第35話 感謝と本音
数日が経ち、冬の空気は一段と冷たさを増していた。
街を歩く人々の吐く息が白く煙り、コートの襟を立てる姿があちこちに見える。
そんなある朝、僕のスマホが震えた。画面に映った名前を見て、心臓が大きく跳ね上がる。
――美玲さん。
慌てて通話ボタンを押す。耳に飛び込んできたのは、久しぶりに聞く少し掠れながらも柔らかな声だった。
「……おはよう。心配かけちゃって、ごめんね」
「大丈夫ですか? 熱はもう……」
「ええ。もう下がったわ。麻衣ちゃんがずっとそばにいてくれて、安心できたの。本当に助けられた。……そして、あなたにもありがとうって言いたかったの」
電話越しでも、彼女の微笑みが伝わってくるようで胸が温かくなった。
たった数日会わなかっただけなのに、久しぶりに声を聞いただけで涙が出そうになる。
⸻
その日の夕方、大学から帰宅すると、リビングに姉の麻衣がいた。
ラウルを膝に乗せ、静かに撫でながら、どこか考え込むような表情をしている。
「おかえり」
「……ただいま。美玲さん、どうだった?」
問いかけると、姉は少しだけ笑みを浮かべたが、すぐに真剣な眼差しに変わった。
「もう元気そうよ。熱も下がって、顔色も戻ってた。でもね……あの子、本当に限界まで頑張ってたわ」
僕は思わず拳を握りしめる。
「やっぱり……」
麻衣は続けた。
「体調が悪いのに“舞台に立たなきゃ”って何度も口にしてた。トップ娘役としての責任を背負いすぎて、自分の体を後回しにしてるのが一目でわかったわ。……正直、見ていて苦しかった」
その声には、友人としての心配と、姉としての厳しさがにじんでいた。
⸻
「でもね」
麻衣はラウルの頭を撫でながら、ふっと目を細めた。
「あの子、あなたの話をしたときだけは、表情が柔らかくなったの」
「……僕の話を?」
「ええ。熱で苦しそうにしてるときでも、“彼の声を聞けば大丈夫”“彼がいるから私は頑張れる”って、何度も繰り返してた。……あの子、本当にあなたを支えにしてるのよ」
その瞬間、胸が強く打たれた。
彼女の本音を直接聞いたわけではない。
でも、姉の口から伝えられたその言葉は、誰よりも確かなものに思えた。
「……美玲さんが、そんなことを……」
「そうよ。だから――これからもちゃんと支えなさい。あの子が舞台に立ち続けられるのは、あなたがいるからなんだから」
姉の声はきっぱりとしていた。
けれどその眼差しの奥には、弟を信じる温かさもあった。
⸻
その夜、彼女から再びメッセージが届いた。
――「また会える日を楽しみにしてる。舞台もあなたも、私にとって大事だから」
画面を見つめながら、胸が熱くなる。
舞台と僕。
両方を大事にすると誓った彼女が、本当にその想いを抱いていることが伝わってきた。
僕はスマホを胸に当て、深く息をついた。
――彼女の本音を知った今、迷いはない。
どんなに忙しくても、どんなにすれ違っても、僕は彼女を支え続ける。
その決意は、これまで以上に強いものとなっていた。
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