92話
「まずは人質の解放よ。悪代官面は、その後キッチリ締め上げてやる」
4人は頷いた。そして、リリが先頭に立ち屋敷内を歩いて行く。
(……おかしい……。見張りの1人も居ない……)
屋敷内はNPCの1人も居なかった。見張りどころか、お手伝い風のおばさんすらすれ違いもしないし、襖を開けても誰も居なかった。
「静か過ぎるな……」
「竹富もそう思う?」
「鳥の鳴き声や風の音すら聞こえないのは異常だろう」
屋敷内の異変に気付いていたのはリリだけではなかった。
「匂いが全くないのも妙だな」
「匂い? 里道、どう言う事?」
「食事を作っている匂いや女性の化粧の匂いすらしないんだ」
誰も居なくて、匂いすらしない。そんな状況が有り得るのか……。
(グラフィックは変わってない……。ただ、NPCが居なくて生活感がない……。入室したばかりの新築でも匂いはあるのに……)
だからと言って警戒は怠れない。罠がないとも限らないのだから。曲がり角を曲がる前には、必ず立ち止まり確認をしながら進む。
(水鏡の間の反対側だから……こっちね……)
水鏡の間の反対側に歩いて行くと同じような巨大な扉があった。
「ここに人質が居るのか? それにしては、見張りも居ないし、罠の一つもないとか妙だよな?」
リリの隣に立ったロディが巨大な扉を見上げながら言う。
「そうよね? 里長とか言うオッサンは人質を手放す事を良しとする感じじゃなさそうなのに……」
サラは里道と隣に立ち、ジッと扉を見詰めた。
「うん……。とにかく開けるよ。みんな少し下がってて。罠があったら対処出来る体勢でいて」
リリが言うとロディ達は扉から離れた。万が一を考慮して、竹富が身体強化をしてくれる。
(ありがとう、竹富……)
リリはスゥーっと息を吸い込んだ。
「我が名は光神リリオーペ。閉ざされし扉よ。我を通せ」
リリの胸元の要石が光を放つと扉が大きな音を立てて動き出した。
ゴオ……ン ゴオ……ン
(何か……来るか……?)
リリは、鞘からケーキサーバーを抜いて構えた。中からは冷えた空気が流れて来ただけで、それ以外は何もかもなかった。
「どう言う事だ……? 普通、何かあるだろ?」
警戒を解かずロディは扉の中を覗き込みながら言う。
「分からない……。どう言う事……? 人質が居るはずなのに……」
「弟は……居ない……のか……?」
あまりの何もなさに里道も茫然としていた。