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勇者の弟子  作者: ヤス
アヴァロンの試練

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100/152

100話、アヴァロンの試練31 空(くう)を絶つ聖剣

記念すべき100話に到達したのでアヴァロン編の大トリとしてアーサーにしました!

間一髪、エドラの窮地に滑り込んだアーサーとマーリン。


絶望に塗りつぶされかけていた戦場に、一筋の強固な希望が射し込む。

遅れて戦地へ降り立った勇者の背中に満身創痍の団員たちの瞳が再び光を宿した。


「「団長……!」」


「「マーリンさん!」」


「おかあさん!おとうさん!」


散り沈りになっていた団員たちが、磁石に吸い寄せられるようにアーサーとマーリンの元へと集まっていく。


「へへ……っ。アーサー団長が来たなら楽勝だ。団長、俺もまだ動けます!協力してあの化け物をブチのめしましょう!」


エドラが声を荒らげて、無理やり剣を握り直そうとする。

だが、英雄の到着に緊張の糸が切れたのか、その足元は無様にふらついた。


「バーカ、何言ってんだ!こんな雑魚、俺一人で事足りる」


アーサーが突き放すように言い捨てる。エドラは食い下がった。


「……何言ってんだ!俺はまだ……やれるんだ!」


ボロボロの体でなお、前線にしがみつこうとするエドラ。

その無鉄砲さに苛立ったのか、アーサーは無造作に右手を伸ばすとエドラの頭を鷲掴みにした。


「いっ……!? いでええええ! 頭があああ!」


万力のような握力。

頭蓋が軋むほどの痛み。

アーサーは至近距離で猛獣のような鋭い視線をエドラに叩きつけた。


「うるせえ、団長命令だ!怪我人はとっとと後ろに下がれ!じゃなきゃ殺す!」


「いでえええええ!んな!理不尽な!」


満身創痍でボロボロの身体であるエドラを見下ろすアーサーは静かに口角を上げる。

少年が恐怖と向き合い、立ち向かおうとした事を静かに悟る。


「ったくよ、多少無茶しまくったようだが、お前は俺の言葉を糧に成長した。なら、最後の一言も黙って聞きやがれ」


直後だった―――。

エドラの頭を砕かんばかりに握りしめていた掌から、ふっと暴力的な力が抜ける。

柔軟になったその手は慈しむように優しくエドラの髪を撫でた。


「え……?」


呆気にとられるエドラをよそにアーサーはゆっくりと歩を進める。

力尽き満身創痍の団員たち一人ひとりの元へ。

彼は荒っぽく、けれどこの上なく温かい手で彼らの頭を順番に撫でていった。

そして、ふっと戦場には不似合いなほど穏やかな微笑を浮かめる。


「サリー、スノウ、アリア、アクア、エリー、ヴァイル、フリード、イスカ。そして……エドラ」


全員の名を確認するように刻みつけるように呼ぶ。


「――よく頑張ったな」


あのアーサーから出た一点の曇りもない賞賛。


――――団長に褒められた。


魔王を倒した勇者が贈る、労いの言葉に団員たちは頬を赤らめる。

団員たちが唖然と魂を抜かれたような表情で見守る中、アーサーは静かに背を向けた。

その視線の先には、魔王の残骸――マモンが鎮座している。


「魔王の分身とは言え、よく頑張ったよお前らは......」


アーサーの瞳から温度が消えて絶対的な「強者」の眼光がマモンを射抜いた。


「死ぬ気で頑張ったお前たちへのご褒美だ。特別に拝ませてやるよ」


一歩、踏み出す。

爆ぜるようなプレッシャーに大気が震えた。


「――勇者様の本気ってやつをな」


「勇者の.....本気....!?」


言葉と共に、アーサーは右手を左の前腕へと添えた。

力を込めて内側から「何か」をゆっくりと引き抜く。

驚愕すべきことにその手が手繰り寄せたのは肉や骨ではなく、眩いばかりに輝く黄金の柄だった。


左腕から溢れ出した光が実体へと凝縮され、周囲に立ち込める闇を根こそぎ焼き払っていく。

神聖なる輝きを纏った伝説がその全貌を現した。


――聖剣『エクスカリバー』。

その美しき剣身をアーサーは静かにマモンへと向けた。


「これが、聖剣……なんて神々しいんだ」


溢れ出す光の奔流に、エドラは息をすることさえ忘れ、ただ固唾を呑んだ。


「マーリン。団員(ガキ)たちを頼む」


「ええ。任せて」


マーリンが短く応じ、魔法を紡ぐ。

団員たちの周囲に光の障壁が展開される。

傷ついた団員たちを優しく、かつ強固に包み込んだ。


アーサーは聖剣を構え直す。

もはや肉塊と化しつつあるマモン――否、成り果てたアヴァリスへと憐憫な視線を向けた。


「ここまで悪魔に侵食されちまっちゃ、もう助ける術はねえ。俺に出来ることはせめてお前を安らかに逝かせることくらいだ」


対するマモンは聖剣が放つ神聖な魔力に当てられて、狂ったように身を悶えさせる。


「勇ユ……うしャ……シゃ者……ぜ……絶望……ぜつゼツぼボおぼボボ……絶望ッ!」


「……うるせえ。お前なんぞに話しかけてねえんだよ、バケモン。そんなに絶望が欲しいか。なら、望み通りくれてやる」


アーサーは聖剣の柄を、ミシリと音を立てるほど強く握りしめた。


「勇者とっておきの『絶望』ってやつをな!この一撃は、防ぐことも逃げることも叶わない。お前の抱える闇ごと、『空間』そのものを叩き斬る!」


「……ア、アアアアアアアアアアアアッ!」


断末魔のような叫びを上げて肉塊と化したマモンが、無数の触手を弾丸のごとき速度で放つ。

だが、アーサーは眉ひとつ動かさず、ただ静かに剣を振り抜く予備動作に入った。


「うおおおおおおおおお!」


「アアああああああああああサああああああああああ」


「消え去れえええええええええええ!バケモンがあああああああああ!」


全神経を両腕へそして聖剣の切っ先へと流し込み、渾身の力で振り下ろす。

刹那、世界が白銀の閃光に塗りつぶされた。


放たれたのは、煌めく光の断層。

空間そのものを両断する絶大なる斬撃が醜く歪んだ悪魔を正面から捉え、その存在ごと次元の彼方へ突き抜ける。

聖剣が遺した光の残滓(ざんし)に触れた先から魔王の残骸は焼かれるかのように浄化され、塵となって溶けていく。


「勇....しャ....アーさ.......コロ.........」


その余波は留まることを知らない。

斬撃は洞窟の岩壁を紙のように切り裂き、アヴァロン島を縦断してなお加速を続け――。


遥か彼方、島の先にある海さえも、天啓のごとき一筋の光によって真っ二つに割れていた。

凄まじい一撃の余波が収まったとき、そこにはもはや洞窟の原形など残されてはいなかった。


切り裂かれた天井の隙間から、黄金色の夕映えが降り注ぐ。

暗く冷たい死の空間だったそこを黄昏の陽光が暖かく、そして静かに照らし出していた。


塵となって消えていく海賊船長の末路を、アーサーは冷ややかに見届ける。


「あばよ……犯罪者.......それと.......過去に取り残された遺物よ」


アーサーが左腕を差し出すと黄金の剣身は粒子状の光へと解け、吸い込まれるように彼の腕の中へと消えていった。

聖剣を左腕に収めた彼が小さく息を吐いた瞬間だった。


「「「うおおおおおおおおおッ!!」」」


地を揺らすような歓喜の咆哮。


「団長おおおおおお!」


「アーサー団長!生きててよかったぁ!」


「おとうさーーーん!!」


勝利に沸き立つエドラたちが我先にとアーサーへ駆け寄った。

死線から生還した安堵と喜びを爆発させた団員たちがボロボロのままアーサーに飛びつき、揉みくちゃにしていく。


「うわっ、止めろ!離せお前ら!くっつくな、暑苦しいんだよ!」

アーサーは顔をしかめ、まとわりつく彼らを必死に引き剥がそうとする。

だが、その声には先ほどまでの殺気はなくどこか照れくささが混じっていた。


「そんなこと言わないでくださいよ、団長ぉ〜!」


「そうだそうだ!最高に格好よかったですよ!」


「止めろっつってんだろ!気持ち悪いんだよ男同士で!野郎はどけ、野郎は!」


罵声を浴びせながらも、されるがままに揺さぶられているアーサー。

その騒がしくも温かな光景を、マーリンは杖を携えたまま、優しく微笑んで見守っていた。

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