99話
内壁の門の手前で、リリ達は潜入組と待機組に分かれた。内壁の門は固く閉ざされていたからだ。
「ロディとサラは門の近くで待機。もし、誰かが出て来たらバレないように侵入して中央公園の噴水の所で待ってて。竹富は北側から侵入。里道は東側から。私は西側から。中央公園噴水までのルートを辿って怪しい所があれば報告を」
リリは地面に木の枝を使って図を書く。
「ロディとサラは、私達が侵入して調査をした後に街へ入ってもらうわ。それまで騒ぎは起こさないでよ? モンスターが出ても逃げる事を優先して」
「分かった」
「分かってるわ」
リリが2人の顔を交互に見る。分かれて行動する不安はある。けれど、5人で行動すると目立ち過ぎる。何よりリリは置いておいても竹富、里道は忍び込むプロフェッショナル。怪しい場所に潜入するなら任せたい。
「ステルフ」
「キュルキュル〜」
ホワホワした黒毛玉が現れるとパタパタと羽根を羽ばたかせてリリの肩にとまる。
「何かあったらステルフに言って。ステルフの言葉はロディにもサラにも伝わらないけど、あなた達の言葉は伝わるから」
ステルフはサラの肩にとまった。
「ステルフちゃん、よろしくね」
「キュルンキュルキュル」
全く通じてなさそうだが、サラはステルフの顎の辺りを撫でていた。
「それじゃ竹富、里道。行くわよ」
「3人共、気を付けてな」
「無理しないでよ?」
3人は頷くとそれぞれの場所へと走った。
(さてと……この辺から潜入するかな……?)
リリは内壁を見上げた。壁沿いを走って西側まで来たが、怪しいと思うような部分は見当たらなかった。
(内壁の外側……だもんね……。てか、自然区なのに、畑も荒れ放題だったな……。マジで自然区にすら出られない状況になってんのかな……)
田畑には雑草が生い茂り、しばらく何も手を付けてない……と言う感じだった。
(それでなくても農業には厳しい気候なのに……。みんなどうやって食べてるの……?)
食べる物がなくて餓死をした死体がゴロゴロ転がっていたら、正気を保っていられる自信はなかった。
(ゲームなんだけど……ゲームなんだけど……目の前にあったら……)
確かにモンスターを狩って食べている。NPCじゃない崎野を手にかけた。
(それでも……死体の山は、出来る事なら避けたい……。ゾンビに追い掛けられるのも……)
リリは一つ深呼吸をして壁の縁へと飛び上がった。