第17話 あなたがいるから
あれから数週間。
季節は初夏に差しかかり、大学のキャンパスには眩しい日差しと湿った風が吹き抜けていた。
僕は日常をこなしながらも、心のどこかで美玲さんのことばかりを考えていた。
メッセージは毎日のようにやりとりしていたけれど、ここ最近の彼女はどこか元気がない。
文面の端々に、疲労や迷いがにじみ出ていた。
――「今日は稽古でミスしちゃった。集中できてなかったのかな」
――「私、トップとしての器があるのかなって不安になる」
舞台上では誰よりも輝いているのに、その裏でこんな思いを抱えていることを知り、胸が痛んだ。
どうしても顔を見て話したい。そう思った僕は、夜に時間を作ってもらい、公園で会う約束をした。
⸻
夜。
街灯に照らされた公園のベンチに、美玲さんは座っていた。
肩まで伸びた髪が少し乱れ、視線は地面に落ちている。
普段は凛とした彼女が、こんな風に小さく見えるのは珍しかった。
「……大丈夫ですか?」
隣に腰を下ろして声をかけると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
けれど瞳の奥には疲れが滲んでいる。
「……今日も稽古で怒られちゃった。舞台に立てば笑顔でいなきゃいけないのに、裏では失敗ばかり。……私、本当にトップをやれるのかな」
吐き出すような声。
その言葉に、胸が締めつけられた。
僕は迷わず彼女の手を取った。
細くて冷たい手を両手で包み込み、真っ直ぐに見つめる。
「……大丈夫です。美玲さんならできます。だって、僕は知ってます。舞台であんなに輝いているのを。……そして、舞台を降りたときの、誰よりも優しい笑顔を」
彼女は目を伏せ、かすかに唇を震わせた。
「……でも、私、怖いの。ファンのみんなを失望させるんじゃないかって」
僕は首を振った。
「失望なんてしません。もし世界中の誰かが背を向けても、僕は絶対にあなたを見ています。……美玲さんは、僕にとって唯一の人だから」
静かな夜気の中で、言葉が真っ直ぐに届くのを感じた。
彼女はしばらく黙っていたが、やがて涙をこらえるように笑った。
「……あなた、ずるいくらい真剣ね」
そして、彼女は小さく呟いた。
「あなたがいるから……頑張れる」
その一言に、胸が熱くなった。
僕はたまらず彼女を強く抱きしめる。
細い肩が腕の中に収まり、彼女の心臓の鼓動が僕の胸に伝わってくる。
「……離れないでね」
彼女が小さな声で囁く。
「離れません。絶対に」
互いの温もりを確かめ合いながら、夜の公園でしばらく抱き合っていた。
それは言葉以上に深い誓いとなり、ふたりの絆をまたひとつ強く結んでくれた。
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