第50話 舞台上で最後のカーテンコール
八月の終わり。
宝塚大劇場は、朝から異様な熱気に包まれていた。
退団公演の千秋楽――朝倉美玲がトップ娘役として舞台に立つ最後の日だ。
客席は満席。立ち見のファンで二階席の通路まで埋まり、ロビーには「ありがとう」「永遠のトップ」の文字が記された花束や横断幕が並んでいた。
場内の空気は期待と寂しさで張り詰め、誰もがこの瞬間を胸に刻もうとしていた。
僕――篠原颯真は客席の一角に座り、手を強く握りしめていた。
目の前に広がる光景は夢のようであり、現実であることを信じたくない気持ちと、彼女を誇らしく思う気持ちが交錯していた。
⸻
やがて、開演ベルが鳴る。
劇場が暗転し、オーケストラの前奏が流れる。
幕が上がると、豪華な舞台セットが目に飛び込んだ。
金色に輝く大階段。眩いシャンデリアの光。
その中央に登場した美玲さんは、真紅のドレスを纏い、ゆっくりと歩み出る。
観客席から一斉に歓声があがった。
「美玲――!」
「ありがとう!」
その声を背に受けながら、彼女は微笑み、澄み渡る声で歌い出した。
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「――愛は永遠に。(以下同文)」
その声は劇場の隅々まで響き渡り、観客の胸を震わせた。
歌い終えた瞬間、すすり泣きが広がり、ハンカチを目に当てる姿があちこちに見えた。
前列の女性は肩を震わせて涙を流し、中ほどに座る年配の夫婦は手を握り合いながら目頭を拭った。
若い女性たちは泣きながらも「綺麗すぎる……」と呟き、後方の男性ファンは顔をくしゃくしゃにして嗚咽を漏らした。
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客席からの声が次々と舞台へ飛んでいく。
•「美玲ちゃん、本当にありがとう!」
•「花組の誇りだよ!」
•「まだ見ていたいのに……!」
•「最後まで最高のトップだった!」
•「芸能界でも絶対輝く!」
•「舞台の女神だ……!」
•「寂しいけど、あなたの決断を尊重します!」
•「美玲さんのおかげで人生が救われた!」
•「舞台の一瞬一瞬が宝物です!」
•「どうか幸せになってください!」
•「これからも応援し続けます!」
•「花組にこんな娘役がいたことを誇りに思う!」
•「泣きすぎて拍手が止まらない……!」
•「最後の歌声が忘れられない!」
•「ありがとう、ありがとう!」
•「もう一度舞台で会いたい!」
•「愛は永遠に――胸に刻みます!」
•「最高に綺麗な笑顔でした!」
•「美玲さん、大好きです!」
•「ずっと私たちの娘役です!」
その叫びと拍手が劇場全体を揺らし、まるでひとつの祈りのように響き渡った。
⸻
フィナーレ。
花組全員が舞台に揃い、華やかな羽根を背負ったトップコンビがゆっくりと大階段を降りていく。
スポットライトに照らされた美玲さんは、涙を滲ませながらも最後まで笑顔を絶やさなかった。
白い羽根が揺れ、舞台にきらめく紙吹雪が舞う。
観客は総立ちになり、嵐のような拍手が降り注いだ。
彼女は深く一礼し、仲間たちと肩を寄せ合いながら最後の舞台を終えた。
――その瞬間、彼女は永遠の伝説となった。
⸻
幕が下り、静まり返った舞台裏。
スタッフが慌ただしく片付ける中、僕は許可を得て控室の前に立った。
扉をノックすると、中からかすかな声が返ってきた。
「……どうぞ」
扉を開けると、白い浴衣姿に着替えた美玲さんが椅子に腰かけていた。
化粧を落とした素顔には涙の跡が残っていたが、その瞳は澄み切っていて、どこか晴れやかだった。
「美玲さん……お疲れさまでした」
「颯真……来てくれたのね」
彼女は立ち上がると、そのまま僕の胸に飛び込んできた。
細い肩が震えていて、僕はその背をしっかりと抱きしめた。
「……終わったのね。もう、あの舞台に立つことはないんだわ」
「はい。でも――最高の舞台でした。誰よりも輝いていました」
言葉を重ねると、彼女は涙をこぼしながら微笑んだ。
そして小さな声で囁いた。
「颯真……これからは、あなたと一緒に生きていきたい」
「……僕もです。これからは、ずっと一緒に」
ふたりは抱き合い、静かに唇を重ねた。
幕は下りた。
けれど、新しい人生の舞台は、これから幕を開けるのだ。
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