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第34話 姉の看病


 その知らせは突然だった。

 夜遅く、スマホに届いた短いメッセージ。

 ――「少し熱があるみたい。今日はもう寝るね」


 文面は穏やかだったけれど、胸騒ぎがした。

 彼女が自分から「体調が悪い」と伝えてくることなんて、これまで一度もなかったからだ。


 翌朝、電話をかけても繋がらない。

 何度もかけ直したけれど、留守番電話に切り替わるだけだった。


「……まさか」

 嫌な予感に背中が冷たくなる。

 本当なら今すぐ彼女の家へ駆けつけたい。

 でも、それはできない。

 まだ誰にも知られてはいけない関係だから。

 近所の目に映れば、すぐに噂になってしまう。


 葛藤の末、僕はスマホを握りしめて姉に連絡した。



「麻衣、頼みたいことがあるんだ」

 声が震えていた。

『……美玲のことね?』

 姉はすぐに察したようだった。

「そうなんだ。昨日から体調を崩してるみたいで……僕が行ったら怪しまれる。だから、麻衣に行ってほしい」

『……わかった。友達としてなら自然だしね。すぐに向かう』


 その言葉に胸が熱くなる。

「ありがとう……本当に、ありがとう」



 数時間後、姉からメッセージが届いた。

『美玲の部屋に着いたよ。熱は高いけど、大丈夫。私がついてるから安心して』


 その文面を読みながら、胸の奥で張り詰めていたものが少しだけ緩んだ。



 ――その頃、美玲さんの部屋。

 姉・麻衣は、寝室のベッドで額に冷えピタを貼った彼女を見守っていた。


「……ごめんね、こんな姿見せちゃって」

 かすれた声で美玲さんが言う。

「いいのよ。無理してたんでしょ? 顔色見ればわかる」


 麻衣は冷たいタオルを新しく取り替え、水を一口飲ませた。

 美玲さんは弱々しく微笑みながら呟いた。

「舞台に立つって決めた以上、簡単に休めない。でも……今日は、体が言うことを聞いてくれなかった」

「そういうときは休めばいいの。トップ娘役だって人間なんだから」


 優しい声でそう告げると、美玲さんの目にうっすら涙が浮かんだ。

「……あなたの弟にも心配かけちゃったよね」

「ええ。だから私が来たの。あの子、あなたのこと本気で心配してるから」


 その言葉に、美玲さんは小さく頷き、目を閉じた。

 麻衣は椅子に腰を下ろし、彼女の髪を撫でながら、眠りにつくまで静かに寄り添っていた。



 僕は部屋でラウルを抱きしめながら、姉から届く報告を何度も読み返した。

 会いたい。傍にいたい。

 でも今は、それができない。


 ――だからこそ、姉に託した。

 美玲さんの隣にいてくれることが、何よりの救いだった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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