2.イケメンの恋愛相談なんて超絶面倒臭いことは全力で拒否致します!
………はっ!?
私は一体何を?!
気がつくと私はさっきまでの景色と明らかに違うところにいて慌てて周りをキョロキョロと見回した。
周りに視線を飛ばしていると徐々に見慣れた景色が飛び込んできてようやくここがどこなのかわかった。
私は何故か気が付かないうちに自分の家に帰ってきていたみたいだ。
さっきまでの出来事は夢だったのだろうか?
あまりに現実味がなさすぎるから夢だったと考えるのが一番しっくりくるような気がする。
そりゃそうよね、木の実を取りに行ったらよくわかんない男が樹に向かって告白しているところを目撃するとか普通に考えて有り得ないもの。
なんだ、夢だったのか……最近はちょっと暑かったし夏バテ気味だったから白昼夢でも見ていたのかもしれないわね。
(夢か……夢ね。あー良かった)
安心したらどっと一気に疲労が押し寄せてきた。
取り敢えず私は目深に被っていた黒いフード付きのコートを脱ぐと椅子にバサりとかけた。
そのまま台所の方に行って喉が渇いていたから紅茶を入れてダイニングの方に戻るとテーブルにカップをコトリと置いて椅子に深く腰をかけてフゥーっと息を吐き出した。
そして、何の気なしに前を見ると驚愕に目を見開いた。
「随分と深いため息だったな。それと、自分にだけか? 客に茶のひとつも出さないのかここは」
「………………なんでここにいるんですか」
「なんで……とは随分な言い方だな。自分から家に案内したくせに」
「うそ?!」
その言葉を聞いて私はテーブルをバンッと叩きながら勢いよく立ち上がった。
有り得ない!!
私がこんなに得体の知れないやつを自分の家に案内するなんて!!
あの森で何があったっけ?
よく思い出せ!思い出すんだ私!!
確か………あの時…………。
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「………恋愛…………相談?」
「あぁ、是非とも同じ女性目線でアドバイスして欲しい」
「…………嫌です。他を当たって下さい」
彼の拘束はいつの間にかとかれていたのでそう言うと私はくるっとUターンすると彼をガン無視して歩き出そうとした………が、歩き出した直後に後ろに手がグイッと引っ張られて危うく転びそうになった。
(あっぶな!)
私は咄嗟に彼の手を振り払うと思いっきり睨みつけてやった。
…………ちょっと目力じゃ適わないけど何もしないよりはマシでしょ!
こういうのは舐められたら終わりなんだから!
「ほんとに困っているんだ! 助けて欲しい!」
「知らないですよ。あんたが困ってようが私には関係ないので」
「……お前には困っているやつを助けようとする優しさは無いのか?」
「………生きていく上で優しさなんてものは必要ないのでいらないですね」
「お前………見た目に合わず冷たいヤツなんだな」
「冷たくて結構です! そういう煩わしい人間関係なんて死んでもごめんですね。関わりたくは無いので、そういう相談事なら他を当たって下さい。あなたなら私じゃなくても相談に乗ってくれる人はいっぱいいるでしょ」
私はひとりが好きなのよ。
もう二度と誰かと関わるなんて面倒なこと絶対にしたくは無い。
だからこそ、誰とも関わることが絶対にないであろう森の奥深くに家を建てて住んでいるのよ。
あの時のことは忘れたくても忘れることが出来ない。
一瞬思い出しかけてくらい気持ちになったけど頭を振って無理やり記憶を追い出した。
とにかくここまで言えばこの人ももうしつこく絡んでは来ないでしょ。
だけどちょっと言い過ぎたかなと気になってチラッと後ろを見てみると彼は俯きながら手をプルプルと震えさせていた。
(え!?なんか怒ってる? もしかして……さっきの私の発言に気分を悪くして、やっぱり相談じゃなくて口封じとかでやっぱり私はバッサリ斬り殺されるの?!)
「それが出来たら苦労はしていない………」
「…………」
……目の前の男は絞り出すように震えながらにそう言ってきた。
なんか………そんな感じで言われたらものすっごい私がいじめてるみたいじゃない。
さっきちょっと言いすぎたかなって言う罪悪感もあったせいか、なんかそれが出来ない事情とかがあるのかなとちょっと同情しかけた時男から衝撃の言葉が飛び出した。
「俺は……俺は……顔が良すぎるんだ!!!!」
「……………………は?」
こいつは何を言っているんだろうか?
自慢か?いきなり自慢を聞かされたのか私は。
私は、自分の顔から表情が抜け落ちて言っているのを感じながら冷めた視線で男に聞き返した。
「………今、なんて言ったの?」
「だから、俺は顔が良すぎるから誰にも相談ができないんだ!!」
「………………………」
「ここに来るまでに一応身近な人に相談をしようと試みてみたんだ。だけど何故か相談しようと声をかけると顔を真っ赤にしながら逃げられ、ある時は何故か声をかけただけで好意があると勘違いされ3ヶ月もの間執拗にストーカーされた」
「…………………」
「そしてさらにある時は近づいただけで何故かいきなり目の前で喧嘩が始まって、しまいにはキャットファイトにまで発展してしまった………その時は流石の俺も怖くなってしまいその場からそそくさと逃げてしまったよ」
「………………………………………」
「その他にも色々と……相談しようと声をかければこんな風にトラブルしか起きないんだ……だから身近の人に相談しようとするのは諦めたんだ。はぁぁ…なんて罪なんだ……俺の顔は」
いや、確かにこれだけ聞くと物凄く大変だったんだなとは思うよ?
だけど最後の一言が物凄く邪魔じゃない?
その一言絶対要らないでしょ?
結局はモテる自慢がしたいだけなのかこの男は。
それに私は生まれてこの方、こんな森に引きこもっている私に恋愛経験なんかあるわけない。
だから必然的に私に誰かの恋愛相談に乗るなんてことは絶対に無理!
なのにましてや、このモテ男の恋愛相談に乗るなんてもってのほかというか何より………なんだろうな、こう…話を聞くほどに乗りたくないという気持ちが増していくわね。
すっごく不愉快なのは間違いない。
というか、こんな意味がわからない頼みに対して安請け合いをして自分からめんどくさい事に突っ込んでいくのはごめんこうむりたい。
なので、必然的に私が出した答えは………うん。
見なかったことにしよう!
そして私は何も聞かなかった!
そうだそうだ。ここにはいつも通りに薬草や木の実を取りに来ただけで誰にも合わなかった。
うんそういうことにしよう!
自分の中で最適な答えを導き出せたことに満足した私は、目の前でまだ何か言っている男を放置して家に帰るために静かに立ち去ろうと後ろを振り向いて歩き出そうとした…………が
「待て待て待て!」
「ぐぇ!」
そう言いながら男は何故か私の襟首を思いっきり引っ張ってきた。
そのせいで、今までに出したことがないような変な声が漏れた。
(……し、死ぬかと思った……一瞬お花畑が見えたんだけど。やっぱりこの男は私のことを殺す気なわけ?)
私が首を押さえながらぜぇはぁぜぇはぁと息をしながら男の方を睨みあげれば、男は酷く焦った感じで「すまない!」と謝ってきた。