93話
「とにかく先に進もう。警戒は万全で……ね?」
大きく息を吸い込んでリリは一歩踏み出し、後にロディ達が続く。殿は竹富。後ろからの敵襲に備えながら歩き出す。
(何で……何もないの……? 何もない方が怖いんだけど……)
ゆっくりと周りを確認しながら地下へと進んで行った。そして、水鏡の間と同じように扉があった。
「敵襲も……罠もなかった……な」
ロディが息を吐いてからボソッと言う。それでも警戒は解かない。
「うん……」
(本当に……この先に人質の人達は居るの……?)
リリは扉の前に立った。
ゴオン ゴオン ゴゴゴ……
(これで……何もなかったら……)
ゆっくりと扉が開いて行く。みんなは敵襲に備えて構える。
「え?」
完全に開いた扉の向こうは、水鏡の間より大きな空間があるだけで、人っ子一人居なかった。
「どう言う事だ……?」
「誰も……居ない……。どうして……?」
竹富もサラも茫然として呟く。里道が駆け込んだ。
「なぜだっ⁉ 俺は、ここに食物とか運ばれて行くのを何度も確認したんだぞっ⁉ なぜ誰も居ないっ⁉」
ただの広いだけの空間に里道の声が響く。リリ達も中に入って辺りを見回す。隠れられるような障害物もない空間。
(里道が勘違いするとは思えない……。だとしたら、ここに居た人達はどこに行ったの……?)
食べ物を食べた後や寝ていた様子も全くない空間。
「もしかして隠し扉とかあるかも知れないわ。壁を調べてみない?」
リリが言うとみんな頷いて壁を調べ始めた。ペタペタと触ってみても、コンコンと叩いてみても、ただの壁だった。
(何か呪文とかが必要……とか? 仕掛けがある……?)
「ねぇ……ここ……」
リリの隣で壁を杖で叩いていたサラが声を上げた。
「どうしたの? サラ」
「凄く微妙なんだけど……風を感じるの……」
(風? もしかしてよくある壁の向こうに空間ってヤツ?)
サラは数歩壁から離れた。
「サラ……?」
「リリ、避けて。こんな壁、ぶっ壊してやるわ」
リリが壁から離れるとサラが上級氷魔法で巨大な氷を壁にぶつけた。空間内に大きな音が響く。
ドゴォンっ‼
(ヒェェ〜〜〜〜〜っ‼)
「もういっぱぁ〜〜〜〜〜つっ‼」
ドゴォンっ‼
(み……耳がぁ……。耳が死ぬぅ……)
「くらぇ〜〜〜〜〜っ!!」
ドゴォンっ‼
三度大きな氷がぶつかった壁からパラパラと小さな欠片がこぼれたかと思った次の瞬間、完全に崩壊した壁の向こうに通路が見えた。