14話、エリー奪還5
少女はか弱い力で自分より年上のエリーの腕を引っ張り、ただひたすら前へ走っていた。
「サリー、離して!お願い!」
エリーのお願いに耳を貸さず、サリーは走り続ける。
エリーは次の瞬間、意を決してサリーの手を強く振りほどいた。
「私のことはもういいから放っておいて!」
張り上げた声に、サリーは弾かれたように足を止める。
「なんで?なんでそんなこと言うんですか⁉」
「.....あなた達と私はもはや住む世界の違う人間なの。エリーというのは偽名よ。私の本当の名前は『エリザベス・フェルフィーナ』。フェルフィーナ公爵家の令嬢よ」
「なに.....急に」
「オルトロスは私を連れ去ったんじゃない。両親から「見合いの話があるから娘を連れ帰ってほしい」という依頼を受けて、それを私は受け入れた。スカイホークを退団して見合い相手の領主に嫁ぐの!私はもう辞めて嫁ぐから、私のことはもう構わないで!」
ここで一緒に抜け出したら、両親の権力で最悪スカイホークが取り潰される可能性がある。自分を犠牲にしてでも、サリー達、スカイホークを守らねばならない。
ずっとスカイホークにいたい気持ちを抑えて、冷徹な令嬢の仮面を被って、あえて皆に嫌われるように努力しないと.....そう、心の中で決意した。
(サリー、ごめんなさい。....もう、これしか手はないのよ)
「嘘つき......」
掠れた、低い声でサリーは呟いた。
「なんで私たちを突き放すの! なんで全部独りで背負い込もうとするのよ!」
「突き放す?背負い込む?何言ってるの私は――」
「突き放すなら、なんでそんな辛そうな顔してるのよ!」
エリーの反論を遮り、溜め込んだ想いを全部ぶつけるサリー。
冷徹な仮面の奥にある辛そうな素顔を見透かしたサリーには、その演技は通用しなかった。
サリーに決意を見透かされたことで、エリーの瞳から大粒の涙が一粒、滑り落ちた―――。
「........え!?」
「嘘だらけで辛いなんて言葉、私は聞かない。.........あなたの本当の心を聞きたいの」
サリーのまっすぐな優しさに、エリーの涙は堰を切ったように零れた。エリーは堪えきれず、思わずサリーを覆うかのように抱きしめ、声を上げて泣き叫ぶ。
サリーは何も言わず、優しくエリーの背中を摩った。
やがて、二人は近くの倉庫に隠れた。身を寄せ合い、サリーはただ黙ってエリーの話を聞く。
フェルフィーナ公爵家での結婚へのプレッシャー、突然魔法が発現したことで起きた家庭との確執、そしてギルドの皆に黙って去ろうとした理由。
「そんな事情があったんですね.....」
「うん。魔法を発現させたことで家を飛び出して、あてもなく彷徨っているうちに今のアジトを見つけたの。町から少し外れた場所にあって、誰も寄り付かない空き家と化した小さな古城。私はその古城の居心地の良さに安らぎを感じて、そこで勝手に暮らすようになった。そんなある日ね――」
(回想) 【古城の外】
「町にも近いし、なかなかいい場所の古城だな!よし、即決だ!ここをギルドの拠点にしよう!」
外には、古城の雰囲気に一人はしゃぐ当時のアーサー団長の姿があったの。私は当初、肝試しに来た奇妙な変人って目で窓から眺めていたわ。
アーサー団長は無遠慮に古城に入ろうとしたから、私は咄嗟に空間魔法を使って外に放り出したの。
「なるほど、これは面白いな」
アーサー団長がまた古城に入ろうとしたから、再度空間魔法を使って外に追い出そうとしたら―――
「お邪魔しまーす!」
「キャアアアアッ!」
次の瞬間、彼は私がいる部屋に窓ガラスを突き破って入ってきたの。
(いや、入り方が普通に事案レベルよ......。何してんだこの人は......)
デリカシーのないその破天荒さに、サリーは思わずそっと心の内でツッコミを入れた。
「いや~既に住民がいたなんて知らなかったんだ。スマンスマン!」
あっけらかんと笑って誤魔化すアーサー団長を前に、貞操の危機を感じ取った私は、反射的に斧を持って厳重に警戒した。
結局、話してみて彼は普通に良い人だったことが分かり、ここに住み着いた経緯をアーサー団長に話したの。
「なるほど」
「私はここでひっそりと一人で静かに生きていくから、アジトの件はどうか諦めて欲しい」
「で、アンタは何か仕事してんのか?」
「いえ、ここの森で自給自足する予定だから問題ないわ」
「そうか.....よし!決めた!うちの団員として雇ってやる!」
「あの......人の話を聞いてました?ここで自給自足するから問題ないって言いましたよね?」
「アジトも手に入って、おまけに団員も確保とはまさに一石二鳥だな!」
「もしもし~?勝手に一人で話を進めないでもらえますか?ここは絶対譲らないし、私も働かないって!」
「何言ってる、ここアジトにするんだよ!先住人であるお前をわざわざ追い出さないし、ここでただ突っ立って受付してれば一生ここに居られるだろ?」
「なんなの?そのめちゃくちゃな理論.....」
結局、アーサー団長は私ごと古城をギルド『スカイホーク』にしたの。アーサー団長のあまりのいい加減さには頭を抱えたけど、アリアさんやスノウ、そしてエドラやサリーが来てから、更に古城が私の安らぐ場所になったの。
「...だから、スカイホークは私にとって、本当の家なのよ」
エリーはそう言って、そっと目線を上げた。倉庫の中に差し込む微かな光だけが、過去の温もりと現在の切実さを照らしていた。
「サリー、私は結婚したくない!みんなと一緒に居たい!だからここを出るわよ!」
「はい!」
気持ちが落ち着いたエリーはグッと拳を握り、オルトロス本部、そして実家から逃げ出すことを改めて決意する。
二人は倉庫の扉を軋ませないよう静かに開けて、恐る恐る左右を見渡した。周囲に敵がいないことを確認した二人は、息を殺して駆け足で出口に向かう。
エントランス前の広場に入った、その瞬間。
突如、嵐のような風の塊を受けて、二人は為す術もなく吹き飛ぶ。
砂埃が舞う中、優雅に口髭を撫でながらレスター団長が二人の前に立ちはだかった。
「勝手な行動はいけませんねぇ~。フェルフィーナ嬢」




