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第59話 「誰も知らない愛」を貫いた10年間


 あの日、僕と美玲は秘密を共有した。

 誰にも言わず、ただふたりで築く愛。それは甘く、切なく、そしてかけがえのないものだった。



 退団後の生活は思った以上に平穏で、しかし密度の濃い日々だった。

 表参道のマンションで二人暮らしを始め、朝は美玲の作る朝食の香りで目を覚まし、

 昼は僕が仕事に向かう間、彼女は舞台経験者として培った美しい所作を日常の中で生かし、

 夜は二人で手をつなぎ、未来を語り合う。


 ある日は、普通のスーパーで食材を選びながら、

「颯真さん、これなら美味しく作れるかな?」

 美玲が少し不安げに聞く。

「もちろん、僕が食べるんだから間違いないよ」

 僕は彼女の手を握り、笑顔を交わす。


 また別の日、街のカフェで偶然、彼女の昔の舞台仲間と出会う。

 周囲には秘密の関係だから、ひそひそと話をしながら、でもどこか温かい時間が流れた。

 「元気そうね、美玲さん」

 舞台仲間の声に、美玲はそっと人差し指を口に当てて微笑む。



 仕事や生活の忙しさの中でも、僕たちは毎年の記念日を忘れなかった。

 初めての共同生活で迎えた結婚記念日には、僕がアルバイトでためた小さなプレゼントを渡すと、

 「こんなに……ありがとう」と目を潤ませ、僕を強く抱きしめた。


 風邪をひいた日も、彼女は僕に甘えることなく、姉や両親に相談しながら静かに看病を受けた。

 僕はその距離感さえ愛おしく、ただそばにいて、手を握り、声をかける。



 仕事の昇進や新しい責任も、僕の愛を試すように次々と訪れた。

 会社では、限られた同期や上司しか知らない秘密を抱え、

 「結婚しました」「妻は美玲です」と口にできないもどかしさがあった。

 でも家に帰れば、そこには世界で一番の笑顔と安心が待っていた。



 日常の中での小さな事件も、二人の絆を深めるものだった。

 美玲が舞台で感動を届けた日の帰り道、雨に濡れた彼女を抱き寄せ、

 「今日も最高だった」と囁くと、彼女は照れながらも僕の肩に頭を預けた。

 夜の静けさの中、二人で過ごす時間は、宝石のように輝いていた。



 もちろん、葛藤や心配もあった。

 舞台でトップ娘役を務める美玲には多くのファンがいて、時には嫉妬や不安を覚える瞬間もあった。

 しかしそのたびに、僕は彼女の気持ちに寄り添い、

 美玲は僕を信じることで心の安定を取り戻した。



 そして気付けば、あっという間に10年の月日が経っていた。

 秘密にした日々は、時に重く、時に甘く、しかし誰にも侵されない二人だけの宝物だった。


 美玲の笑顔に支えられ、僕の存在を必要としてくれる彼女に応えながら、

 僕たちは互いの手を握り、静かに誓った。


「誰にも知られなくても、僕たちの愛は揺らがない」

「はい。ずっと、二人だけの愛を――守りましょう」


 それは誰も知らない、でも確かな愛の証だった。

 秘密に包まれた10年間が、僕たちを強く、そして優しくしてくれたのだ。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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