俺が魔王と呼ばれたのに、なぜか救世主になった件

古の排水路

「ふん、俺を小さな生き物だとでも思ってるのか？ 見た目で判断するのは間違いだぜ、ホワイトスペースの管理者さん——いや、なんでもいいや」とボールドウィンは狡猾な笑みを浮かべて言った。

その声は、幻想的な白い空間に響き渡った。「お前は私の力場を破り、この領域に侵入した最初の人間だ。その功績に対して、質問への答えを与えよう……そして命を保証してやる。」

「へえ、ただの人間だと？ お世辞を言ってくれるね。でもさ、教えてよ——お前、誰？」 ボールドウィンは興味を装って尋ねた。

「私はガリンティアス、ホマの虚空。この場所——シェナフの神だ。すべての生き物が求める領域だ」とその声は威厳に満ちた口調で答えた。

「神、ね？」 ボールドウィンは嘲るように笑った。「最近じゃ、ちょっと力を持っただけで神を名乗る奴が多いよな。ガリンティアス——いや、『変人』と呼んだ方がいいか？」

「お前、なんて生意気なガキだ！」 ガリンティアスは怒鳴った。「私は——」 その声は突然止まり、抑えた怒りに変わった。「お前には私が本当の誰に仕えているかを知る資格はない。」

「ほぉ、真相に近づいたかな？」 ボールドウィンは軽口を叩きながら手を挙げた。彼の背後で巨大な影の扉が現れ始め、黒いエネルギーが不気味に渦巻いた。

ガリンティアスは最初、その扉を軽視していた。しかし、影の魔法が形を成すにつれ、声に不安が滲んだ。「その力……神殺しの力……」

ボールドウィンはニヤリと笑った。「どうした、叔父さん？ 何かビビってるみたいだな。」

「お前が持つ力は、私が知っているものだ」とガリンティアスは冷たく言った。「かつて、お前よりずっと前にそれを扱った者がいた。個人的な話ではない……だが、お前は危険だ。」

ボールドウィンはニヤリと笑った。「なら、かかってこいよ、『ホマの虚空』——神ってやつを見せてくれ。」

「そこにいろ、殺す必要はない」とガリンティアスは鋼のような声で答えた。

ボールドウィンは暗く笑った。「それ、影響を受けた人間全員に言ってる台詞だろ？ 安っぽいトリックだな、ガリンティアス。もっと頑張れよ。」

「黙れ、ガキ！」 ガリンティアスは咆哮した。

突然、光の巨大な構造物が立ち上がり、槍のようにボールドウィンに向かって突進した。ボールドウィンは冷静に一歩進み、目の前に影のポータルを召喚した。光の槍はポータルに衝突し、虚空に消えた。

「ガキ！ 影の力を持つが、神殺しではない！ だが、今お前を倒せば、私はさらに高みに登れる！」 ガリンティアスの声には焦りが滲んでいた。

ボールドウィンは首を傾げた。「神殺し？ そいつらが本物か、へえ、面白いな。ちょっと調べてみるか。だが、今は……」 もう一つのポータルが現れ、突進する塔のエネルギーを自身に跳ね返した。構造物は崩れ、爆発のように埃が舞った。

埃が収まると、ボールドウィンは笑いながら走り出した。古い排水口を見つけ、ためらうことなく影の移動を使って虚空に滑り込み、狭い排水口の中に現れた。

「戻ってこい、ガキ！ 永遠の昏睡に閉じ込めてやる！ 二度と目覚められんぞ！」 ガリンティアスの咆哮が領域中に響き渡った。

だが、ボールドウィンの姿はすでに暗い排水口の奥に消えていた。

排水口に入った後、ボールドウィンは牢獄の独房にいる自分に気づいた。最初は混乱が頭を覆った。こんな監獄は想像したこともなかった。それぞれの独房は、異なる世界の断片のようだった。

ある独房では、男が満員の舞台で演奏しており、かすかに音楽が廊下に響いた。別の独房では、情熱に絡み合うカップルがいて、笑い声が暗い環境にも関わらず聞こえた。別の場所では、ファンタジーの王のようにくつろぐ者が豪華な食事を楽しんでいた。平凡なものもあった——農作業をする者や、殺風景な部屋で眠る者——そして、ごく少数は伝統的な牢獄の独房そのもので、暗く荒涼としていた。

「普通じゃないな」とボールドウィンは呟き、鋭い視線で細部を分析した。

彼は衛兵や緊張感、抵抗を予想していた。だが、何もなかった。組織的な権威の不気味な不在が彼の背筋を凍らせた。

「幻覚か？ かもしれない」と彼は呟いた。「でも、なぜ人間、エルフ、ヴァンパイア、悪魔がここに混在してるんだ？ ここは一体どんな場所だ？」

彼の頭は急速に動いた。捕虜の多様性が謎を深めた。

「ターゲットを見つけよう——オリビアの母だ」と彼は自分に囁き、目を細めた。

さらに進むと、奇妙な廊下が大広間に開けた。そこでは初めて管理の兆候が見えた。暗く複雑な鎧をまとった少数の衛兵が中央に立ち、武器が薄暗い光の中で不気味に輝いていた。彼らは数人の囚人を威圧し、跪く者もいれば、床に倒れて殴られ傷ついた者もいた。

ボールドウィンの本能は、目立たず通り過ぎるよう告げていた。だが、通り過ぎようとした瞬間、彼の深紅の目が木の床に意識を失って横たわる人物に釘付けになった。

それはオリビアの母だった。

彼女の傷つき、命のない姿を見て、ボールドウィンは凍りついた。普段の冷静さが消え、怒りの閃光が取って代わった。指が拳に握られ、影のエネルギーがかすかに脈打った。

「なぜ彼女がここに？」 彼は考え、疑問と怒りで頭が曇った。「いや、今じゃない。冷静になれ。集中しろ。」

ボールドウィンはゆっくり息を吐き、計算モードに切り替えた。衛兵とその位置を観察し、彼らが彼の存在に気づいていない様子をメモした。

「ここ、面白くなってきたな」とボールドウィンは冷たく囁いた。行動の準備を整えた。

ボールドウィンは行動を起こすのにためらうことは滅多になかったが、この場所は彼を不安にさせた。衛兵の奇妙な行動と明確な構造の欠如が彼を慎重にさせた。あまり早く全力を解放すれば、幻覚の微妙なバランスを崩し、この場所に関する重要な情報を見逃すかもしれない——そして、見えない危険が潜んでいる可能性もあった。今は、観察し、情報を集めることにした。

衛兵の一人がオリビアの母の腕をつかみ、彼女の虚ろな体を無造作に地面に引きずった。彼女の足が木の硬い床を擦り、ボールドウィンの目は暗くなり、静かに後を追った。

衛兵は質素な木の扉の前で立ち止まった。ボールドウィンは壁に身を寄せ、影の中に隠れた。

「そこに連れて行くのか。完璧だ。この薄暗い光なら、俺の影の力はもっと使いやすい」と彼は考え、唇に微かな笑みが浮かんだ。

衛兵は扉を押し開け、オリビアの母を中に運び、扉をバタンと閉めた。ボールドウィンは前に進み、粗い木に耳を押し当てた。

最初はくぐもった声だけだったが、すぐに衛兵の冷酷な声が聞き取れた。

「起きろ！ 起きろ！」 異常な声が唸り、水をかける音と鋭い平手打ちの音が続いた。

次に、オリビアの母の声が震え、絶望的に響いた。

「オリビア！ 私を置いて……お願い！ 彼女はまだ子供なの……飢えてる——私が——」 彼女の言葉はもう一つの強烈な平手打ちで遮られた。

衛兵は嘲笑った。「バカな女！ まだ娘にしがみついてるのか？ 神々が彼女を連れ去ったのには理由がある。諦めな！」

「いいえ！ 絶対に彼女を諦めない！」 オリビアの母は虐待にも関わらず決然とした声で叫んだ。

「ほぉ、ほんとに？」 衛兵は嘲った。連続する平手打ちの音が扉を越えて響き、一つ一つが前より大きかった。

ボールドウィンの拳は固く握られ、指の下の木がわずかにひび割れた。衛兵の次の言葉は彼の怒りをさらに煽った。

「条件を受け入れるなら、娘にまた会わせてやってもいい」と衛兵は嘲笑った。「だが、まずは……自分で彼女を殺せ。聞こえたか？ 殺せ！」 彼は冷たく空虚な笑い声を上げた。

もう一つの平手打ちの音が部屋に響いた。ボールドウィンは扉から一歩下がり、顔は冷たく無表情になった。

「十分な情報は集めた。この馬鹿げたことは終わりにしよう。」

そう言うと、ボールドウィンは影に沈み、衛兵が再びオリビアの母を殴ろうと手を上げた瞬間にその背後に現れた。打撃が届く前に、ボールドウィンは男の手首を空中で掴んだ。衛兵の目は驚愕で広がり、ボールドウィンの鉄のような握力で腕が不自然に捻られた。

衛兵は振り返ったが、目の前に立つ者——あるいは何か——を見て顔が青ざめた。ボールドウィンの暗い笑みと深紅に輝く目は、彼の背筋を凍らせた。

「俺なりの神聖な罰を下す時間だ。」

ボールドウィンの声は低く、静かな脅威に満ちていた。

衛兵が口を開く前に、ボールドウィンの手が素早く動いた——

ガツン！

一発の平手打ちで男は人形のようにはね飛び、骨が軋むような力で壁に激突した。

「な……誰……誰なの？」 オリビアの母は弱々しく囁き、目が焦点を合わせようとしていた。

ボールドウィンは近づき、表情は柔らかだが確固としたものだった。「しっかりしろ」と彼は言った。「覚えてる……お前は忘れられた英雄だ。」

そして、独り言のように、皮肉な笑みを浮かべて付け加えた。「今回、かなり深いところに首を突っ込んじまったみたいだな。」