第7話 姉の気づき
観覧車での夜から数日が経っても、胸の奥の高鳴りは収まらなかった。
気づけば講義の合間や帰宅後も、美玲さんのことばかりを考えている。スマホに届く一文一文を読み返し、彼女の笑顔を思い浮かべるだけで一日が鮮やかに変わった。
――けれど、その変化は家族にも伝わっていたらしい。
ある日、夕食後のリビング。
姉が湯飲みをテーブルに置き、じっと僕を見つめてきた。
「ねえ。……あんた、最近ちょっと変じゃない?」
「え?」
「スマホばっかり見てにやけてるし、夜も遅くまで何かしてるでしょ」
図星を突かれて、僕は言葉を失った。
姉は腕を組み、じりじりと視線を寄せてくる。
「もしかして……恋人でもできた?」
「そ、そんなわけ……」
否定しようとしたそのとき、姉がふっと目を細めた。
「……まさか、美玲じゃないよね?」
心臓が大きく跳ねた。
湯飲みの湯気が急に濃くなった気がする。
「な、なんで……」
かろうじて声を出すと、姉は溜息をついた。
「この間の食事会からでしょ。あんたの様子、私が一番わかってるんだから」
「……」
「まあ、美玲もあんたも大人だし、どうこう言うつもりはないけど。ただ……軽い気持ちで近づいたら許さないからね」
姉の言葉は鋭いけれど、その奥には妹分を思うような優しさも感じられた。
僕は俯きながらも、勇気を振り絞った。
「……本気なんだ。美玲さんのこと」
しばし沈黙が流れた。
やがて姉は目を伏せ、ゆっくりと笑みを浮かべた。
「……やっぱりね。美玲も、あんたの話になるとちょっと表情が違ってたから」
その一言に、僕の胸は熱くなる。
彼女が自分のことを特別に思ってくれている――その確信を姉の口から聞けた気がした。
「……でも、約束して。誰にも言わないこと。特に劇団関係には。美玲にとって舞台は命だから」
「わかってる。絶対に秘密にする」
僕の答えに、姉はようやく肩の力を抜いた。
「ならいい。……弟を信じるよ」
その夜、部屋に戻ってスマホを開くと、美玲から短いメッセージが届いていた。
――今日もありがとう。次は、もう少し長く会いたいな。
僕はすぐに返信した。
――僕も。ずっと隣にいたいです。
そしてそのやりとりの背後に、姉の微笑みと忠告が重なり、秘密の恋の重みを一層深く感じた。
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