第14話 秘密の約束
楽屋口を離れ、夜風に吹かれながら帰路についた。
姉と別れたあと、僕と美玲さんは人気の少ない路地に足を向ける。
遠くでタクシーが走り去り、街の喧騒が少しずつ薄れていく。
「……麻衣、やっぱり気づいてたのね」
美玲さんが小さく溜息をついた。
「はい。でも、応援してくれてるみたいです」
「ふふ……優しいお姉さんね。……でも、本当に大丈夫かな。私、あんなに目立つ仕事をしてるから」
彼女の不安げな声に、僕は立ち止まり、真剣に言葉を探した。
「大丈夫です。僕が必ず守ります。絶対に、誰にも知られないように」
夜風がふたりの間を通り抜ける。
彼女は少しだけ考えるように目を伏せ、それから顔を上げて微笑んだ。
「……じゃあ、ひとつ約束して。これからも、どんなことがあっても“秘密”を守ること。舞台に立つ私を壊さないこと」
その声は穏やかでありながら、真剣さを帯びていた。
僕は頷き、彼女の手を強く握った。
「約束します。僕と美玲さんのことは、僕たちだけの宝物です」
手のひらの温もりが、確かな絆として伝わってくる。
⸻
数日後。
稽古終わりのカフェで、美玲さんと同期の篠原楓と羽瀬川莉子が恋愛の話をしていた。
「ねえ、恋愛って舞台にどう影響すると思う?」
篠原がカップを傾けながら尋ねる。
「うーん……私はプラスになると思うな。恋を知ってる方が、役に深みが出るでしょ?」
莉子が笑う。
「でもさ、観客からしたら“永遠に清らかな存在”であってほしいっていう期待もあるじゃない?」
「まあ、そうだよね。だからみんな表に出さないんだろうけど」
美玲さんはその会話に加わりながらも、胸の奥に複雑な思いを抱いていた。
彼女自身、誰よりも観客の夢を守りたいと願っている。
けれど同時に、僕という存在を手放したくはなかった。
「……恋って、舞台を豊かにするものだと思う。少なくとも私は、そう信じたい」
静かにそう口にすると、二人は顔を見合わせて笑った。
「やっぱり美玲は真面目だなあ」
その笑顔に、美玲さんも表向きは笑って返した。
でも胸の奥では、夜に僕と交わした“秘密の約束”を思い出していた。
⸻
その夜。
再び僕たちは人目のない道を歩いた。
自然に指先が触れ合い、やがて絡み合う。
恋人つなぎ――もう二度目だというのに、胸の鼓動は初めてと同じくらい速かった。
「……こうして手をつないでるだけで幸せだね」
美玲さんが囁く。
僕は笑みを返しながら、心の奥で改めて誓った。
――この秘密を、必ず守り抜く。
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