第6話 観覧車の頂上で
ゴンドラがゆっくりと上昇していくにつれ、僕の胸の鼓動は早鐘のように高まっていった。
窓の外には、都会の夜景が広がっていく。ビルの灯りや車のヘッドライトが、まるで星空をひっくり返したように瞬いていた。
「わあ……すごい。舞台の照明みたい」
彼女は無邪気な子供のように窓に顔を近づけていた。
その横顔が、舞台の上の“娘役・朝倉美玲”ではなく、ひとりの女性として僕の心を強く揺さぶった。
ゴンドラは頂上へ。
まるで世界のてっぺんに二人きりで取り残されたような静けさが訪れる。
僕は喉が渇き、手のひらにじっとりと汗が滲むのを感じた。
「……あの」
声をかけると、彼女が小首をかしげて僕を見る。
その瞳に吸い込まれるように、僕は体を寄せていた。
唇が触れた瞬間、頭の中が真っ白になった。
――産まれて初めての女性へのキス。
彼女の唇は想像以上に柔らかく、温かかった。
彼女は驚いたように目を見開いたが、やがて静かに瞳を閉じた。
長く、甘い吐息が漏れる。
次第に彼女の方からも唇を重ね返してきて、二人の呼吸が絡み合った。
「……っ」
僕の心臓は爆発しそうだった。
彼女の甘い吐息が耳にかかり、その一つ一つが僕の理性を溶かしていく。
気づけば僕は両手を伸ばし、彼女の腰に触れていた。
腰の細さと温もりを確かめるように、ぎゅっと抱き寄せる。
勢いのまま、さらに深く口付けを求めた。
ゴンドラの外の夜景は遠のき、世界は彼女の存在だけに染まっていた。
やがて唇を離したとき、彼女の頬は赤く染まり、瞳は潤んでいた。
呼吸を整えながらも、彼女は小さな笑みを浮かべる。
僕は勇気を振り絞り、言葉を吐き出した。
「……あなたのことが、好きです」
観覧車の静寂に、その声が響いた。
彼女はしばし黙ったあと、吐息混じりに微笑んだ。
「……困った人ね。でも……嬉しい」
夜景よりも美しい笑顔に、僕の世界は完全に彼女で満たされた。
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