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第30話 早く会いたい


 スマホを耳から離し、通話終了の表示が画面に消える。

 静かな並木道に立ち尽くし、僕はしばらくその場から動けなかった。

 ――ほんの数分の会話。

 それだけなのに、胸の奥がこんなにも満たされている。


 遠くからは、キャンパスの広場で鳴り響く音楽と歓声がまだ聞こえていた。

 キャンプファイヤーの炎が夜空を染め、学生たちの笑い声や歌声が風に乗って流れてくる。

 祭りの夜の輝き。

 でも僕の胸を照らす光は、あの電話の声だけだった。



 公園に戻って片付けをしていた仲間たちの姿を思い出す。

 悠真はきっとまだ騒いでいるだろう。

 西条は女の子を相手に軽口を叩いているに違いない。

 直樹は「もうレポートどうするんだよ」と溜息をついているはず。

 新しく知り合った藤原や森川、石田、小野寺、相原や杉浦も、それぞれの仲間と祭りを楽しんでいるだろう。


 その光景を想像しながら、僕は不思議な孤独を感じていた。

 ――彼らと同じ場所にいても、心は別のところにある。


 僕の心は、舞台の上で輝く彼女のもとに。

 そして今夜、電話の向こうで少し寂しげに「会いたい」と言ってくれた彼女のもとに。



 夜空を見上げる。

 煙と火の粉が昇り、星がかすかに瞬いている。

 その星空の下で、彼女も同じように空を見ているのだろうか。

 そう思うと胸が締めつけられるほど熱くなる。


「……早く、会いたい」

 小さな声が漏れた。

 祭りの喧騒にかき消されるほどの呟き。

 けれど、その想いは確かなものだった。


 ――秘密の恋だからこそ、誰にも言えない。

 でも、その秘密を抱えたままでも、僕は彼女を求め続ける。


 祭りの光が遠ざかり、静かな道を一人歩きながら、僕の胸の中にはただひとつの願いだけが渦巻いていた。


 ――次に会えたとき、必ず伝えよう。

 「君がいるから生きられる」と。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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