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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悵鬼~聊斎志異外伝(ホラー・SS)

作者: 源公子

 清の時代、一人の若者が、今の吉林省白頭山の麓で道に迷い、虎に出くわした。


「うまそうだな」

 虎は舌なめずりをする。若者は腰を抜かして動けなくなった。


「おい、早く服を脱がせろ。食いにくいじゃないか」


 虎が振り向いて怒鳴ると、一人の女がおどおどと虎のあとから現れた。

 その女の美しさに、若者は殺されるのも忘れて見とれてしまった。

 女もまた若者を見つめ返した。


 虎に急かされ、女が若者の服を脱がせると、虎は若者を食おうとそばに寄ってきた。


 その時、「逃げて!」女は叫んで若者の着ていた着物を虎の頭にかぶせて、押さえ込んだ。


 虎が着物を取ろうともがく隙に、若者は一目散に山を降った。

 後ろで虎のうなり声と女の泣き声が聞こえる。


「ごめんなさい。あんまりあの人が若いから、可哀そうになって。次からはちゃんと働きます、許して……」



 若者は命からがら家に逃げ帰ると寝込んでしまった。恋煩いだった。

 虎の連れていた女に一目惚れしたのである。


 話を聞いた母親は「お前、それは悵鬼だよ。虎は食べた人間の幽霊を、そうやって召使いとしてこき使うんだ。そんな女に惚れたってどうしようもないじゃないか、他に女はいっぱいいるよ。

早く忘れて元気なお前に戻っておくれよ」


 けれど若者は何も食べずにどんどんやつれていく。

 もう自分は死ぬのだと思ったその時、若者はあの女と一緒になれる方法を思いつく。


 若者は飛び起きると勢いよく食べだした。食べて、食べて、食べ続けた。


 元気になったと喜ぶ母親はやがて青ざめた。若者は食べるのをやめない。

 家中の食べ物を食べながら、お祭りに出される豚の丸焼きのような姿になっていった。


 ついに家中の食べ物を一つ残らず食べ尽くすと、若者はまた白頭山に登っていった。



 虎と女はすぐに現れた。女は様変わりした姿にあの若者と気がつかず、虎のため若者の服を脱がせた。


 そうして虎は若者を食べた。


 食われながら、若者はうまくいったとほくそ笑む――

 狙い通りにことが運んだからだ。


 あの時、男は考えた。

「恋しい女が悵鬼ならば自分も悵鬼になればいい。どうせこのまま死んでしまうのなら」

 でも虎の召使いになるのはつまらない。

 女も自分も自由になるには虎を殺すしかない。

 だから若者は体中に毒を塗って、生き餌として虎の前に現れたのだ。


 やがて毒が効いて虎は死んだ。


「これでこの女と一緒になれる」

 悵鬼になった若者は女に近づいた。


 だが女は恐れて後ずさる。


 無理もない、若者には首がなかったのだから。

 虎が首を食べる前に毒が回って死んだので、首だけ悵鬼になり損ねたのだ。


 首がなくては、しゃべることもできない。

 女のために考えた愛の言葉も伝えられない。


 女はおびえて逃げ出した。若者は慌てて後を追う。


 その時、別の虎が通り掛かり

 若者の残った首を食べてしまった。

 その虎は毒の量が少なくて生き延び、若者の首はその虎の悵鬼となった。




 以来白頭山の山奥では

 泣きながら愛の言葉を並べ立てる、首だけの悵鬼を連れた虎と

 首のない幽霊に追いかけられて、逃げ回る女の幽霊が出るようになったと伝えられている。


    



 二十代の頃、ジュブナイル物の草分け的雑誌“獅子王”に投稿して落選した話。

アイデアは気に入ってたけど、こう言う残酷な話は受けが悪いんですよね。




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