第12話 すれ違う日常、重なる秘密
春学期の講義が終わり、教室を出ると、いつものように親友たちが集まってきた。
「なあ、今度のゼミ旅行どうする?」
声をかけてきたのは、快活でムードメーカーの佐伯悠真。
「俺は参加だな。ああいうのって就活のネタになるんだろ?」
眼鏡を直しながら言ったのは真面目な高村直樹。
「いやいや、海行って飲むだけだろ。俺はその方が楽しみ」
おどけた口調の**西条蓮司**が笑う。
「……俺はサークルの予定とかぶるかも」
ぼそりと呟いたのは少し寡黙な岡本修二。
「もう男子はそういう話ばっかりなんだから」
笑顔で割り込んできたのは、同じ学部の女子で、僕にとっても気安い友人の宮本紗英。
五人で教室の廊下を歩きながら、他愛のない会話が弾む。
「最近気になる子いる?」とか「合コンどうだった?」とか――恋愛の話題にもなるが、僕は曖昧に笑って誤魔化した。
もちろん、胸の奥には美玲さんの存在がある。けれど、それを口にできるはずもない。
⸻
一方その頃、美玲さんは稽古終わりの楽屋で、同期たちと談笑していた。
彼女の同期は、各組に散らばりながらも結束が強い。
•月組:桐生真琴、羽瀬川莉子
•花組:一ノ瀬彩芽、篠原楓
•宙組:朝比奈怜、望月澪
•雪組:高瀬涼香、成瀬琴音
•星組:藤堂綾音、小早川詩織
「ねえ、美玲。最近ちょっと雰囲気変わった?」
花組の一ノ瀬彩芽が首を傾げる。
「そうそう。なんか、柔らかくなったっていうか……恋でもしてるの?」
星組の藤堂綾音が茶化すように笑った。
「もう、やめてよ。私たちは舞台に生きてるんだから」
美玲さんは笑って受け流した。けれど胸の奥では、彼女たちに本当のことを言えないもどかしさを感じていた。
タカラジェンヌに「恋愛禁止」というルールはない。
恋をするのは自由だ。けれど、舞台の上で「純粋で非現実的な愛」を表現するために、多くは恋愛を遠ざけて生きる。
だからこそ、彼女たちの何気ない問いかけが胸に刺さった。
「……まあ、もしそうなら応援するけどね。だって、恋を知らなきゃ舞台で本当の愛は演じられないでしょ?」
月組の桐生真琴がそう言うと、皆が笑い声を上げた。
美玲さんも笑い返しながら――心の中では、夜に待ち合わせている僕の姿を思い浮かべていた。
⸻
その夜。
劇場の裏口から抜け出した美玲さんと合流し、僕たちは人混みを避けて小さな公園へと歩いた。
夜風が心地よく、昼間のざわめきが嘘のように静かな時間だった。
「……手、つないでいい?」
僕が小さく尋ねると、美玲さんは周囲を確認して、少し恥ずかしそうに頷いた。
そっと触れた指先が絡まり合い、“恋人つなぎ”になった瞬間、胸が熱くなる。
これまでの握手や軽い触れ合いとは違う、強い絆を確かめるような温もり。
「……あったかい」
彼女が小さく呟き、僕を見上げて微笑む。
その笑顔を見ただけで、僕は世界のすべてを手に入れたような気持ちになった。
たとえ誰にも知られてはいけない関係でも――僕らの恋は、確かにここから始まっていた。
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