97話
食事を終えたリリ達は警戒しながら洞窟を出た。リリはグルリと周りを見回す。
(針葉樹の……森……? 北の方って感じ……よね)
周りの木々は針葉樹っぽい木ばかりだった。そして、サラが言ったように空気がピリッとする位に気温が低かった。
空を見上げると、スッキリ晴れた空と言うよりは雲が多くあった。
(うん……。やっぱりハルシャギクやハゼランの方面なのかも知れない……。こう言うの『鉛色の空』って言うんだっけ……)
その時だった。
ゴンッ
(え?)
他のみんなは歩いて行っているのに、なぜかリリだけが前に進めなくなった。
(え? え? ……壁?)
自分の目の前に手を伸ばしてみてペタペタと触ってみる。透明な壁がある感覚があった。
(な……何で……? みんなは行けるのに、何で私だけが進めないの……?)
「どうした?」
遅れたリリの方にロディが戻って来た。
(声は聞こえる……。姿も見えてる……。なのに、何で進めないの……?)
「知らない所で1人になったら危ないぞ?」
ロディが手を差し伸べている。その手を掴む事を躊躇した。
(もし……この手を取っても、この壁を越えられなかったら……)
「考え事は、後にしろって。行くぞ」
ロディがリリの手に触れた。サラ達も立ち止まって振り返っているのが見える。
(ロディ……の手が……触れてる……)
次の瞬間、グイッと引っ張られてリリの体は前に進んだ。一歩進んで立ち止まる。
(え?)
「ほら、行くぞ。どうしたんだよ? そんなビックリした顔して」
ロディの笑顔が目の前にあった。繋がれた手が温かい。
「あ……うん。何でもない」
後ろ手で壁のあった辺りに手を伸ばしてみても、先程あった壁はスッカリ消えていた。
(消えてる……。何だったの……?)
「どうしたんだよ?」
「ううん。ありがとう、ロディ」
「え? 何がだ?」
(一緒に居てくれてありがとう……)
心配してくれて、そして笑ってくれる男性がいる。こんな自分を好きだと言ってくれた優しく真っ直ぐな男性。
(もし……ずっとロディと居られたら……。ううん……。それは絶対に無理……。私は、この世界で生きて来た人間じゃない……。この世界で生きて来たリオをずっと一人ぼっちでパソコンの中に居させる訳にはいかない……。約束したから……)
リリはロディの手の温もりを忘れたくないと思った。