1. 出会い頭の変人に恋愛相談を持ちかけられました
「愛してる!!君の全てが欲しい!!…… うーんちょっとこれじゃ重すぎるか?……好きだ!!俺と付き合って欲しい!……これじゃ直球すぎる気もするな」
私は今、見てはいけないものを見てしまったかもしれない。
何故ならばめっちゃ気まずい告白現場?みたいなのに遭遇してしまったみたいなのだ。
しかも! ただの告白現場ではなくどういう訳か……目の前の人物は……人ではなくめちゃくちゃ大きくそびえ立つ大樹に向かって告白しているではないか。
そして極めつけは、愛の言葉を囁きながらもこうじゃないだの、もっとああだの私にはよく分からない言葉をブツブツと呟きながらもすごく聞いてて恥ずかしい言葉を連発している……所謂変人だな。
傍から見ていてとても怖い。
ああいうよく分からない挙動不審な言動をしている人とは極力関わらない方がいいと言うのは昔から言われている。
(言われているはずだ! というか言われてなくとも関わり合いたくはない!)
私は目の前の光景を見なかったことにして素早くこの場から立ち去ることに決めた。
後ろを振り向いて歩き出そうと足を踏み出した瞬間にパキッと音がした。
(パキッ?)
足元を見てみるとちょうど私は木の枝を踏んでしまいそれが折れた音だったみたいだ。
(……よくあるお約束パターン)
自分の不用意さに頭を抱えながらため息をついていると後ろから声が聞こえた。
「誰かそこにいるのか?」
「?!」
咄嗟に私は自分の口を押えて息を潜めて隠れるようにしゃがみ込んだ。
ここからの位置とあの場所だと近づいてこなければ見つからないはず。
そう思った私は静かに隠れてこの場をやり過ごそうとした。
だけど次にチャキッという剣を抜いたような音が聞こえてきて冷や汗を流しながらパニックになった。
(え?今なにか剣を抜いたような音がしたんだけど?! もしかしてこのまま隠れていたらスパッと切るつもりなわけ? あの意味不明な告白現場を覗いてしまっただけで?あんなのは不可抗力だって!いつもの木の実を取りに行く道の途中でこんな不可解なことに遭遇するとは思わないじゃん! こんなところに滅多に人なんて来ないんだし!)
私がぐるぐると頭の中で覗いてしまったことについて言い訳を重ねていると追い打ちをかけるように不機嫌な声が聞こえてきた。
「このまま隠れているつもりか? そのつもりならばこの当たり一体の木を全部ぶった斬って炙り出すことにするか」
(木を全部ぶった斬るですって!? そんなことしたら私の大切な食料がなくなってしまうじゃない!!)
とんでもないことを言い出した男にさっきまでのパニックや恐怖はなんのそのバッと立ち上がると男の前まで出ていって怒りに任せて叫んだ。
「この辺の木を全部ぶった斬るですって!? そんなことしたら私の大切な食料がなくなるじゃない!! あんたは私を飢え死にさせる気なの!?」
「!?……女!?」
目の前の男は私がとび出た瞬間に驚愕の表情で叫んだ。
その声を聞いた瞬間さっきまであった怒りが萎んでいくようにハッと我に返った。
(まずい! 怒りで我を忘れて咄嗟に飛び出てしまったわ! どうしよう!)
私がアタフタと隠れられそうな場所を視線をさ迷わせて探しているといつの間にか目の前まで来ていたのかすごく不機嫌そうな顔で私を見下ろしていた。
(終わった………)
儚い人生だったよ。
私は今日ここでこの見知らぬ男に大樹に向かって告白するという現場を目撃したが為だけに口封じのために無惨にも殺されるんだわ。
私は開き直ったかのようにこれから自分を殺す相手がどんな顔をしているのか拝んでやろうとキッと目の前の男を見上げてハッと息を飲んだ。
今までに見たことがないくらいの美しい風貌を称えた男が目の前にいた。
白銀色の髪に透き通ったような青藍色の瞳。
目はややつり目で見る人によっては冷たい印象を与えるかもしれないが、その冷たい感じが何故か目の前の男にはとてもあっているような気がする。
あまりにも美しく整いすぎた顔面を惚けたようにガン見していたらまたもや不機嫌そうな声をかけられた。
「おい」
「はっ!」
「女がこんなところに1人で何やってるんだ?」
そう聞かれた私は手に持っていた籠を男の前に突き出
した。
「見ての通り私は今、今日の夕食の食料調達のための木の実や山菜を取りに来たんです」
「………こんな山奥にか?」
男は私の答えを意外に思ったのか、怪訝そうな顔で眉をひそめながらそう聞いてきた。
(言いたいことはわかってるわ。女がこんなところで1人で住んでるとは思わないだろうし、嘘ついてると思われても仕方がない)
「………………か?」
私が嘘じゃないとどうすれば証明できるかと考え込んでいたら男が何かを聞いてきたようだけど聴き逃してしまってなんて聞いたのか分からなかった。
「? ごめん、聴き逃しちゃった。 なんて言ったの?」
「………だから! さっきのやつを見てたかと聞いたんだ!」
「さっきのって………あぁ! あの、愛してる……とか好きですとかのやつ?」
「?!」
私がそう聞き返すと男は驚きに見開いた。
(……あんな大声で言っていたのに聞かれてないと思ってたわけ?)
私が呆れたようにため息をつこうとした瞬間何やら物騒な言葉が聞こえてきた。
「……やはり口封じをするべきか………」
(口封じ?! やっぱりこの男は私のことを殺す気なの?!)
物騒な物言いに私が心の中でアワアワしているうちに気づいたら男は私の目の前にまで来ていた。
そして男はおもむろに私の手をガシッと掴むと逃げられないようになのか、私の行く手を塞ぐかのように私の顔の横に手を置いた。
背中には大きな木があって後ずさることは出来ない。
そして私の顔の横には大きな手がひとつ、そして私の右手は大きな手が掴んでいる。
………なるほど、これが俗に言う壁ドンならぬ木ドンだろうか?!
私はおおよそ冷静な判断が出来なくなっていたのだろう。
あまりの衝撃。そんでもってこれでもかっていうような超絶整った顔をした美形男子の顔面が真近にあるという現実。
そして彼が言った口封じという言葉、なんかもう全てが現実離れしている現状に半ば全てを諦めかけていたその時またもや男の口から衝撃的な言葉がとび出てきた。
「良かったら俺の相談に乗ってくれないか?」
「………………はぇ?」
予想だにしていなかったことを言われて私はこれまでにないほどの間抜けな声を発していた。
(相談?………なんの?てか、口封じに私の事殺すんじゃないの? 今から殺そうとしている相手に相談?)
私はパニックになりながら頭の中ではこれでもかっていうほどのハテナが飛び交っていた。
そしてパニックになっていたからなのか、ついつい本音がポロッとこぼれてしまった。
「頭イカれてんじゃないの?」
「は?」
「え?」
私は今何を口走ったのだろうか?
なんか言ってはいけないことを言ってしまった気がするわ………。
2人して固まって見つめ合うこと数秒。
先に口を開いたのは彼だった。
「……今……なんと?」
「…………何がですか?」
「俺は今、イカれていると言われたのか?」
「気のせいです!!」
その問いに私は食い気味に否定した。
(やってしまったぁぁぁぁぁ!!!!)
見た目からしてこの人絶対高位貴族様だよね?!
それなのに私はなんてことを口走ってしまったんだ!!
終わったかもしれん………。
内心で頭を抱えながらのたうち回りながらも表情はなんでもないように澄ましながら微笑んでいる私。
澄ましながら微笑んでいても後から後から溢れ出てくる冷や汗が止まらない。
この動揺を悟られてはいけないわ。
とりあえず早急にこの男から逃げて家に帰りたい!
だけどしがない平凡な魔女の私がこの体格のいい騎士様?から逃げるのは至難の業じゃないわ。
さてどうやってこの拘束を解いて逃げ出すか……。
頭の中で逃げる算段をつけていると急に目の前の男が笑いだした。
え、何この人めっちゃ怖い
「イカれている………か………確かにお前の言う通りかもしれないな」
「………へ?」
(なんかよくわかんないけどイカれているに納得した?!)
「俺は………彼女に恋をしてからおかしくなってしまった!! だからお前が言う頭がイカレているはあながち間違いでは無いのかもしれない」
「あのぉー」
「どうしたらいいんだ俺は!どうするべきだと思う!?」
「え!? なにが?!」
なんか急によくわかんない問いを投げかけられたんだけど!
何について聞かれてるのかさっぱりわかんないし、急に声を荒らげてきてめっちゃ怖いんだけどこの人!
情緒不安定すぎてしょ。
しかも話の脈略が無さすぎて余計意味不明だし!
「俺は彼女にどう告白したらいいと思う?!相談に乗って欲しい!」
「…………はぁ!?」