第48話 退団発表――ファンが涙する日
夏の終わり。
宝塚大劇場は朝から異様な熱気に包まれていた。退団公演のチケットは即日完売。場内には満席の観客が詰めかけ、ロビーには山のような花束と色とりどりのメッセージカードが飾られていた。
――花組トップ娘役、朝倉美玲、退団発表の日。
僕は、胸の鼓動を抑えきれず、客席の片隅に座っていた。
どんなに覚悟を決めていても、彼女の「最後の舞台」を見届けることへの不安と寂しさは消えなかった。
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開演ベルが鳴り、照明が落ちる。幕が上がると、豪華絢爛な舞台が広がった。
金色のシャンデリアを模した照明が降り注ぎ、舞台中央に立つ美玲さんの姿が浮かび上がる。
真紅のドレスを纏い、背筋を伸ばし、まっすぐに客席を見据えるその姿。大階段を優雅に降り、長い裾を翻す彼女は、まるで物語の女王のようだった。
歌声が劇場を震わせる。
「――愛は永遠に。
たとえ時が流れ、季節が巡っても、心に灯された光は決して消えない。
別れは悲しみを連れてくるけれど、出会えた奇跡は永遠に生き続ける。
あなたと共に笑い、涙を分け合った日々は、未来へと続く希望の道。
どうか忘れないで――愛は儚く見えても、確かにここに存在するのだと。
夢を追う心がある限り、愛は永遠に――」
澄み渡るその歌声が、天井を突き抜けるように響き渡り、劇場全体を包み込んだ。
⸻
その瞬間、客席からすすり泣きが広がった。
前列の女性はハンカチで顔を覆い、震える肩を抑えきれずに泣いている。
中ほどの席では年配の夫婦が手を握り合いながら涙を拭っていた。
若い女性たちは涙でぐしゃぐしゃになった化粧を気にも留めず「綺麗すぎる……」と呟き、後方席の男性ファンは赤く腫れた目でハンカチを握り締め、嗚咽を漏らしていた。
観客の心からあふれる声が次々と舞台へと飛んでいく。
•「美玲ちゃん、本当にありがとう!」
•「花組の誇りだよ!」
•「まだ見ていたかった……!」
•「でも最高の舞台だった!」
•「芸能界でも絶対輝く!」
•「トップ娘役として一番の輝き!」
•「舞台の女神だ……」
•「退団なんて寂しい!」
•「でも決断を尊重する!」
•「美玲さんのおかげで人生が救われた」
•「舞台の一瞬一瞬が宝物です!」
•「どうか幸せになってください!」
•「これからも応援する!」
•「花組にこんな娘役がいたことを誇りに思う!」
•「最高のトップだった!」
•「泣きすぎて拍手が止まらない……」
•「最後の歌声が忘れられない!」
•「ありがとう、ありがとう!」
•「もう一度舞台で会いたい!」
•「愛は永遠に――胸に刻みます!」
•「大好きだよ、美玲さん!」
その声と拍手が重なり、劇場全体がひとつの祈りのように揺れた。
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芝居の終幕。
物語のヒロインとして全てを演じきった美玲さんは、深い礼をして幕を下ろした。だが拍手は鳴り止まない。やがて再び幕が開き、退団発表のセレモニーが始まった。
舞台中央に立った彼女は、スポットライトを浴びながらゆっくりと口を開いた。
「――本日をもちまして、宝塚歌劇団を退団いたします。ここまで歩んでこられたのは、仲間、スタッフ、そしてファンの皆さまのおかげです」
その言葉に、客席から嗚咽が響く。彼女の頬を一筋の涙が伝い落ち、それでも静かに微笑んだ。
⸻
フィナーレ。
花組全員が舞台に揃い、トップコンビが羽根を背負って大階段を降りる。観客の涙と拍手に包まれながら、美玲さんは最後まで笑顔を崩さなかった。白い羽根が揺れ、光の中でその姿が永遠に焼きついた。
――彼女は頂点で舞台を去り、伝説となったのだ。
客席で僕は涙を拭いながら、心に誓った。
どんな未来が待っていようと、必ず彼女の隣に立ち続ける、と。
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