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02 銀魔の剣鬼は死んでいる


 深夜。薄暗い森の中で、炎を焚きながら肉が焼き上がるのを待つ。

 今日の夕食は、刃物なんて持ち合わせていないため、素手で強引に引きちぎった猪の肉だ。

 とても形が良いとは言えなかったが、それでも肉は肉。

 それに、若返ったせいか妙に腹が空く。

 街までどころか、明日まで持たないほどに。

 どうやら、食欲も若返ったらしい。


「そろそろいいかな」


 こんがりと焼けた猪の肉に齧り付く。

 硬い。噛み切るにはかなりの顎の筋力を要する。

 若返っていなかったら、歯を数本は持っていかれたかも知れない。


「イマイチだ……」


 焼き上がった猪肉はあまり美味しくはなかった。

 そりゃそうだ。全く調味料は使っていない上に、普段の癖でしっかりと念入りに火を通しているせいかより硬く、お世辞にも美味しいとは言えない出来だった。

 元々、キング・ボアの肉は硬いと言われていたし、期待はしていなかったけど。

 とは言え、腹は満たされた。


「はぁ……早く、人里に戻りたい」


 そんなことをぼやきながら消火し、眠ろうとした直後、森の奥から奇妙な音が聞こえた。

 少し昔の、老体の頃なら聞き取れなかったかもしれない、小さな悲鳴。


「こんな魔境に人がいるのか?」


 色々と思うところはあるが、考えている場合じゃない。

 私は体を起こし、駆け出した。

 元々、夜目が効く方ではあったがあの秘薬を飲んで以降、かつてないほどに鮮明に見える。


「ただ、若返るだけじゃないのかもしれないな」


 木々の間を駆け抜け、向かった先では金髪の女性が、人型のオーガというモンスターに襲われていた。

 しかもあれは最上位種、レックス・オーガ。鬼のような形相に、三メートル近い筋骨隆々の体躯。

 赤い皮膚は非常に頑丈で、そのおっかない見た目通り強力。

 好戦的で危険度はかなり高い。

 先ほどの猪もキング・ボアと呼ばれる危険なモンスターと同等か、あるいはそれ以上の強さを誇る。


 流石は魔境と呼ばれるだけある。

 こんなのが平然と暮らしているのか。


 金髪の女性はボロボロで、鎧を纏っていたようだが、もう役割を果たせそうにはないほど破損している。

 また、額からは赤黒い血が垂れている。

 意識ははっきりとしているようで、オーガを強く睨んでいるが、体は限界なようで立ち上がることすらままならない。

 オーガはそんな彼女に容赦なく、その手に握る太い棍棒を振り下ろす。


「おっと、危ない危ない」


 そんな二人の間に割って入り、オーガの棍棒の根本を左手で強く掴んだ。

 ふぅ……何とか間に合ったようだ。

 これでオーガはこの棍棒を手放さない限り動けない。


「大丈夫かい?」


 そう尋ねるも金髪の女性は、棍棒を握り締めオーガの動きを止める私を、ポカンと口を開け眺めていた。

 サラサラとした長く美しい金髪の隙間から見える彼女の耳は長く尖っている。

 これは、エルフ族の特徴だ。

 エルフがこの国のこんな危ない場所で何を……って、今はそんなことを聞いている場合じゃないか。


「エルフのお嬢さん。剣を貸してもらってもいいかな?」


「えっ、えぇ」


 地面に広がる剣を拾い、私へと投げ渡す。

 投げられた剣の柄を右手で掴み、遠心力で鞘から剣身を抜いた。


「ふむ、悪くない剣だ……少し刃こぼれしているけど、これなら魔力で補強する必要はないかな」


 粗悪品でもなさそうだし、全力で振るっても壊れることはないだろう。

 それに、


「ただ殺すだけなら、魔力なんて要らない」


 一振りに込めるのは殺意のみ。


「えっ……」


 刹那、空を切る音と同時にオーガの首がずれ落ちた。

 ドスンッ、と音を立て地に転がるオークの首。

 それから少し遅れて巨大な胴体もばたりと地面に倒れた。


「レックス・オーガを一撃で……あなた、何者?」


 金髪の女性は信じられないと目を丸くしながら、そう問いかける。


「私かい? 私はグラウス。銀魔の剣鬼って呼ばれている剣士だ」


 その言葉を聞いた瞬間、金髪の女性はポカンとした顔を浮かべた。

 私の放った言葉の意味が理解できないと言わんばかりに。 


「いえ、そんなはずはありません。彼はそもそも高齢とのことですし……何より、彼は一ヶ月前に亡くなったと、そう聞いています」


 驚きはあまりなかった。

 あの状況から生きて帰ってくる方がおかしいのだから。


「そうか」


 やはり『銀魔の剣鬼』は世間的にはすでに死んだことになっているようだ。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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