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勇者の弟子  作者: ヤス
エリー奪還
16/96

16話、エリー奪還~ただいま~

怒気を纏ったアーサーは拳を握り、指の関節を硬質な音を立てて鳴らしながら、獲物を追い詰めるようにゆっくりとレスターへと近づく。エリーは負傷したサリーを抱え、空間魔法で瞬時にその場を離脱した。


「アーサー団長、いいのか?私にたてついたら、お前のギルド諸共路頭に迷うことになるんだぞ!確かギルド同士の抗争はご法度だったはずだ!いや、それ以前にお前の部下たちが既に好き勝手やってるから、もう手遅れか....」

レスターは鬼気迫るアーサーに一切物怖じせず、口の端を吊り上げて煽る。


「.....だったら何だ?勝手にウチの団員を攫って、アジトを壊して.....そうやって先に仕掛けてきたのはお前らだろ?」

静かに、しかし有無を言わせぬ響きを帯びた声音でアーサーは返す。


(......ああ、勇者になってしまった、この偽物風情がキャンキャン吠えやがる......)

レスターの内に、どす黒い感情が熱く濃く溜まっていく。

(本当は俺が勇者になるはずだった!たかが捨て駒一つにここまで執着してムキになるなんて、つくづく不愉快でむかつく男だ.....)


「団長である私を殴ればそれこそ、団長解任でギルドは解体だ!そうなれば地位や名声、立場......お前が魔王を倒して積み上げてきたモノのすべてを失うんだぞ!怖くないのか?」


「やれるものならやってみろ。相手が騎士団だろうがギルドだろうが、俺の団員(ガキ)どもを傷つける奴は誰であろうと叩き潰す。自分(テメー)自身の立場をかなぐり捨ててでも、俺にはあいつ等を守る義務があんだよ」

決然と言い放ち、物怖じせず煽り罵倒するレスターをアーサーは一蹴する。


仲間を守るために名声や地位を捨てるというアーサーの責任感に、レスターは心底癪に障り、とうとう溜まっていたどす黒い感情をアーサーに叩きつける。


「ああ、ご立派だ!地位も名誉も鼻で笑うお前のそういうところが癇に障って仕方がないんだよ!たかが小娘一人の為に築き上げたモノすべて捨てて、吐き気がするほど気持ちが悪いんだよ!偽物が!お前は勇者なんかじゃない!本物の勇者はこの俺だ!」


レスターは感情をすべて吐き出すとともに、幾十にも及ぶ巨大な風の塊を怒号の如く作り上げ、すべてアーサーにぶつける。


しかし、その渾身の攻撃は、いくら大量にぶつけられようとも、アーサーの鋼の如き頑強な肉体に致命的な傷をつけることはない。せいぜい服が破れる程度の浅い傷に、レスターは信じられないといった風に驚愕する。


風の咆哮を突き破り、あと四歩で辿り着くアーサーの凄絶な怒気に、レスターは身体の芯から震えが走り、恐怖で言葉を詰まらせる。


「悪いが、お前みたいな雑魚に俺はいちいち関心しない。お前のような小物にまともに全力出すのも面倒臭いから、二割程度で相手してやんよ」

そう言って力を込められた右拳には、たった二割の力とは思えないほど強大な闘気が溢れ出し、空間を歪ませていた。


レスターから見たら、アーサーはまるで蛙を睨む蛇頭(じゃとう)の如く、禍々しい邪気を纏った鬼神が幾重にも重なって見えた。

(こいつは.....勇者じゃない...こいつは化け物だ.....)

極度の恐怖でレスターの思考が完全に停止する、その一瞬――


「じゃあな「()()()(()())()」!」


アーサーは、空間を歪ませていた闘気を纏わせた重い右拳を、レスターの顔面に一切の容赦なく直接ぶつけた。


人間を殴打した音とは思えない、鈍く重い衝撃が場を満たし、レスターの身体は視界から消えるほどの猛烈な勢いで吹き飛んだ。その衝撃は、オルトロス本部を一瞬で突き破り、巨大な風穴を開けながら五キロ先の町まで一つの影となって猛スピードで飛ばされた。


オルトロス本部の門前では、エドラたちが静かに待機していた。


やがて、先ほどまで轟音が響いていたはずの本部建物の奥から、薄っすらと人影がこちらに向かってくるのが見える。それは、騒動を終えたばかりだというのにどこか拍子抜けするほど穏やかな足取りで、頭を掻きながら歩いてくるアーサーだった。


「オメーら帰るぞ!」

激昂が抜け、いつも通りの鷹揚なアーサーの姿に、エドラたちはエリーを無事に奪還できた勝利を確信し、歓喜に沸いた。


「みんな、待って!」

歓喜に包まれる中、エリーは一段と高い声を上げて彼らの動きを遮る。


「みんなもう少し待ってて。私、ケリをつけたいことが残っているの」

一団を見据えるエリーの目には、確固たる覚悟が宿っていた。


「......家族か」

真っ直ぐ見据えるエリーの視線の先にあるものを、アーサーは静かに悟る。


【場面転換:領主の屋敷へ】


傾きかけた太陽が空を茜色に染める夕暮れ時。


エリーは、激しい戦いや逃亡の果てにボロボロになっていた容姿を、以前よりも一層綺麗に整え、見合い相手である領主の屋敷の敷居を跨いだ。


屋敷の客室では、憎き実の両親と領主が、高価な茶菓子を前に他愛もない談笑に浸っていた。


「おや、エリザベス。随分と遅かったじゃないか!領主様になんて失礼な!」

「そうよ、あなたの為に待ってくださったんですもの!」

両親は、エリーに咎めるような視線を向けた。


「まぁまぁ、お二人とも私は構いませんよ!恐らく女子(おなご)のおめかしに時間を掛けていたのでしょう!」

小太りの領主は下卑た笑みを浮かべて言う。彼は22歳の娘の年齢とは全く釣り合わない、アーサー以上の40代半ばの男だった。


(......分かってはいたけど、どのみち生理的に無理ね)


エリーは本心を隠して完璧に作られた笑みで領主に微笑む。


「領主様...私、どうしてもお話したいことがあって、今ようやく腹を括りましたわ!」


「おお!なんだ、言ってごらんなさい!」


「誠に申し訳ありませんが、この度のお話はお断りさせていただきます」


瞬間、室内の空気が氷点下まで凍り付いた。


満面の笑みを浮かべていた領主は言葉を失い愕然とする。一方、両親は顔色一つ変えず、領主に悟られないよう鋭い殺気をエリーに飛ばした。


「私にはどうしてもやり遂げたいことがあって、皆様のお気持ちは大変嬉しいのですが、今回の縁談はどうかお断りさせていただきます」


「この期に及んで!エリザベス!貴様、いい加減にしろ!」


娘の決定的な言葉に、父親はついに我慢の限界を迎え、客間に響き渡る怒声を飛ばした。


「......それはこっちのセリフよ。クソ親父」


エリーは憎しみを込めた掠れた声で、本心を漏らす。


彼女は片手を天に向けて掲げ、まるで空間そのものを愛撫するように、指先を滑らかに撫でまわした。


その瞬間、


領主の屋敷全体がぐらりと、深い地鳴りのような音を立てて揺れ動く。


領主と両親が何が起きたのか理解できずに呆然とする中、エリーの周囲の空間だけが鏡のように滑らかにねじ曲がり、彼女と三人がいる客間は、屋敷の他の部分から寸分たがわず切り離された。


そして、エリーの魔力に従い、客間以外のすべての階層が地盤から持ち上げられ、客室の真上へと、次々と積み重なっていく。


鉄骨が軋み、壁が崩れる轟音が立て続けに響き、元々二階建てだった領主の屋敷は、エリーたちを乗せた客間を土台とし、十数階建ての巨大な尖塔へと、縦一直線に再構築されていった。


彼らがいた客室は瞬く間に最上階となり、窓の外には遥か下界の夕焼けの景色が広がる。


エリーは冷酷な笑みを浮かべた。


その次の瞬間、彼女は纏っていた髪を勢いよくぐしゃぐしゃに崩し、綺麗に閉じていた胸元を無理やり開けてドレスの布地を引き裂き、裾をビリビリに破る。一瞬にして整っていた容姿を自らめちゃくちゃにした。


そして、閉じられていた美脚を勢いよく突き出して、客室に残されたテーブルを踏みつけた。


「いいか、クソ親父!何度も言うけど私は絶対結婚しない!これからは自由に生きていく!だから、もうこれ以上私や『スカイホーク』に関わらないで!もしまた私やギルドに手を出したら、次はこの魔法であんたら全員地中の底にぶち込んでやる!」


娘の殺気立ち、鬼気迫る胆力と宣言に、領主と両親は恐怖に支配され、言葉を詰まらせる。


「さようなら!」


そう言ってエリーは、振り返ることもなく指先を一度ひと撫でした。

その動作と同時に、彼女の身体は、まるで最初からそこに存在していなかったかのように、最上階の客室の空間から掻き消えた。


夜、ボロボロの『スカイホーク』アジトに帰り着いたエリーは、灯りのついた仮設宿舎の扉を開ける。そこには、エドラたちが暖かく食事をする団欒とした空間が広がっていた。


「エリーさん!ご飯食べましょう!」

アリアとサリーに引っ張られる中、エリーは偽りない満面の笑みで言葉を返す。


「みんな、ただいま!」

取り敢えずオルトロスの戦いはいったんここで終了です。その後は軽い後日談をいくつかやってから新章に突入したいと思っています。

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