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勇者の弟子  作者: ヤス
天上の梯子

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20話、動き出す影

今回から新章入ります。魔王を倒したアーサーたちにとって因縁ある魔王配下である悪魔が本格的に登場します。本章の特徴としてはアリアにとって因縁の過去との決着、エドラの謎の一端に触れたりします

「さて、アーサーとの個人的な話が終わったことだし、本題に入ろうか!」


マクシルは手を打ち鳴らし、先ほどまでの穏やかな表情を一変させた。アーサーの処遇への疑問に答えた彼は、改めて集まった四人の英雄たちへ、真剣な眼差しを向ける。


「アレイスターがこの場にいないのは心細いが……」


彼は小さく呟いた後、声を低くした。


「魔王を倒した君たちには先に話しておくと、10年前、我々が壊滅させた『ソロモン教団』を覚えているかい?」


「はい! かつて魔王ルシファーを神と崇める邪教集団ですよね!」

ガラハッドは即座にマクシルの問いに答えた。


「たしか、『ソロモン教団』の狂気的な布教活動と非人道的な宗教活動を騎士団が問題視し、我々も動員して壊滅させた、と記憶していますが」

ランスロットは慎重に確認するように口を開いた。


「そうだ」

マクシルは静かに頷く。


「我々とかつての勇者であった君たちの手を借りて、教団は表向きは滅びた」


彼は言葉を切り、四人の顔をじっくりと見つめた。


「しかし、近年『ソロモン教団』の残党と思しき者たちが、何やら裏で暗躍しているという不穏な噂を耳にした」


「残党が⁉」

ガラハッドの声が、張り詰めた室内に響く。


「ああ。ソロモン教団の残党たちは、どうやら良からぬことを企てているようだ。例えば、君たちが命を懸けて倒した魔王ルシファーの復活、とかね」


「あんな化け物を蘇らせるとか、正気とは思えない! どういう神経をしているのだ、あいつらは!」

自分たちが命を賭して倒した脅威を再び呼び覚まそうとする教団残党の企みに、ナタリアは怒りと激しい嫌悪感を露わにした。


「いや」

アーサーは腕を組み直したまま、冷めた口調で分析を差し挟んだ。


「『ソロモン教団』そのものではなく、その後ろにいる奴が企てているんだろうさ。魔王配下の『悪魔たち』とかな」


「確かに、悪魔たちがそいつらに囁きを吹き込んでいるなら、辻褄は合うな」

ランスロットは納得したように深く頷いた。


「しかし、これはあくまでも『噂』の範疇で、確信は持てない。だが、油断はできない!」


マクシルは声を潜める。


「ゆえに、この情報は、魔王ルシファーを倒した君たちと私だけの、極秘事項としたい」


「世界が平和になって二十年。人々の心の傷は癒えてきているとはいえ、不確定な『噂』を公表すれば、国中に大混乱を招きかねないからね」


アーサーは、マクシルの言葉を最後まで聞かずに前のめりになって訊ねた。


「それで旦那、俺たちは何をしろと? アンタがただ情報を共有するだけで満足するはずがない」


アーサーの鋭い洞察力に応えるかのように、マクシルは懐から三枚のクエスト依頼書を取り出し、テーブルに滑らせた。


「君たちには、それぞれソロモン教団に関するクエストをやってもらうことになる」


「もちろん、クエスト内容は団員に知られることのないよう、公的な名目で言葉を濁してある」


「団員には内緒で、秘密裏にソロモン教団の動向を調査せよ、ということでしょうか」

ガラハッドは依頼書の内容を読み取りながら、マクシルに確認した。


マクシルは一つ頷いた。


「そうだ。基本的に団員にはすべてを伏せておき、副団長と協力して調査を進めて欲しい。今は何よりも不確定な情報を集めることが先決だ」


ナタリアは厳しい顔つきでアーサーに問いかけた。


「アーサー。貴様の副団長……アリアには、この手の調査は荷が重いクエストになると思うが、いいのか?」


「そこはあいつと相談して決める」 アーサーは躊躇なく即答した。


「アリアの奴は、むしろ自身の過去と向き合うために、進んで請け負うだろうしな」

ナタリアはそれ以上は追及せず、アーサーの決断を受け入れた。


「ふむ……それにしても、アレイスターにもどうにか連絡をとって協力してもらいたいのだが、困ったな」

マクシルは指で顎を叩きながら、事態の難しさを改めて示した。


「マクシル長官」 ナタリアは凛とした声で進言した。

「アレイスターについては、騎士団の枠を超え、引き続き私の方で捜索にあたります」


「ありがとう、ナタリア」 マクシルは満足げに頷いた。


「よろしい。解散後、各自迅速に行動するように! アーサーは、活動再開後直ちに調査を開始しても構わない」


「「「「了解!」」」」


四人は声を揃え、寸分の乱れもなく敬礼した。彼らは、マクシル長官が扉から出ていくのを、重い沈黙の中で見届けた。


緊迫した会議が終わり、四人が待機室を出ようと各々歩き出したその最中、アーサーはふと何かを思い出したかのように、ナタリアを呼び止めた。


「そうだナタリア、オルトロスの団員異動の件で、一つ聞きたいことが......」


ナタリアは立ち止まり、冷たい視線のまま彼に向き直る。


「どうした?」


――それから、一か月が流れた。


その間、半壊していたアジトは、エリーが丹精込めて時間を掛けて無事に修復を完了させた。そして、リゾートでのバカンスを楽しんでいたエドラ、サリー、スノウ、そしてアリアの四人が、賑やかにアジトへと帰還する。


かつて古びていた古城の面影はなく、アジトは新築同様の荘厳な城へと修復されていた。磨き上げられた石材ときらめく窓、そのあまりの変貌ぶりに、エドラ、サリー、スノウは興奮で声を上げる。


「すげぇぇ! 完全に生まれ変わってる!」

「お城じゃん! 私たち、王族みたい!」

「受付ホールがめちゃくちゃ広くなってるー!」


喜ぶ三人を横に、エリーは壁にもたれかかるようにして、魔力の使い過ぎでぐったりとしていた。顔色も少し青白い。


「お疲れ様、エリー。いろいろ無理させたな」

アリアは、その様子を気遣うように労いの言葉を掛けた。


「ううん、大丈夫だよ……ただ、空間の広さや構造の微調整は、ミリ単位で神経と魔力を使うから……いつまで経っても慣れなくて、疲れるわ」

エリーは弱々しく笑う。


「内部構造はあまり変わっていないのか?」


「うん、変に構造を変えてしまうと、みんな迷うでしょ? だから慣れ親しんだ構造はこのままにして、部屋数だけを増築しておいたの」

エリーは疲れた顔でそう答える。


「部屋を増やした?」


「騎士団主導でオルトロスの組織再編成が行われたから、それに合わせて余分に増やしたのよ」


「オルトロスが……なるほど」

騎士団主導による組織再編成の報に、アリアは一瞬目を見開いたが、すぐにナタリアが画策した人事異動の意図を理解した。


「そうだ、アリアさん」

エリーはふと思い出したように付け加えた。


「団長が、アリアさんにお話ししたいことがあるって呼んでましたよ」


「団長が私に?」


「うん!」


エリーの言った通り、アジトの内部構造がそのままだったことに安堵したアリアは、慣れた足取りで団長室まで進んだ。軽くノックをし、「失礼します」と声をかけて中へ入る。


「団長、お話というのは……」


「ああ。まあ座ってくれ」

アーサーは短く促し、アリアが席につくと、すぐに本題に入った。


彼は、騎士団本部での会議の内容、スカイホークの処遇、そしてマクシル長官から受けた極秘の任務について、簡潔にアリアへ伝えた。


「……『ソロモン教団』が……まだ活動していたなんて」

アリアは、その情報の重さに息を呑んだ。


「あくまでも『噂』だ。だが、無視はできない」

アーサーはそう釘を刺すと、テーブルに置かれた一枚のクエスト依頼書を指し示した。


アーサーが指し示した依頼書は、表面には『謎の建造物を調査せよ』と、一見普通のダンジョン調査クエストの文言が記されていた。


だが、それは巧妙な魔法による偽装だ。アーサーが手を触れ、アリアに渡すと、依頼書に記された文字は一瞬で暗い光を放ち、『悪魔の左目を持つ男の拘束』へと変化した。


「長官から渡された、この本命のクエストを調査して欲しい」


アーサーは真剣な眼差しをアリアに向ける。


「もちろん、この任務がお前の過去に深く関わることを鑑みれば、無理にとは言わない。あくまで軽く動向を探る程度だ。本当は俺も調査しないといけないが、どうしてもやらなきゃいけない事があるからな。副団長研修という名目で、エドラたちを同行させてもいい」


「エドラたちには、なんと説明を?」


アリアは任務の重さを理解しつつも、冷静に確認した。


「もちろん、偽装の通り、『ダンジョンを軽く調査する程度』で話を通す。お前が極秘任務に就いていることは、誰にも悟らせるな」


依頼書を握りしめたアリアは、深く息を吐き出した。

(……いい加減に、もう過去から逃げるのはやめて、向き合わないといけないな)


「承知いたしました。この任務、受けさせていただきます」

アリアは、迷いのない声で団長に告げた。

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