第13話 客席からの視線
劇場の照明が落ち、幕が開いた瞬間、客席全体に大きなざわめきが広がった。
華やかな音楽とともに登場したのは、花組の娘役――朝倉美玲。
きらびやかな衣装をまとい、堂々と舞台の中央に立つ彼女の姿に、客席は一斉に拍手を送った。
僕はその拍手の中に混じりながらも、胸の奥に複雑な感情を抱いていた。
舞台上で輝く彼女は、誰よりも美しく、誰よりも遠い存在に見える。
隣に座る姉の麻衣は、目を潤ませながら舞台を見つめていた。
「やっぱり……すごいね」
姉が小声で言う。
「……うん」
僕は短く答えるのが精一杯だった。
観客の視線はすべて彼女に注がれ、喝采が鳴り止まない。
僕の隣にいることを知っている人は誰もいない。
けれど、心の中で「彼女は僕の恋人なんだ」と叫びたくなる衝動を必死で抑えた。
⸻
公演が終わり、観客が一斉に立ち上がって拍手を送る。
その光景を目にしながら、僕は改めて思い知らされていた。
――彼女は多くの人にとって“憧れの象徴”なのだ、と。
カーテンコールを終え、幕が下りる。
劇場を出ると、姉が深いため息をついた。
「……やっぱり、美玲はすごいわ」
そのあと、姉に連れられて楽屋口に向かう。
控えめに訪ねると、ほどなくして彼女が姿を見せた。舞台化粧を落とし、私服に着替えた姿は、舞台上とは違って柔らかい。
「来てくれてありがとう。どうだった?」
美玲さんが微笑んで言う。
「最高でした。本当に……綺麗でした」
僕は言葉を選びながら伝える。
その隣で姉も笑った。
「ええ、感動したわ。……でも」
姉は一瞬、真剣な目で僕を見た。
「――弟。ハメを外さないようにね」
その言葉に、僕は息を呑んだ。
美玲さんは驚いたように姉を見たが、すぐに意味を悟ったらしく、頬を少し赤らめた。
「……麻衣、そういう言い方……」
「ごめん。でも、二人のことは応援してるから。だからこそ、慎重にね」
姉の言葉には、優しさと心配の両方が込められていた。
僕は真っ直ぐに頷き、誓うように言った。
「わかってる。大事にするから」
その瞬間、美玲さんの瞳が揺れ、僕にだけ向けて小さく微笑んだ。
舞台上では決して見せない、恋する女性の表情だった。
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