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第18話 舞台裏の差し入れ


 翌週の土曜日。

 花組の公演があると聞き、僕は劇場へ向かった。もちろん観客として。

 だが今日は、もうひとつの目的があった。――彼女に差し入れを渡すこと。


 観客で賑わう正面口ではなく、裏口近くにある楽屋口の搬入口へ。

 スタッフに紛れるようにして、僕は袋を抱えて立っていた。

 中身は、母の由美子が作ってくれた手作りのおにぎりと、姉の麻衣が選んだフルーツティー。それに僕が買った小さな焼き菓子。

 「体に優しいものを」と、家族みんなで知恵を出し合った。


 やがて、扉が開き、黒いジャージ姿の美玲さんが現れた。

 稽古帰りなのだろう、髪を後ろでざっくり結び、まだ息が少し上がっている。


「……来てくれたの?」

 驚いた表情のあと、柔らかな笑顔に変わった。

「はい。これ、差し入れです。……みんなで作りました」


 袋を差し出すと、美玲さんは目を丸くした。

「お母さんの手作り……? わあ……」

 袋を抱きしめるように受け取る彼女の顔は、舞台の上では見られない少女のような笑顔だった。


「……ありがとう。嬉しい。これでまた頑張れる」

「頑張りすぎないでくださいね」

 思わず口からこぼれた言葉に、美玲さんは一瞬きょとんとしたが、やがてふっと笑った。

「ふふ……優しいね。ほんとに、あなたがいるから頑張れるんだってば」


 周囲に人影がないことを確認し、彼女は一歩近づいてきた。

 距離が縮まった瞬間、ほのかにシャンプーの香りが漂う。

「ご褒美、あげてもいい?」

 小声でそう囁かれる。


 僕が答えるより早く、彼女はそっと背伸びして、唇を重ねてきた。

 短く、けれど温かくて、胸の奥を満たす口付けだった。


「……差し入れのお礼」

 唇を離したあと、照れたように言う彼女に、僕は返す言葉もなく頷いた。


 その瞬間、扉の奥から同期の声が響いた。

「美玲ー! 次の稽古始まるよー!」

 慌てて距離をとる美玲さん。

「行かなきゃ……ありがとうね。また夜に」


 小走りで戻っていく彼女の背中を見送りながら、僕は胸の奥で呟いた。

 ――絶対に、この秘密を守り抜こう。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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