第37話 クリスマスの密会
あれから数週間が過ぎた。
舞台復帰を果たした美玲さんは、以前にも増して多忙を極めていた。
地方公演に向けた準備、雑誌やテレビの取材、次の新作の稽古……。
彼女の声を聞けるのは、夜遅くにほんの数分。
逢えない日々が続き、僕の胸は次第に寂しさを募らせていった。
――それでも、季節は待ってはくれない。
街はすっかりクリスマス一色に染まり、イルミネーションが輝き、カップルたちが笑い合いながら歩いていた。
その光景を横目に見ながら、僕はただひとつの願いを抱いていた。
――今年のクリスマスだけは、一緒に過ごしたい。
⸻
イブの午後。
家族が出かけていることを確認し、僕はそわそわとリビングの準備を始めていた。
テーブルクロスを敷き、スーパーで買ったケーキとシャンメリーを並べる。
料理は母のレシピを真似して、簡単なシチューとサラダを作った。
時計の針が夕方を指した頃、玄関のチャイムが鳴る。
心臓が大きく跳ねた。
「……いらっしゃい」
扉を開けると、マフラーに顔をうずめた美玲さんが立っていた。
少し照れたように微笑むその姿は、イルミネーションよりも眩しかった。
「こんばんは。……本当に来ちゃった」
「来てくれてありがとうございます。……入ってください」
靴を脱ぎ、彼女がリビングに足を踏み入れた瞬間、部屋の雰囲気がふっと変わった気がした。
⸻
「わあ……ケーキとシャンメリー? まるで学生のパーティーみたい」
「豪華なものは用意できなかったけど、ふたりで過ごせればそれで十分です」
「……ふふ、そういうところ好きよ」
彼女は椅子に腰を下ろし、僕がよそったシチューを口に運んだ。
一口食べて、目を丸くする。
「……美味しい! 本当に作ったの?」
「はい。母のレシピをちょっと真似して」
「すごい……こういう時間、すごく幸せ」
そう言って見せた笑顔は、舞台では決して見られない素顔だった。
⸻
食事のあと、ケーキにロウソクを立て、部屋の電気を少し落とした。
キャンドルの明かりに照らされた彼女の横顔は、幻想的にすら見えた。
「……メリークリスマス」
「メリークリスマス」
ふたりで小さく囁き合い、ケーキを分け合った。
クリームが唇についたのを指で拭ってあげると、彼女は頬を赤らめて笑った。
⸻
やがて静かな時間が訪れる。
ソファに並んで座り、シャンメリーの泡が弾ける音だけが響いていた。
彼女はそっと僕の肩にもたれ、吐息混じりに呟いた。
「……私ね、クリスマスをこんなふうに過ごしたの、初めてかもしれない。ずっと舞台と仲間とファンに囲まれてきたから……。でも今は、こうして隣にあなたがいる。それが一番の贈り物」
その声は甘く、そして切なかった。
僕は彼女の手を取り、強く握りしめた。
「僕もです。……これから先、どんなに忙しくても、毎年一緒に過ごしたい」
彼女は顔を上げ、真剣な瞳で見つめてきた。
そして、そっと唇を重ねてきた。
甘く、温かく、長い口付け。
――クリスマスの夜。
誰にも知られない密会は、僕らだけの秘密の聖夜として深く胸に刻まれた。
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