第54話 周囲には秘密――新婚生活の始まり
結婚してから二週間ほど経ったある休日。
僕――篠原颯真と美玲さんは、表参道で初めて迎える二人だけの休日を楽しむことにした。
まだ周囲には秘密のままだけれど、この街では夫婦として並んで歩ける。それが、たまらなく幸せだった。
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午前中――穏やかな始まり
朝、カーテンを開けると、都心らしい澄んだ青空が広がっていた。
洗いたてのシーツの香りに包まれた寝室で、美玲さんが伸びをしながら微笑む。
「颯真、今日はどこに行くの?」
「せっかくだから……朝から甘いもの、食べに行きませんか?」
向かったのは「幸せのパンケーキ 表参道店」。
人気店だけあって行列ができていたが、並んで待つ時間さえ楽しかった。
隣で帽子を深くかぶり、マスクをした美玲さんは「ファンに気付かれないかな」と心配そうだったが、僕は手を軽く握り返すだけで答えた。
やがて席につき、僕は「幸せのパンケーキ」とオレンジジュースを。
美玲さんは「ティラミスパンケーキ」とコーヒーを注文した。
ふわふわのパンケーキにナイフを入れると、空気のように軽くて口の中で溶ける。
「……甘い。名前通り“幸せの味”ですね」
「ほんと……私、こんなに甘いパンケーキ初めて食べた」
マスクの奥で笑顔がこぼれるのがわかる。
カップを持つ彼女の横顔を見ながら、胸の奥が温かく満たされていった。
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昼――街を歩くふたり
昼過ぎ。
表参道の並木道は観光客や買い物客で賑わい、ブティックやカフェからは活気ある音楽が流れていた。
僕たちは「表参道ヒルズ」に入り、ショッピングを楽しんだ。
美玲さんはガラス越しに並ぶ靴を見て「舞台じゃなくても、女性は靴で気分が変わるのよ」と微笑んだ。
試着した白いワンピース姿を見て、思わず「似合いすぎます」と口にしてしまい、彼女に小突かれて赤面した。
ブランドショップの紙袋をいくつか手に提げながら、エスカレーターを降りていく姿は――もう完全に「伝説のタカラジェンヌ」ではなく、僕の妻としての姿だった。
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夕方前――オモカドとラフォーレ
午後の柔らかな光の中、僕らは東急プラザ表参道原宿、通称「オモカド」へ。
ガラス張りの外観に映る二人の姿が、なんだか本当の夫婦の証拠のようで照れくさかった。
アクセサリーショップで指輪を眺めていた美玲さんが「でも、もう左手にはつけてるからね」と小さな声で囁いた。
薬指に光る結婚指輪が、二人だけの秘密を優しく物語っていた。
次に立ち寄ったのは「ラフォーレ原宿」。
カジュアルなショップを見て回り、彼女は学生時代を思い出すように目を輝かせていた。
「颯真、こういう服を着たら?」
「いや、僕には派手すぎませんか?」
「でも、たまにはいいじゃない」
笑いながら選んでくれる姿に、胸がくすぐったくなる。
――ああ、この人は舞台を降りても、こんな風に輝いていくんだな。
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夜になる前――帰路の幸福
夕暮れ時。
オレンジ色に染まる街並みを歩きながら、両手にはいくつもの買い物袋。
手を繋ぎながら、互いに「今日は楽しかったね」と笑い合った。
マンションに帰り、荷物を置いたあと、窓から街を眺める。
都会の夕焼けに照らされる彼女の横顔は、舞台で見たどの瞬間よりも美しく思えた。
「颯真……こんな普通の一日が、すごく幸せ」
「僕もです。秘密でも、こうして一緒にいられるだけで」
肩に寄りかかる彼女を抱き寄せながら、心から誓った。
――周囲には秘密でも、この愛は確かに存在する。
そして、これからも守り続けるのだと。
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