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第49話 家族だけに伝える誓い


 退団公演の幕が下りても、観客の拍手はしばらく鳴り止まなかった。

 白い羽根を背負い、花組全員に囲まれて大階段を降りていく美玲さんの姿は、まるで光そのものだった。

 「ありがとう」の声と涙が劇場を満たし、その中で彼女は最後まで笑顔を崩さず、深々と礼をした。

 ――その瞬間、ひとつの時代が終わったのだ。


 僕は客席から立ち上がり、滲む涙を拭いながら舞台を見つめていた。

 そして、観客が帰り始める中、楽屋へと足を運んだ。



 廊下は慌ただしく、花組の団員たちが「お疲れさまでした!」と声を掛け合い、涙と笑顔が入り混じっていた。

 控室の前に立つと、心臓の鼓動がやけに大きく響いた。

 扉をノックすると、中から小さな声が返ってくる。


「……どうぞ」


 扉を開けると、そこには舞台衣装を脱ぎ、白い浴衣に着替えた美玲さんがいた。

 長い髪を下ろし、化粧を落とした素顔には涙の跡が残っている。

 それでも、その瞳は澄んでいて、晴れやかな光を宿していた。



「美玲さん……」

「颯真……来てくれたのね」


 言葉を交わすと同時に、彼女は僕の胸に飛び込んできた。

 強く、必死に抱きしめてくる。

 細い肩が震えていて、ようやく堰を切ったように涙が零れ落ちた。


「……終わったの。もう、あの舞台に立つことはないのね」

「はい。でも、最高の舞台でした。誰よりも輝いていました」


 僕は背中を撫でながら言った。

 彼女は嗚咽を抑え、顔を上げた。


「颯真……これからの私の人生、あなたと一緒に歩んでいきたい」

「……はい。僕もです」


 静かな楽屋の中で、再び強く抱き合った。

 ――舞台の幕が下りた今、ふたりの人生の幕が上がったのだ。



 数日後。

 僕と美玲さんは篠原家を訪れ、正式に家族へ結婚を報告することになった。


 居間には、父・圭一、母・由美子、兄・拓真、姉・麻衣が揃っていた。

 食卓には由美子が用意した温かな料理が並び、重苦しい緊張感を和らげていた。


 僕は深呼吸をして、口を開いた。


「今日は大切な報告があります。……僕と美玲さんは、結婚することを決めました」


 家族全員の視線が集まり、しばし沈黙が流れる。

 その沈黙を破ったのは、兄・拓真だった。


「……やっぱりな。弟の顔を見ればわかる」


 麻衣が笑顔で頷く。

「本気なんだって、ずっと思ってた」



 美玲さんは正座をし、深く頭を下げた。

「……突然のことで驚かせてしまったと思います。ですが、颯真さんと共に生きる未来を選びました。どうか、受け入れていただければと思います」


 父・圭一は腕を組んだまま、重々しい声で言った。

「結婚生活は舞台のように拍手で飾られるものじゃない。苦しいことも多い。それでも――本気なんだな?」


 美玲さんは真剣な眼差しで答えた。

「はい。本気です。颯真さんとなら、どんな困難も乗り越えられると信じています」


 その言葉に、父はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。



 母・由美子が涙を浮かべながら微笑む。

「……ありがとう、美玲さん。颯真を選んでくれて」


 兄・拓真は真剣な口調で続ける。

「困ったことがあれば、俺や麻衣に言え。弟を泣かせないようにな」


 麻衣も笑って言った。

「美玲、友達としても、弟の姉としても、心から応援する。これからも一緒に歩いていこうね」


 温かい言葉に、美玲さんの瞳が潤み、そっと僕の手を握った。

 僕は強く頷き、答えた。


「必ず幸せにします。美玲さんと、共に」


 その夜、篠原家の居間は笑顔と涙に包まれた。

 退団公演で幕を下ろした彼女の舞台人生は、ここから「夫婦としての物語」へと続いていく。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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