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第29話 学園祭の夜、美玲からの突然の電話



 学園祭の最終日。

 夕方を迎える頃には人の波も落ち着き、模擬店や展示の教室は片付けの時間に入っていた。

 机を移動させ、装飾を外し、使い終えた器具を倉庫へ運ぶ。

 体育館からは吹奏楽部のアンコール演奏が聞こえ、まだ余韻を残したキャンパス全体が名残惜しさで満ちていた。


「よーし、これでだいたい終わりか!」

 大きな声でまとめるのは石田陽介。汗をぬぐいながらも元気そのものだ。

「石田、まだパネルが残ってるぞ」

 森川慧が冷静に指摘し、藤原遼が「じゃあ俺が運ぶよ」と笑顔で引き受ける。


 その横で、相原美咲と杉浦紗奈が机を拭きながら話していた。

「終わっちゃったね、楽しかったけど」

「うん、でも片付けまでやるとほんとに“祭りが終わった”って感じ」


 僕はその会話を聞きながら、静かにゴミ袋をまとめていた。

 ――華やかでにぎやかな時間。

 でも、心の奥にはやっぱり“彼女”の存在があった。



 夜になると、キャンパス中央の広場でキャンプファイヤーが始まった。

 大きな炎が焚かれ、火の粉が夜空に舞い上がる。

 学生たちは輪になって歌い、踊り、笑い声が響き渡る。


「おい、踊ろうぜ!」

 悠真が僕の肩を叩くが、僕は笑って首を振った。

「いや、見てる方が好きだから」


 その後も花火が打ち上がり、屋台の灯りが揺れ、学園祭は最後の盛り上がりを見せた。

 友人たちの笑顔。恋人同士で手を繋ぐ姿。

 誰もがこの一瞬を楽しんでいる。


 ――けれど、僕の胸にはやっぱり穴が空いていた。

 一番隣にいてほしい人は、ここにはいない。



 広場を抜け、静かな並木道に出たとき。

 ポケットのスマホが震えた。

 画面に映る名前を見た瞬間、心臓が跳ね上がる。――美玲さんだった。


「……もしもし」

『……こんばんは。今、どこにいるの?』

 電話越しの声は、どこか甘く、そして疲れを滲ませながらも、安心を与えてくれる響きだった。


「学園祭の夜で……賑やかなところにいます。でも、声が聞けて……安心しました」

『そっか。……私もね、舞台が終わって、みんなに囲まれて笑ってたんだけど……ふと寂しくなっちゃったの。だから電話したの』


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 祭りの炎や歓声に包まれたキャンパスで、彼女の声だけが僕にとっての静かな光だった。


「僕も、寂しかったです。みんな笑ってるのに、どこか虚しくて。でも……今は違う。美玲さんが声をくれたから」

『……ふふ。私も同じ。あなたがいるから、頑張れるんだよ』


 賑やかな音楽と歓声の裏で、僕だけは別の世界にいた。

 電話越しの彼女の声が、何よりも大きな支えとなり、孤独をそっと溶かしていった。



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