第51話 退団の夜、ふたりの抱擁
退団公演の幕が下りた夜。
華やかな光と喝采の渦のあとに訪れた静寂は、まるで夢から醒めたあとの余韻のようだった。
劇場の外に出ると、夜の宝塚の街はひっそりと眠りに入り、昼間の熱気が嘘のように消えていた。
僕――篠原颯真は、美玲さんと並んで歩いていた。
彼女は舞台衣装から解き放たれ、控えめなワンピースに身を包んでいる。
舞台上で纏っていた輝きはすでに消え、そこにいるのは一人の女性――僕が愛する人だった。
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「……終わったんだね」
彼女が小さく呟く。
その横顔は、舞台で見せたあの強い笑顔とは違い、どこか儚く、少女のように見えた。
僕は立ち止まり、彼女をそっと抱き寄せた。
「最高の舞台でした。誰よりも輝いていました」
「そう言ってくれるの、嬉しい。でも……やっぱり、寂しいの。
明日からもう、あの大階段を降りることも、スポットライトを浴びることもないんだと思うと……」
声が震え、彼女の肩が小さく揺れる。
僕はその背中を優しく撫でながら囁いた。
「でも、これからは僕と一緒に歩いていけます。舞台とは違う、新しい人生を」
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彼女は顔を上げ、潤んだ瞳で僕を見つめた。
「颯真……怖いの。舞台に立つ美玲じゃなくなった私を、あなたが愛し続けてくれるのかって」
胸が締め付けられた。
僕は彼女の頬に手を添え、真剣に言葉を返した。
「僕は最初から、舞台の美玲さんじゃなくて――“ひとりの女性”としての美玲さんを愛してるんです。
泣き虫でも、不器用でも、全部が大切です」
彼女の瞳に涙があふれ、頬を伝って落ちた。
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「颯真……ありがとう。
私……あなたがいてくれるから、これからの人生を信じられる」
その言葉と同時に、彼女は強く僕を抱きしめた。
温もりが胸に広がり、互いの鼓動がひとつになる。
夜の静寂の中、僕らはそっと唇を重ねた。
舞台の拍手や歓声とは違う、ふたりだけの世界で交わされた小さな約束。
――これからは、誰も知らない愛を生きていく。
⸻
その夜。
僕たちは長い時間、ただ抱き合ったまま言葉を交わした。
彼女は舞台を降りた一人の女性として、僕はその隣に立つ一人の男として。
光と影を共に歩んできた二人の、新しい物語が始まろうとしていた。
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