第39話 家族への告白
冬の休日。
その日は、めったに休みが取れない美玲さんが週に一度の休日をもらえた特別な日だった。
彼女は「今日は大切な話をさせてほしい」と言い、僕の実家を訪れることになった。
玄関のチャイムが鳴ると、居間にいた家族が自然と姿勢を正した。
母・由美子、父・圭一、兄・拓真、姉・麻衣。
そして僕。
家族全員が居間に揃い、緊張感の漂う中で彼女は深呼吸をし、真剣な眼差しで頭を下げた。
「本日は、お時間をいただきありがとうございます。……私、朝倉美玲は――篠原颯真さんのことを心から大切に思っています。今日はその気持ちを、きちんとお伝えしたくて参りました」
舞台で堂々と立つ彼女を見慣れている僕でも、今の美玲さんはどこか違って見えた。
凛とした声は震えていたが、その一語一語には確かな覚悟が宿っていた。
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家族全員での会話
沈黙を破ったのは父・圭一だった。
「君の気持ちは伝わった。ただ……家族にとっても大事なことだ。今日は私たち一人ひとりと話をしてもらおう。いいかな?」
「はい。どうぞ、何でもお聞きください」
父の言葉に頷く彼女の横顔は、少しも揺らいでいなかった。
母・由美子が柔らかな声で続ける。
「そんなにかしこまらなくてもいいのよ。今日は、あなたがどんな人なのか知りたいだけだから」
兄・拓真は腕を組み、厳しい眼差しを向けた。
「俺は弟の兄だからな。甘い気持ちで来たなら容赦しないぞ」
姉・麻衣はそんな兄を横目に笑い、
「拓真、脅かさないで。美玲はそんな人じゃないわ」
とフォローした。
こうして、彼女と家族の一人ひとりとの対話が始まった。
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兄・拓真との会話
応接間で向かい合った兄は、真剣な顔つきで問いかけた。
「正直に聞く。君は舞台の人だ。ファンも多いし、華やかな世界に生きている。……その中で、弟を本当に大事にできるのか?」
美玲さんは真っ直ぐに視線を返した。
「はい。舞台は私の人生の一部です。でも、彼は私の“生きる意味”です。舞台に立つためにも、彼の存在が必要なんです」
拓真は眉をひそめたまま、さらに問いを重ねた。
「じゃあ、もし舞台と弟との間で選択を迫られたら?」
一瞬の沈黙。
だが彼女は揺るがぬ声で答えた。
「そのときは――両方を守ります。どちらかを失うことは、私にはできません」
兄は長い沈黙のあと、ふっと肩の力を抜いた。
「……強いな。弟が惚れるわけだ。いいだろう。だが約束してくれ、弟を泣かせるようなことだけは絶対にするな」
「はい。必ず守ります」
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父・圭一との会話
続いて父との対話。
圭一は机に肘をつき、じっと彼女を見据えていた。
「私は芸能の世界に明るくない。だが、人前に立つというのは大きな責任を伴うはずだ。……そんな世界で生きながら、うちの息子を本当に幸せにできるのか?」
美玲さんは深々と頭を下げ、真摯に言葉を紡いだ。
「はい。舞台のために努力を惜しまないように、彼のためにも努力を惜しみません。私は彼の支えでありたいし、彼を支えることで私自身も生きていけます」
圭一は目を閉じ、しばらく沈思したのち、小さく頷いた。
「……覚悟は伝わった。君が本物かどうかは、これからの行動が証明してくれるだろう」
「はい。必ず証明します」
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姉・麻衣との会話
麻衣は最初から柔らかな笑みを浮かべ、彼女の手を取った。
「ねえ、美玲。あなた、本当に無理してない? ずっと弟のことを気にかけてくれてるのは知ってる。でも、自分を犠牲にしてないか心配なの」
美玲さんは少しだけ目を伏せ、それから静かに微笑んだ。
「正直に言えば、舞台は厳しいです。でも、彼の存在が私を支えてくれる。……稽古で倒れそうになったときも、“彼に会いたい”って思うだけで立ち上がれました」
麻衣はその言葉に胸を打たれ、優しく頷いた。
「……わかった。なら、私も全力で応援する。弟をよろしくね」
「はい。ありがとうございます」
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母・由美子との会話
最後に向き合ったのは母だった。
由美子はにこやかに笑いながらも、母としての眼差しを崩さずに彼女を見つめた。
「あなたが彼を想ってくれていることは、もう十分に伝わったわ。……でもね、母として一つだけお願いがあるの」
「なんでしょうか」
「どうか、自分の体を大事にして。あなたが倒れたら、あの子は誰よりも苦しむから」
美玲さんは瞳を潤ませながら、しっかりと頷いた。
「はい。必ず自分を大切にします。彼と未来を共にするために、元気でい続けます」
由美子は微笑み、彼女の手を包み込んだ。
「ありがとう。……あの子を支えてくれるのが、あなたで本当によかった」
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全員との対話を終えたあと、美玲さんは居間に戻り、改めて家族全員に深く頭を下げた。
「今日はありがとうございました。……私は颯真さんと真剣に向き合い、共に未来を築きたいと思っています。どうか、見守っていただければ幸いです」
家族の表情はそれぞれ違ったが、皆の瞳には彼女の覚悟を受け止めた確かな光があった。
その夜、帰り際に僕と二人きりになった美玲さんは、ほっとしたように笑った。
「すごく緊張したけど……やっと言えた。あなたの家族に、私の全部を」
僕は彼女の手を取り、力強く握った。
「ありがとうございます。……美玲さんの覚悟、僕も絶対に裏切りません」
その瞬間、僕らの絆はさらに深く結ばれたのだった。
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