表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/65

第56話 普通の生活に馴染む彼女の戸惑い


 結婚してから数か月。

 かつては舞台の上で誰もが憧れる存在だった美玲さんは、今や表参道の街で「颯真の妻」として日常を生きていた。


「ちょっと出かけてくるね」

 ある休日の朝、美玲さんはそう言って、柔らかな笑顔を僕に見せた。

 白いワンピースに小さなトートバッグ。舞台衣装ではなく、街に馴染むシンプルな姿。

 それが新鮮で、僕は思わず「気をつけて」と見送った。

颯真は美玲さんが出掛けた後、1人で家の掃除やルンバのボタンを押し、洗い物や洗濯物をした。



■ 普通の街に生きる美玲


 美玲さんは、表参道のスーパーで食材を選びながら、少し緊張していた。

 かつてはスポットライトを浴びる人間が、いまは野菜売り場で主婦と肩を並べて値段を見比べている。

 周囲は誰も気づかない。けれどその匿名性が、彼女には少し不思議で、そして少し安心でもあった。


「……颯真くん、これ好きだったわよね」

 牛乳売り場で立ち止まり、小さく呟く。

 その声には、愛おしさと同時に“私、本当に普通の妻になったんだ”という実感が滲んでいた。


 ファッションフロアでは、颯真に似合いそうなジャケットを手に取る。

 サプライズで贈ろうと心に決めた瞬間、胸が温かくなった。

「舞台のスポットライトの代わりに……いまは、颯真くんの隣で灯りになれたら」

 そう小さく微笑み、袋を抱えて店を後にした。



■ 麻衣とのカフェでの再会


 その帰り道、偶然にも麻衣と出会った。

 颯真の姉であり、美玲の親友。

「美玲? こんなところで!」

「麻衣……!」


 二人はカフェに入り、コーヒーを前に語り合う。

「舞台を降りてから、どう?」

 麻衣の問いに、美玲は少し考えてから答えた。

「……まだ戸惑うことばかり。でも、颯真くんといると、自然に笑えるの。舞台での歓声も拍手もないけど、隣で“おかえり”って言ってもらえることが、こんなに嬉しいなんて」

 麻衣は優しく笑った。

「それなら安心した。颯真はね、あなたが思っている以上に繊細だから。支えてあげて。……でも同時に、あなたも無理しないで」

「うん……ありがとう」

 二人の言葉は、友人でもあり姉妹でもあるように響いた。



■ 拓真との居酒屋


 別の日。

 颯真の兄・拓真と居酒屋で向かい合った。

「弟が世話になってます」

 最初にそう言った美玲に、拓真は笑いながらジョッキを掲げた。

「いやいや、むしろ弟が幸せそうで驚いてるくらいだ。……けどな、美玲さん」

「はい?」

「結婚って舞台みたいに華やかなもんじゃない。生活だから、泥臭い部分も多いんだ。弟は真面目だが不器用なところもある。時には喧嘩もするだろう。それでも支え合えるか?」

 美玲はしっかりと目を見て答えた。

「はい。私、颯真くんとなら……どんな日常でも共に歩けます」

 その言葉に、拓真は満足そうにうなずいた。



■ 父との居酒屋


 さらに数日後。

 颯真の父・圭一とも居酒屋で向き合った。

「美玲さん、君はもう家族なんだ」

 圭一は最初にそう言い、真剣な眼差しを向けてきた。

「ただし、颯真はまだ若い。仕事もこれから。君の経歴や立場は立派だが、家庭を守るのは並大抵じゃない。……大丈夫か?」

 美玲は深く頷いた。

「はい。舞台で学んだ責任と覚悟を、家庭でも大切にします。颯真くんと、必ず幸せになります」

 圭一の表情が和らぎ、グラスが触れ合った。



■ 母との実家での会話


 最後は、宝塚市の颯真の実家で、母・由美子と向かい合った。

 台所で並んで夕飯を作りながら、由美子が静かに口を開いた。

「美玲さん、あなたは強い人。でも強い人ほど、一人で抱え込みやすいのよ」

 美玲は手を止め、小さく頷いた。

「……はい。舞台に立っていた頃も、よくそう言われました。でも、颯真くんと出会ってから、少しずつ肩の力を抜けるようになったんです」

 由美子は優しく笑った。

「それなら安心したわ。颯真は私の自慢の息子。でもまだまだ子供みたいなところもあるの。あなたが隣にいてくれるなら、本当に心強い」

 母と娘のような時間が、台所に静かに流れていった。



 ――こうして美玲さんは、舞台を降りた“伝説のタカラジェンヌ”ではなく、一人の妻として、普通の生活の中で家族に寄り添い、支えられながら新しい日々に馴染んでいった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ見逃さないようブックマークを!


皆さまの応援がある限り、キムチ探偵の物語は、まだまだ続いていきます。

感想・レビューも大歓迎です!一言でも励みになります


それでは、また次の事件でお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ