スレイは軽く挨拶を済ませると、すぐに本題に入る。


「お前が来たってことは、やはり、過去の因縁にケリをつけに来たのか?」


「いや、私はあくまでも調査だ。そんなつもりは今は無い」

アリアはきっぱりと否定したが、スレイの視線は鋭いままだった。


「”悪魔の左目を持つ男の拘束”、あの内容を知ってお前が飛び出してきたのかと思ったがな……」


「スレイ!」 アリアが慌てて制止の声を上げるが、時すでに遅し。男がうっかり口を滑らせた極秘の任務内容が、張り詰めた空気に響き渡った。


エドラ、サリー、スノウの三人は、一瞬の沈黙の後、露見したクエスト内容の異様さに顔を見合わせ、困惑に包まれる。


「アリアさん……ダンジョンの調査じゃないのですか?」

サリーは、裏切られたような戸惑いの表情をアリアに向けた。


「”悪魔の左目を持つ男”って……一体どういう意味なんですか! アリアさん!」

エドラは動揺と疑念を滲ませながら、アリアに詰め寄った。


「副団長、俺たちに何か隠していませんか?」

スノウは感情を読み取らせない鋭い視線で、真っ直ぐとアリアの目を見つめた。その言葉は、エドラとサリーの動揺した問いかけよりも重く、アリアの逃げ道を塞ぐ。


(こうなるから、エドラたちには同行して欲しくなかった……)

団長アーサーのいい加減さを心の中で責めながら、アリアは深く息を吐き、観念したかのように口を開いた。


「すまない、お前たちをだますつもりはなかった。これは騎士団直属の極秘任務だ。騎士団や周囲には他言無用で頼む」


アリアは、まず謝罪と口止めをすることで、場に新たな緊張感を作り出した。そして、その場の誰もが息を詰める中、彼女は沈黙を破り、事の経緯をすべて話し始めた。


ソロモン教団のこと、騎士団が秘密裏にソロモン教団の行方を調査していること、そしてこの任務が極秘である理由を、すべて一同に説明した。


「そんな事になっていたのか……」

アリアの言葉を聞いて、エドラは素直に信じ込んだ。その事態の重さを噛みしめるように、彼の表情は硬くなる。


「こんな大事な仕事を私たちがやって大丈夫なの?」 サリーは極秘任務の重さに青ざめる。


「というか、そもそもこんな重要な極秘任務を、いい加減なウチの団長に振った騎士団の判断ミスでは?」


(否定できないな……)


スレイ以外の全員の心が、一瞬で一つにまとまった。


「俺にはよく分からないが、アリア」

スレイは戸惑うように頭を搔きながら、アリアを見据えた。


「ここまで話したなら、俺たちの過去ことをこいつらに話す必要があるんじゃないか」


アリアは、静かに頷いた。


「そうだな。もう、隠している場合ではない」


彼女は深く息を吸い込むと、まっすぐ団員たちを見つめた。その瞳には、かつてないほどの決意が宿っている。


「お前達にも話さないといけないな。ソロモン教団と私の、本当の因縁を……」

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